2冊の太平洋戦争史の本~太平洋の奇跡 | あらやす日(本)誌

2冊の太平洋戦争史の本~太平洋の奇跡

最近、2冊の太平洋戦争史の本を手にした。

1冊目は、
今日、2011年2月11日から公開されている映画「太平洋の奇跡」の原作、「タッポーチョ 太平洋の奇跡」(ドン・ジョーンズ著 祥伝社)。
サイパン島で2万人以上のアメリカ軍に対して、タッポーチョ山の洞窟を根城にして50名弱の兵でゲリラ戦を行った大場栄・陸軍大尉の部隊を描いている。

小生はグアムには3回行ったがサイパンには行ったことがない。サイパンは高い山のない=隠れてゲリラ戦を行えるような場所のない平坦な島なので驚きだ。サイパン最高峰のタッポーチョ山の標高は450mくらいだ。

大場大尉のことをアメリカ軍将兵は畏敬の念を込めて「フォックス」(キツネ)と呼んでいた。当時、北アフリカ戦線で「砂漠のキツネ」といわれたのはドイツ陸軍のロンメル将軍だから相当名誉あるあだ名だ。

大場部隊のゲリラ戦が終焉したのは昭和45年12月、終戦後3ヶ月以上たってのことだった。
降伏した大場隊47名の兵士を賞賛してアメリカ軍は盛大なパーティを催したという。アメリカ兵も早く家族の元に帰りたかったのだろう。

1982年にこの本が初版上梓されたときは日本語版だけで英語版は出版されなかった。初版時の題名は『タッポーチョ「敵ながら天晴」大場隊の勇戦512日』。その後、絶版になり、今回の映画化を機に再版された

タッポーチョ 太平洋の奇跡 「敵ながら天晴」玉砕の島サイパンで本当にあった感動の物語 (祥伝社黄金文庫)タッポーチョ 太平洋の奇跡 「敵ながら天晴」玉砕の島サイパンで本当にあった感動の物語 (祥伝社黄金文庫)
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2冊目は、
「沖縄 シュガーローフの戦い」(ジェームス・H・ハラス著 光文社)。
沖縄上陸作戦ではノルマンディー上陸作戦の2倍以上のアメリカ軍将兵17万人が動員され、首里城西のシュガーローフ(日本名称:安里52高地)と呼ばれる小さな丘の周辺では9日間の激戦で2500名超のアメリカ軍将兵が命を落とした。日本軍・沖縄義勇軍の死者数はその倍ともいわれている。

沖縄シュガーローフの戦い―米海兵隊地獄の7日間 (光人社NF文庫)
沖縄シュガーローフの戦い―米海兵隊地獄の7日間 (光人社NF文庫)ジェームス・H. ハラス James H. Hallas

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シュガーローフの戦いでは、日本軍はさながら戦国時代の城防御戦のように3つの丘と谷・崖等をたくみに使って、敵兵を誘い込み撃破するという戦術で、多くのアメリカ将兵が犠牲になった。
このときの日本軍の主力は関東で編成された独立混成第44旅団・独立混成第15連隊。名前の通り混成部隊で、正規の部隊と言うよりはさまざまな正規部隊からの寄せ集めの部隊。シュガーローフの戦いを生き残った多くの日本軍・沖縄義勇軍は玉砕している。
アメリカ側の主力、第6海兵師団は犠牲者の多さから後に解散してしまい、戦史の記録が他の師団よりも少ないという。

この戦いは、欧州戦線を描いた「バンド・オブ・ブラザース」製作グループがアメリカ第1海兵師団の海兵隊員を主人公に太平洋戦争の実話TVドラマシリーズ「ザ・パシフィック」(The Pacific)第9話(全10話)にも入っている。このドラマはWOWOWで先日放映終了し、近々DVD化されるだろう。

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この激戦の地はその過去の歴史を完全に払拭するかのように造成され、いまや那覇市の新都心おもろまちの一部になっている。戦いの小さな碑を残すだけになった小さな丘は都市開発された現代的な建物群を見下ろしている。
新都心おもろまちの再開発時には多くの遺骨が出た。シュガーローフ一帯で日米双方共に日本軍・沖縄義勇兵士の遺骨収集をしていないため、おもろまち付近は数千の遺骨がいまだに一切の供養もされずにそのまま埋まっている。だから、日本側の正確な死者数は不明なのだ。

悲しいことに、
供養されていない遺骨は沖縄だけではなく、硫黄島もそうだ。
国内ですらこの有様だから海外は…。
東南アジア一帯でいまだに百万柱以上の遺骨が眠ったままだ。
戦後遺骨収集は細々といまだに続けられている。日本政府は、せめて狭い地域で多くの遺骨が眠る激戦地や玉砕地にあっては赤字国債を発行しても早急に収集して供養し遺品を家族の元に届けるべきだ。



共にアメリカ人の手による本。
日本人がこうした戦史を残せないのは誠に残念だ。
しかし、
それにはそれなりに納得すべき大きな理由が横たわっている。

「タッポーチョ 太平洋の奇跡」の冒頭で大場氏の言としてこう書いている。

”今日の日本は世界で最も発展している国の一つ…これを可能にしたのは…過去の完全な否定です。
そこには自己憐憫や反論の余地もありません。われわれは成し遂げた現在の進歩を実現するためには、過去を忘れ去り無視することが必要だったんです”と。

大場氏は当初、著者ドン・ジョーンズ氏からの執筆協力依頼を拒否したが、
事実は事実として後世に残すべきだと思うに至り、
小説「太平洋の奇跡」の執筆に協力したと言う。

思うに、
精神的・文化的・歴史的支柱を完全否定した経済至上主義の時代は終わった。
完全否定したものを半分くらいは取り戻して、
新たな時代を創成してゆくときだろう。

歴史上の事実を抹殺したり、歪曲したりせずに、
事実は事実として素直に後世に伝承し継承してゆきたいものだ。




【蛇足】
サイパン島で降伏する大場隊がタッポーチョ山を降りながら軍歌「歩兵の本領」を歌って行進したという。
この歌を桜チャンネルの番組で田母神氏が歌っていたのを思い出す。全曲通しで聞いたのはこのときがはじめてだった。

「歩兵の本領」といえば、
浅田次郎氏が自衛隊にいた時代を描いた作品に「歩兵の本領」がある。
この小説は、学生運動盛んな1970年代、まだ戦前の軍人が自衛隊で生きていた時代、しかし、今以上(今もか?)に社会的に認知されなかった(今もされないか?)時代の自衛隊をユーモラスに描いている。

歩兵の本領
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「歩兵の本領」を新旧2つのバージョンで聞き比べてみたい。





歌詞に「騎兵」「奉天戦」が出てくることからして20世紀初頭、日露戦争後の曲だろう。
奇しくも、
日本の自衛隊は現在23万人、ほぼこの歌の歌詞に出てくる数だ。



過激な戦後平和教育で洗脳されている脳みそで、
この「歩兵の本領」を平常心でつねに聞くのは困難だ。

しかし、
この「歩兵の本領」を歴史の一部として受け入れて、
少しでも平常心で聞けた瞬間、
戦前と戦後の間にある巨大な溝が埋まり、
そして、
はじめて戦後が終わったと実感できる。