*楓side*
本人に聞くのが一番早いと思った。
怜ちゃんは不思議そうにあたしのことを見ている。どうしてそんなことを聞くんだろう、と思ったかな?それともあたしの真意を読み取ったかもしれない。
怜ちゃんはしばらく黙っていた。彼女なりに、一所懸命考えているんだと思う。
そして、
「わかんない」
と言った。
「だって怜、お母さんいないもん。ずっといないもん」
確かにその通りだ、とあたしは思った。
怜ちゃんにはずっと母親なんていなかった。
そもそもお父さんが亡くなっていなかったら、あたしが母親になるかならないかなんてそんなこと、問題にはならなかったんだから。
何と言ったらいいのか分からなくなった。
自分で質問しておいて、その答えに言葉を返すことができない。
「楓ちゃん、聞こえた?」
「…あ、うん。ごめんね、考え事してた」
怜ちゃんはまた、整然と荷物をまとめ始めた。
どうしよう。ちゃんと聞くべきだろうか。
それとも自分で考えるべきだろうか。
本当は聞いてみたいけれど、もし「お母さんなんていらない」と言われたら…と少しだけ恐れている自分がいる。
つまりあたしは、怜ちゃんのお母さんになりたいと思っているんだ。なれるならなりたい、と。そのことにあたしは気づいた。
「ちゃんとやってるかー?」
ドアが開いて、翔さんが勢いよく部屋に入ってきた。
「あぁ、楓ちゃんいたんだ」
少しだけ気まずそうなのは、気のせいだろうか。
「終わったよー!ほら、リュックパンパンだよ!」
「え?なに、枕なんて持ってくの?」
「それさっき楓ちゃんにも言われたよ」
「だって普通枕なんて持ってかないぞ?おばあちゃんちにも枕あるぞ?」
「だから、怜はこの枕じゃないと眠れないの!」
「生意気だなぁ(笑)」
このやりとりを見ていると、やっぱり癒される。
あたしもいつかこの中に入れるといいな、と心から思えた。
「あのね怜ね、楓ちゃんも来てくれると思ってたんだよ」
「え?楓ちゃんが?」
「そうだよ。ねぇ楓ちゃんも行こうよ~、つまんないよ~」
翔さんは少し戸惑ってあたしを見た。
「…来る?」
彼は伏し目がちにそう聞いた。
来て欲しいの?
付いて来て欲しいのかな?
いや、でもあたしはまだちゃんと決めてない。
1人になってちゃんと考えるって決めたんだ。
「大丈夫だよ、怜ちゃん。翔さんね、一緒にオセロしてくれるから」
あたしはそう言って怜ちゃんに笑いかけた。
苦笑いする翔さんにも、笑いかける。
「え~楓ちゃんとやりたかった、オセロ」
怜ちゃんは口を尖らせていじけた。
「なんだよ~!俺じゃ悪いかよ~!」
翔さんが怜ちゃんにくすぐりにかかる。
「きゃははははは!嘘っ!翔くんとオセロするからっ!!きゃーやめて!きゃははは!」
あたしはそれを見て大笑いしながら、部屋を出た。
