【コラム・天風録】不安な受験

2022/1/16 06:34 (JST)1/16 07:05 (JST)updated

株式会社中国新聞社



天風録


広島を中心に中国地方や国内外の最新ニュース、カープやサンフレッチェの情報をお届けします。新型コロナウイルスの最新情報も掲載中。

 どうか試験に受かりますように―。受験生が願いを込めた絵馬が近所の神社に何枚も掛かっている。志望校名まで丁寧に記した一枚から力のこもった太い字のものまで。コロナ感染を警戒しながら神頼みも大事と、大勢がお参りしたようだ▲受験生もタイプはいろいろ。準備万端整えても自信を持てない人、あとは運任せと開き直る人もいる。まず第一関門は共通テスト。ところが初日のきのう事件が起きた。緊張でこわばった心が一層動揺したことだろう▲試験会場の東京大近くで高校2年の少年が受験生ら3人を切りつけた。「勉強がうまくいかず事件を起こして死のうと」。そう供述したという。何とゆがんだ考えか。1年先の受験を思い悩んだのか。それでも人を傷つけるなど言語道断だ▲迷走した大学入試改革。「落ち着いて挑める入試とは―」。この問題に文部科学省は答えよ。受験生は不安を感じている。コロナ対策という課題まで加わった。大変な状況だが、どうか持てる力を発揮してもらいたい▲コロナの影響で共通テストを受けられなかった人は、個別試験だけで判定を―。今回、文科省は直前になって全国の大学に求めた。この対応は正解だろうか。



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東大刺傷事件 逮捕の17歳少年が「勉強」と題しつづった卒業文集と意外な家庭環境

1/18(火) 13:52配信

日刊ゲンダイDIGITAL



事件現場となった東大農学部正門前(C)日刊ゲンダイ

「来年、東大を受ける」

 17歳の少年はこう叫びながら、男女3人を次々、ナイフで刺していった。

 東大農学部の正門前の路上で15日朝、受験生ら3人が無差別に切り付けられた事件。殺人未遂容疑で逮捕された名古屋市の東海高2年の少年は事前に凶器の包丁やナイフ、ノコギリを購入。当日、現場周辺を下見するなど周到に準備し、犯行前は証拠隠滅を図り、事件の計画を立てるのに使ったスマホを捨てていた。

 少年は事件前日の14日午後11時ごろ、高速バスに乗って名古屋を出発。家を出た時は私服だったが、犯行前に学生服に着替えていた。家族からは失踪届が出されていた。

 少年は逮捕時、「医者になるため東大を目指していたが、成績が1年前から振るわなくなり、自信をなくした。医者になれないなら、人を殺して罪悪感を背負って切腹しようと考えた」と話していた。

 少年が通う東海高校は愛知県下一の進学校。中高一貫の超エリート校で、医学部合格者数は14年連続で全国トップ。少年は高校から進学し、「大学受験の最難関」といわれる東大理科3類を目指していた。

 中学の卒業文集では「勉強」という題名をつけ、こうつづっていた。

<まず順位というものが自分に大きな影響を与えました。特に二年生の時、大暴落を受け心が折れかけたことがあります。しかし、逆にそれがきっかけになり、後の学習態度や方法が一掃され、上位に追いつめることができました>

 少年は両親と中3の弟、小4と小1の妹の6人暮らし。一家は昨年3月、敷地面積70.98平方メートル、延べ床面積118平方メートル、3階建ての新築戸建て住宅を購入。手狭だった隣町のマンションから引っ越してきた。近隣住民が言う。

「お母さんとお嬢さんが、一緒に犬の散歩をされてるのを、よく見掛けます。ご両親とも気さくで明るく、常識があって、きちんとした方ですよ。引っ越しされてまだ間がないので、あまり詳しいことは知りませんが、ごく普通のご家庭だと思います」


■超エリート進学校で成績は中下位

 少年に医師を志さなければならない事情があったわけではない。

「お父さんは私立大学で事務職員として働き、お母さんもパート勤務をしていたようです。進学校になると高2までに高校の勉強をすべて終え、残り1年間は受験対策に取り組むなど、ペースが速い。息子さんは高校から入学したため、内部進学した同級生に追いつけるか、お父さんも心配していたようです。進学校にありがちですが、中学でいくら成績が良くても優秀な生徒ばかりが集まっているので順位が下がり、こんなはずじゃなかったと打ちのめされる生徒は多い。息子さんも校内の成績は中下位で、『このままだとかなり厳しい』と漏らしていたそうです。お父さんも、息子さんが成績で悩んでいることを知っていました」(学校関係者)

