荒尾市立図書館 郷土資料再発見の旅(第17回) 
『荒木一郎の親戚にして「青鞜」作家の荒木郁子』

荒尾市立図書館で働く増永荒雄と申します。荒尾市在住歴40年の私が、当館が所蔵する郷土資料とその魅力を綴らせていただいています。

図書館HP↓
 荒尾市立図書館 (arao-lib.jp)
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人が、たまたまその性別が「女」であるという理由で人としての権利を持てなかった時代。
選挙権はないわ、表札に名前は書かれないわ、不貞を働けば女性と男性の罰則に差があるわ、扱いは半人前だわ、冠婚葬祭の場では女はひいていなきゃいけないわ、祭りの打ち上げでは男性ばかりが宴席についてるわ、受験差別はあるわ…(いろいろ今でもありますね…)

そういった「じんけんじゅうりん」の時代に声をあげる勇気。今よりもっともっと命がけなのではないかと思います。


「百年前の彼女たちから、
百年後を生きるあなたへ」



と中扉に記されている、今をときめくブレイディみかこ氏著の『女たちのテロル』。(テロルとはテロリズム、です)



この本には今から約100年前に奇しくも同時代に声をあげた3人の女性の戦いが描かれています。

日本の金子文子、イングランドのエミリー・ディヴソン、アイルランドのマーガレット・スキニダー



戦うと言っても、単なる弁舌ではなく、文字通り命がけの「自分の人生を生きる」ための抵抗でした。

その結果爆弾入手の嫌疑で捕縛されたり、ハンストしたり、身を投げたり投石放火に、さらに狙撃手になったりともう「めちゃくちゃな」感じなのですが…。
とにかく3人とも生き様が激しくものすごいので…ぜひご一読いただきたいと思います。

 

日本における女性の人権運動で最も知名度の高いものといえば平塚らいてうを発起人とする「青鞜社」でしょう。


 原始 女性は太陽であった 


で有名な青鞜社。伊藤野枝。与謝野晶子。高村智恵子。

 

(伊藤野枝といえば前回の永畑道子氏著の「華の乱」の登場人物です…)


そのメンバーのひとりに荒尾市出身の父親を持つ「荒木郁子」という人物がいました。

ちょっと年配の方は歌手の「荒木一郎」さんの方をご存じだと思います。
「空に 星が あるように~」という歌詞の『空に星があるように』でおなじみの。(タイトルとAメロの歌詞が同じ。作詩作曲ご本人!)
*この曲BIGINやハナレグミがいまカバーしてます。

なんと、この荒木一郎氏は荒木郁子の姉(滋子)の子、女優の荒木道子の息子です。


と今回ご紹介するこの本
『荒尾にゆかりの「青鞜」作家 荒木郁子』
に書いてありました。

 




荒木郁子の父は東京は神田に「玉名館(ぎょくめいかん、と読む。たまなかん、じゃないよ)」という旅館を経営。

鹿鳴館を意識し、旅館でありながら多くの文化人が出入りする文化交流の場、いわゆるサロン的な場だったといいます。


 


有島武郎、徳田秋声、もちろん郷土ゆかりの宮崎滔天も訪れていました。
その支店ともいえる宿を若干17歳ながらまかされていた郁子は、青鞜の同人が宿を利用したことをきっかけに「青鞜」に作品を出すようになりました。

こういう運動は得てして妨害がおこりがちです。同人となった荒木郁子が書いた「手紙」という小説で「青鞜」は1912年発売禁止処分を受けます。


この小説はどのようなものだったのでしょうか。


「夫のある女性が恋人に…(後略)」

…ドキドキしますね。内容とあらすじはこの本に書かれています。57ページです。


さて、荒木郁子とはどんな人だったのでしょうか。


著者は荒木郁子と関係した人々の証言(著作物)など多くの文献からその風貌と人間性を浮き彫りにします。


「世話好き」とか「世間に明るい」とか「大きな黒い眼を持つチャーミングな美しい人」とか「酒好き」とか…興味深いですね。

 

青鞜社運動における郁子の位置はどのようなものだったのかも記されています。

同時にその後に続く「新婦人協会」「新日本婦人の会」「眞新婦人会」(名称がややこしい…)の動きについても

当時の報道の様子が記録されています。

女性運動って?の入門編にもおすすめですね。


著者は終わりに「…その「青鞜」の動きの中に、この荒尾生まれの父を持つ女性が存在したことを心に強く受け止めていたい。荒尾の方々にこうした女性が存在したこをと知って貰いたい、これからの人にも知っていてほしい―」と記しています。

青鞜社の他の同人に比べてあまり資料が多くない荒木郁子研究。図書館が誇る郷土資料のひとつです。



『荒尾にゆかりの「青鞜」作家 荒木郁子』(AA910-あら)中尾 富枝/著

『「青鞜」の火の娘』(A281.9‐なか) 中尾 富枝/著
『女たちのテロル』(280.4-フレ) ブレイディみかこ/著
『サフラジェット 英国女性参政権運動の肖像とシルビア・パンクハースト』(314.8-ナカ) 中村 久司/著
『余白の春 金子文子』(B913.6-セト)瀬戸内寂聴/著