
チキンライスにスパゲッティ(パスタ、ではありません。あくまでスパゲッティ)、
ハンバーグにプリン、飾りの万国旗と、量は大人の半分以下なのに、手間は倍以上かかる。
そのくせ価格は高くできない…。
「お子様ランチ」というのは、実のところ
料理長(これもシェフではありません。あくまで料理長)泣かせだという時代がありました。
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料理に限らず、世の中には「お子様向け」だと思ってなめちゃいけない作品がたくさんあります。
子供には嘘やごまかし、小難しい言葉も、生半可な知識も、大人だけの暗黙の了解も、
小手先のテクニックも通用しませんから。
そういう意味では、シュルツの「ピーナッツ」シリーズも
ヤンソン女史の「ムーミン」シリーズも
オリジナルは「子供向け」とは思えないような、深い人生哲学に溢れています。
ロシアが生んだ最高にキュートなキャラ(政治家連中は全然キュートではありませんが)
「チェブラーシカ」も、一見ほのぼのとしてはいますが、その実かなり深い“子供向け”作品。
オリジナルは全部で4本つくられていますが、特に第1作が優れています。
(昨年、日本のスタッフによる素晴らしいリメイクが公開されましたが)
好物のオレンジを食べながら居眠りしていた南国の小さな生き物が間違って箱詰めされ、
ソ連(ロシアではなくソ連です。しかもフルシチョフの時代)の果物屋さんで目を醒ましたのが
チェブラーシカ。今で言うUMA(未確認動物)ということで
動物園では引き取ってもらえず、とりあえず電話ボックスで暮らすことになります。
そこで見かけた「友達求む 若いワニより」という張り紙に惹かれて
そのワニに会いに行ったチェブラーシカは、「きみは何者なんだい?」と聞かれ
「ぼくにもわからないの」と答えます。
「チェブラーシカなんて、辞典にも載っていないよ」
と言われた、猿と子熊のミックスみたいな生き物は、そこでこう答えるのです。
「それじゃぁ、ぼくは友達になれないの?」
そこでワニのゲーナは「そんなことはないよ」と言って彼を慰め、歓迎します。
“若いワニ”と張り紙に書いたゲーナは、動物園でワニとして働く孤独な中年。
チェブラーシカを始めとして、捨てられた子犬や、優しい少女、孤独な猫や孤独なキリン、
孤独なライオンや孤独なおじさん達といっぺんに仲間になって、
その後彼らはいかにも60年代のソ連らしい「連帯」を作っていくのですが、
この話の「キモ」は、実はこのワニが、優しさと教養を備えた完璧な紳士でありながら
動物園で見せ物のワニとして「働いている」ということ。
それは、まさに都会で生きる現代人そのもの、私たち自身の姿ではありませんか。
そして異邦人チェブラーシカは、人間社会に来るまでは、
ただ人間に認知されていなかっただけの、ごく普通の生き物だったはず。
ですから、生まれた場所では「あなたは何者?」なんて聞かれる事はなかったのです。
ところが、初めての人間社会において
「自分は何者かを説明できる自分でなければならない」
「誰かにとってわかりやすい自分でなければならない」というルールがあることを知ります。
突然、アイデンティティの確立を迫られ、
不安と孤独感に襲われる(そんな表情の)チェブラーシカ。
しかし、「何者?」と聞いたゲーナでさえ、実は本当の自分が何なのかわからず
「友達求む」と訴えるほど、やり場のない孤独に追い込まれていました。
チェブラーシカは、本当は鏡に映ったゲーナ自身だったのです…。
…そんな事を言うと、なにやら哲学的な話のように聞こえますが、
このキュート過ぎるアニメーションは、小難しいオトナの事情を訴える作品ではありません。
「君が何者かである必要なんかない。君は君であって、君以外の誰でもないのだから…」
ということを、さりげなく教えてくれるのです。
◆
「ところで、三毛ランジェロさんて、何をやっている人なんですか?」
色んな場所で、私も、チェブラーシカが言われたような質問をしょっちゅうされています。
「う~ん…。自分でも良くわからないんです」
そんな風に答える私は、まるで可愛くないチェブラーシカ。
同時に、心の中で「どうせアンタも孤独なワニなんじゃないのか?」なんて呟いてもいます…。
さて、
就職できなかった大学生も、職探しに奔走する我が同輩も
「何者かでなければならない」なんて悩み、自殺にまで追い込まれる必要があるのでしょうか。
わかったような顔をして地位や名誉を欲しいままにする連中も
本当は何もわかってはいないのです。
というより、わかる以前の「何も考えられない」連中だったりするのです。
誰が何と言おうと、私は私であり、あなたはあなたです。
人を人として認めるために、職業とか名前とか国籍とか
そんなものが必要なんでしょうか?
もっと自分に正直になって、もっと自由に生きてみませんか?
メールとかカチャカチャ打たなくても、友達は世界中に、そしてあなたの心の中にいますよ。
チェブラーシカやゲーナ達のように…。