不思議の国のカノジョ~プロローグ~
「何なんだっ!お前らは!」
空は闇に染まっている。
フクロウが鳴き、木が風に吹かれサラサラと音をたてていく、その閑静な森の中で男は息をぜぇぜぇと吐きながら駆けていく。
男は何故、森を駆けているのか。理由は単純。
追いかけっこをしているからである。
―いや、追いかけっこ、というよりは鬼ごっこに近い。
それで、誰が鬼なのかと言うと、彼の後ろを走っている、鎧をきて、剣を持って男に殺意を向けている者のことだ。
中世ヨーロッパにいる兵士の姿に似ている。
捕まったら、死ぬ鬼ごっこ。
男は死ぬもんかと、必死になって逃げている。
兵士は男のようにぜぇぜぇとも言わずに無言で、追いかけている。
そして―
男は切られた。ブシャアと鮮血があたりに飛び散る。兵士は鎧に血を浴びながらも冷静に鞘に剣をしまい、男の体を片手で持ち上げる。
兵士は何事もなかったかのように自分がいた街へと帰って行った。
山は静けさを取り戻した。
鬼さんが勝ちました。
鬼ごっこは終わりました。