北斎 『西瓜図』が暗示しているもの | アダルトマダム、かく語りき。

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葛飾北斎の個性的な西瓜の図。

80歳のときの肉筆画。

実は七夕の儀式を描いたもの、

だったらしい・・・

 

 

 

葛飾北斎 『西瓜図(すいかず)』

天保10年(1839) 

 

 

1幅 
絹本着色 86.7×29.7cm 
三の丸尚蔵館 

 

画像出典 宮内庁 

http://www.kunaicho.go.jp/culture/sannomaru/syuzou-13.html


 

 

 

 

 

 

◆◆

 

8月9日が旧暦7月7日ということで

七夕の記事、続きます。

 

 

北斎の西瓜図。この奇妙な絵は

類まれなる天才の個性的な表現、

ないし絵画の何らかの実験による

作品だと長らく思われてきました。

 


しかし近年になって、

実は七夕の古来よりの儀式である

乞巧奠(きっこうてん、きこうてん)を描いた

ものではないか、といわれているんです。

 

 

もう一度、全体画像を見てください。

確かに妙な絵でしょう?

 

 

 

 

どうしてこれが七夕に見立てた絵なのか、

これからなぞ解きをしていきましょう!

 

 

ただ、なにぶんにも専門外のことですので

細かいところで誤謬などありましたらご指摘くださいますよう

お願い申し上げます。

 

 

 

 

 

七夕の風習とは・・・?

下矢印

そもそも七夕の習慣というのは奈良時代に中国から入ってきたもので、

その儀式は 乞巧奠(きっこうてん、きこうてん)と呼ばれ、宮中行事の

1つとして定着。


 

乞巧奠 (きっこうでん、きこうてん) とは・・・?

下矢印

織姫にちなんで、織物や裁縫などがうまくなるようにという願いをこめた

女性のお祭りであると同時に、織女星と牽牛星の逢瀬という星伝説に

ちなんだ、男女の出会いや星のよりあいといった要素も加味された行事で、

平安期からは宮中のみならず貴族の間でも行われた。

 

 

 

 

 

 

この西瓜の絵が見立てているのは、

まさに乞巧奠の行事の際の

星の座のしつらえ、なんです。

 

 

星の座とは・・・?

下矢印

星の座とは織女星と牽牛星へのお供え物を並べた

乞巧奠(きっこうてん、きこうてん)飾りつけのこと

 

 

現在でも冷泉家の乞巧奠は古式ゆかしき姿を伝えるものとして知られていますね。

 

 

 

そのしつらえは・・・?

下矢印

 

 

冷泉家の 乞巧奠の「星の座」を

静岡市美術館で再現した図

 

静岡市美術館のサイトより http://www.shizubi.jp/blog/cat20/

 

角盥(つのだらい)-画面中央の黒い盥―には梶の葉が浮かんでいる。

九本の灯台に明かりをともし、海の幸、山の幸を各九種、秋の七草、五色の絹・糸、

そして雅楽の楽器(琴と琵琶)を飾る。 -上記サイトのテキストを抜粋・構成

 

正面奥には5枚の梶の葉と五色の糸が

綱からぶら下がっているのがみえますね。

 

ここにある 角盥(つのだらい)と梶の葉、

そしてぶらさがる五色の糸が、

これからお話しするコトのポイントとなります。

 

 

 

 

 

 

こちらは江戸期の図。

 

場所も宮中ではなく、したがって、平安期の宮中や貴族の屋敷での様子とは

だいぶ違っているようですが、北斎の絵について語るには参考にはなるのでは

ないかと思います。
 

画像お借りしました。

http://ii-nippon.net/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E9%A2%A8%E7%BF%92/1810.html

七夕 乞巧奠

 

 

ポイント① 上からぶらさがる糸の束

 

上からぶら下がっているのは、織姫にちなんで糸ですね。

本来は5色の絹糸(ないしは糸をより合わせたもの) をぶら下げるのが

正式のようですが、ここでは紅白2色ないし3色のようにも見えます。

 

 

 

ポイント② 盥(たらい)の水鏡

 

盥(たらい)に水を張って水鏡にし、そこに星を映します。

実際の夜空ではなく、小さな水鏡の中に

星の合をみる・・・素敵ですね!

 

 

ポイント③ 水鏡に浮かぶ梶の葉

 

水に浮かぶ梶の葉は、和歌を書きつけるための葉として

この行事の定番の供え物。

後にこれが、現在の短冊に変化。

 

また梶の葉の「かぢ」の音は、船の舵に通じることから、

星を映した水の上で、天の川をゆく船の舵という意味合いも

持っていたようです。

 

こちらもロマンチックな見立てですね!

