Compadrón(コンパドロン)
Juan D'Arienzo - Héctor Mauré(1942)
イキった若者=「見かけ倒しのヤンキー」に対する激烈なディスソング。
まるでラップバトルみたいなタンゴ。
「コンパードレ」「コンパディート」って何者?
19世紀末〜20世紀初頭のブエノスアイレス。
港町の下層移民街で生まれたタンゴには、街のアウトローたち(≒コンパードレ/コンパディート)が深く関わってる。彼らはタンゴを女と名誉を賭けて踊ったり、演奏で勝負した。
- コンパードレ(compadre)
= 威勢がよく、男気も見せる「街の兄貴分」的存在。
時にナイフ(ファカ)を抜くヤバい奴も。 - コンパディート(compadrito)
= もっと小物。「イキった若造」「カッコだけのやつ」って感じ。
でもタンゴやファッション、決闘で自分を誇示する文化をつくった。
全体の翻訳(意訳)
Compadrito a la violeta,
si te viera Juan Malevo,
qué calor te haría pasar.
No tenés siquiera un cacho
de ese barro chapaleado
por los mozos del lugar.
バイオレットの香水をつけたお坊ちゃんコンパドリートよ、
もし“本物の男”フアン・マレーボがあんたを見たら、
恥ずかしさで汗びっしょりにさせられるだろうよ。
あんたにはこの街の若者たちが踏みしめた泥の
ひとかけらすらない。
「フアン・マレーボ」は架空の伝説的guapo(ヤクザ風アウトロー)の象徴。
今のお前には、「ストリートで踏みしめたリアル」が何一つない、と罵倒。
El escudo de los guapos
no te cuenta entre sus gules
por razones de valer.
Tus ribetes de compadre
te engrupieron, no lo dudes.
¡Ya sabrás por qué!
男たちの紋章のなかに、
お前の名前は刻まれていない。
なぜって、値打ちがないからさ。
その「俺はコンパドレだ」って肩書きに騙されたな?
もうすぐ思い知ることになるさ。
タンゴ社会には見えない勲章(escudo)がある。
真の男だけが持つもの。今のお前にはその資格はない、と。
(サビ)
Compadrón,
prontuariado de vivillo
entre los amigotes que te siguen,
sos pa’ mí, aunque te duela,
compadre sin escuela,
retazo de bacán.
コンパドロンよ(=調子乗りの大物気取り)、
仲間内ではイキがってるが、
俺から見りゃ「教養なきコンパドレ」、
金持ちの切れ端(=成金くずれ)だ。
ここ、めちゃくちゃ痛烈。
- 「コンパドロン」 = compadre + matón(威張る奴)の混成語。
- 「retazo de bacán」 = 成金の残りカス、つまり見せかけだけ。
Compadrón,
cuando quedes viejo y solo (¡Colo!)
y remanyes tu retrato (¡Gato!),
notarás que nada has hecho…
Tu berretín deshecho
verás desmoronar.
コンパドロン、年老いて孤独になって、
自分の昔の写真を見返したときに気づくだろう。
「俺は何も成し遂げなかった」って。
お前のくだらない虚栄心も、
崩れ落ちるのさ。
未来の破滅を予言するパンチライン。
“お前の人生、見かけ倒しだったな”という、魂への直撃弾。
この曲はまさに、
「タンゴの起源に宿るリアル vs 現代の見かけ倒し」の対決。
D’Arienzoはこの曲で、本物のguapo(ヤクザ者)たちへの敬意を込めてる。
そして「見せかけだけの男になるなよ」と若者たちに叱咤している。