*楓side*
年末はみんなそれぞれで過ごすことになった。
松潤は彼女の詩織ちゃんとお互いの実家に挨拶に行くらしい。2人は高校からの付き合いなので親もよく知っているみたいだけど、結婚のこととなると緊張するだろうなぁ。
カズと相葉ちゃんも実家で過ごすそうだ。カズは看護師になるために、年明けには専門学校の入試が控えている。お正月ものんびりとはしていられないようだ。
地元に実家があるこの三人とは対照的に、翔さんの実家は東北にある。
怜ちゃんを連れてしばらく帰るらしい。怜ちゃんを正式に養子として引き取ると決めたようだ。その手続きもあるので、長く滞在するみたいだった。
「で、智くんはどうするの?」
食事中、翔さんが聞いた。
「俺は、留守番」
「実家帰らないの?」
相葉ちゃんが聞くと、
「うん」
と答えた。
「両親は、弟の家族と一緒に旅行行くんだって。だから帰っても俺1人」
「そうなんだ」
「アトリエを片付けなくちゃいけないんだ。あの部屋、今月いっぱいで解約だから」
「そっか、あそこ空けていかなくちゃいけないもんね」
松潤が頷いた。
「そんで、楓ちゃんも留守番?」
そう聞いてきたのは翔さん。
「うん。もう帰るところもないしね」
ウケを狙ったつもりだったのに、みんな静かになってしまった。
「…あ、ごめん(笑)…じゃあ、この家の大掃除でもしてよっかなぁ!」
でも、待てよ…?そうなると大野くんと2人!?
「じゃあ…楓ちゃんと智くんで留守番…ね」
翔さんが言いづらそうにボソッと言った。
あたしの気持ちをくみ取ってくれたのか、それとも翔さん…心配してる?…嫉妬?
どちらでも嬉しいけれど、とにかくあたしは答えを求めるように大野くんをの方を見た。
「あぁ、俺はアトリエに泊まるから大丈夫だよ」
「あ…そっか」
翔さんはまだ少し不安が残るような感じで答えた。
「まぁ、なんかあったら家に来なよ」
カズが他人事みたいに笑った。
相葉ちゃんも松潤も、何か問題ある?という感じでキョトンとしている。
まぁ、それでいいか。
大野くんはもうすぐいなくなってしまうんだし。最後だからね。
夕飯の後、翔さんの部屋で荷物をまとめている怜ちゃんの様子を見に行った。
「楓ちゃんも一緒に来ると思ったのに」
「えっ」
思わぬ事を言われ、あたしは戸惑った。
「一緒に来てくれないの?」
なんであたしが…?と言いかけてからやめた。
そんな言い方、ちょっと冷たいよね。でも、怜ちゃんもあたしがお母さんになること望んでるのかな?
お母さんになるかどうか真剣に考えるとは言ったけれど、怜ちゃんの気持ちは何も聞いていなかったことに気がついた。
「あたしは、行かないけど…。お留守番してるね」
「ふーん…つまんないの~」
「翔さん、なんか言ってた?」
「え?翔くん?」
「あ、いや、なんでもないけど」
「そうだ!枕も入れなくちゃ!」
怜ちゃんはピンク色の小さな枕を自分のリュックに押し込んでいる。
「枕なんて持っていくの?」
「怜、この枕じゃなくちゃ眠れないの」
「へぇ、そうなんだ(笑)」
おませさんな所が怜ちゃんらしい。
怜ちゃんはあたしのことどう思ってるだろう。
怜ちゃんはお母さんが欲しいのかな?生まれた時からいないのに?
お父さんだけで十分だと思うかな?
あたしは物心ついた時から父親がいなくて、それでも寂しいとは思わなかった。
…いや、でもそれも、もしかしたら嘘かもしれない。どこかで寂しさを感じてはいた。
でも、ある日突然誰かがお父さんになってくれると言ったら、どんな気持ちになったんだろう。
「ねぇ、怜ちゃん」
「なぁに?」
「怜ちゃんは、お母さんがいたらいいのにって思う?」