 

 

 

 

 

ここでもう1枚、 乞巧奠の図を。

酒井抱一 『乞巧奠図』

 

酒井抱一

《五節句図》五幅対のうち《乞巧奠図》大倉集古館蔵

 

 

主要部分をアップにしてみます。

下矢印

 

上からぶら下げられた紅白の糸 

そして下に置かれた角盥(つのだらい)

さらに台の上の梶の葉

 

ポイントがキッチリ揃ってますね!

 

 

 

もう一枚、酒井抱一の絵を。

『七夕図』

 

酒井抱一 

『七夕図』 根津美術館蔵

 

 

 

同様に主要部分のアップ

下矢印

 

ぶらさがる紅白2色(もしくは五色?)の糸。

そして水を張った角盥(つのだらい)

梶の葉。

 

 

以上、酒井抱一作品2点の画像:public domain

 

 

 

ここで改めて、北斎の『西瓜図』!

ほら、だんだん謎解きが

できてきたでしょう?

 

 

西瓜の皮を細く剥いたものが2本

上からぶら下がっています。

しかも赤いところと白いところ。

 

これは紅白の糸に見立てているのではないか、と。

 

 

 

 

 

 

そして半分に切られた西瓜と和紙。

その上にのった包丁。

 

 

この西瓜は角盥(つのだらい)のメタファー。

西瓜は水瓜とも呼ばれ、

水鏡をも暗示しているようです。

 

 

包丁の柄の部分が、 角盥(つのだらい) の角の部分を表現。

 

 

さらに包丁―金属は鍛冶に通じ、

梶の葉を導き出します。

 

また梶の葉は和紙の原料。水鏡に見立てられた西瓜の上の和紙は

梶の葉のメタファーでもあるのではないかと思います。

 

 

さらに梶の葉は、天の川を渡る船の舵へと

つながっていきます。

それらすべてを北斎は意図的に描きこんでいるのです。

 

 

 

 

 

画像悪いですがわかります?

 

包丁の刀身に白い点が・・・。

これ、星に見立てているんです!

 

右側の「平たいVの字」のように見える3点が、織姫の三ツ星 

その左側の3点が、牽牛星を表しているんです!

 

すごくないですか!? ←若者言葉(笑)

 

これ、水鏡にうつった星の合を

表現しているんですね!

同時に、星の合を助ける船の舵( 梶←鍛冶)をも・・・!

 


 

 

 

 

 

この素晴らしい謎解きをしたのは、美術史家の今橋理子さん。

1964年生まれ。現在学習院大学教授。

 

それまで、ただ個性的で変わった図だと思われていた北斎の『西瓜図』を

酒井抱一の『七夕図』と比較して、ほぼ同じ構造を持っていると分析。

 

すごい慧眼だと思います!

 

 

 

 

 

さらに私が興味深いのは

この絵が、三の丸尚蔵館にあり、

宮内庁の管理下にあるというコト。

 

画像 千代田区観光協会のサイトより

http://www.kanko-chiyoda.jp/tabid/389/default.aspx


 

ということは、

これは天皇家の持ち物だったことを意味します。

しかも光格上皇よりお褒めの言葉を賜ったと

伝えられる作品。

 

狩野派などの御用絵師ではない、

浮世絵師の北斎の作を帝が所持していた、

(ひょっとして発注した?)

そして愛でられていたというのが、

大変新鮮な驚きです。

 

 

注 この絵が描かれたのが1839年。光格上皇の崩御は1840年。

  上皇最晩年にこの絵に出会ったということに―。

 

 

 

 

 

 

ところで

今まで七夕に関して書いた記事の中で

なぜか七夕と西瓜についての言及が多かったんですけど

 

 

名所江戸百景 市中繁栄七夕祭 《部分》

歌川広重(初代)画

 

 


今回たまたま、葛飾北斎の西瓜図にぶち当たりまして・・・。

 

それがまさか、西瓜にみせかけて、実は

七夕の儀式・乞巧奠 (きっこうでん、きこうてん) を

描いているという代物だったとは・・・!

 

おお、ついにド真ん中、ストライク!みたいな(笑)


 


 

・・・・・・・・・・・・・・・・・
 

広重の浮世絵をご紹介した記事

「江戸の七夕光景 西瓜なんかぶらさげちゃって・・・! 」は

下矢印

 こちらから 

 

 

名所江戸百景 市中繁栄七夕祭

歌川広重(初代)画

安政年間(1854~1860)

 

 

 

 

 

 

 

 

長い記事をお読みくださいましてありがとうございました!

 

 

また内容につきましては、なにぶんにも専門外のことですので

細かいところで誤謬などありましたらお詫び申し上げます。

 

 

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Aran-Mira 

 

photo by あらんみら (C)Aran-Mira


 

 




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