 受験生を抱える親は他人事ではない。


■スマホと私服見つからず

 東大前で、大学入学共通テストの受験生ら3人が刺された事件で、逮捕された名古屋市の私立高校2年の少年(17)のスマホが見つかっていないことが分かった。

 事件前に着ていた私服も発見されておらず、警視庁は、いずれも少年が襲撃前に処分した可能性があるとみて調べている。

 少年は刃物3本のほか、瓶やペットボトルに入れた可燃性の液体約3リットルと、着火剤らしきものが入ったトートバッグを所持。現金2万円などが入った財布は東大前駅で見つかった。



https://article.yahoo.co.jp/detail/27ce85d310129544e8962e93235edbd9dd8b0b4c





東大刺傷事件 東大医学部卒の精神科医・和田秀樹氏が語る「医学部志望の苦しみ」〈dot.〉

1/19(水) 14:39配信

AERA dot.



刺傷事件直後の現場の様子

 15日に大学入学共通テストの会場である東京大学農学部の正門前で起きた刺傷事件は、世間に衝撃をもたらした。殺人未遂容疑で逮捕された名古屋市内の私立高校2年生の少年(17)は、東大医学部志望だったと言われている。

【写真】東大を7回落ちても挑戦し続ける芸能人はこの人

 少年は警察の取り調べに対して、「医者になるために東大を目指して勉強を続けていたが、1年くらい前から成績が上がらず、自信をなくしていた」「東大を受験する予定だったが、勉強しろとの圧力が強く勉強が嫌だった」などと供述しているとされる。なぜ少年はこれほど追い詰められてしまったのか。医学部志望特有の苦しみやプレッシャーについて、東大医学部出身で精神科医の和田秀樹氏に聞いた。

*  *  *
 逮捕された男子高校生は 愛知県内でもトップレベルの進学校に通う2年生。灘高校出身で数多くの受験テクニック本の著書もある和田氏は、超進学校の雰囲気をこう振り返る。

「私の高校でも、医学部を志望する人の多くは(医学部にあたる)東大理科III類(以下、理III)を目標にしていて、最低でも京大医学部といった雰囲気がありました。灘、開成、筑駒といった超進学校では、医学部を目指すなら東大理IIIに行くべきだという刷り込みがあって、そうではないと成功したとは言えないような風潮がある。ですが、いざ医者になってみると、医学部ほど大学名が役に立たない分野はないと感じることは多いですよ」

 しかし、進学校の医学部志望の生徒の間では、偏差値第一主義の考え方が根強く残っているという。偏差値順に上から受けていくようなスタイルは、塾による刷り込みも影響しているのではないかとみる。

「偏差値第一主義の傾向は、特に理IIIを多数輩出している塾に顕著です。こうした塾では昔よりも生徒や保護者が、学校より塾の言うことを聞くようになっていると感じます。ですが本来、医者になるのなら特定の大学にこだわるほうがおかしい。私が受験指導をしているときは、志望校と併せて他の医学部との併願を勧めています。ですが愛知県はもともと国公立志向が強く、より偏差値の高い国立の医学部を目指すことがゴールだと思っている子は少なくない。プレッシャーは大きいと思います」


 今回事件を起こした少年は、1年後に受験を控えた2年生だ。まだ時間はあるようにも思えるが、「面談で東大は無理という話になって心が折れた」と供述しているように、当人としては自身の成績に絶望していたようだ。

「中高一貫校では、高2までに高3の勉強を終える学校が多く、高2あたりで一気に勉強内容が難しくなります。そのため、早い段階で行き詰まりやすい。おそらく、この男子生徒はものすごく頑張って努力するタイプで、猛勉強してきたのだと思います。ですが、成績が上がらないまま努力しても、たいていは(悩みの)解決にはつながりません。やり方を変えないまま猛勉強を続けても、どうしても限界があるからです。そんな時、(成績が伸びないのは)地頭やセンスの問題だと思い込んでしまい、『俺はバカなのだ』と自己否定につながってしまう」

 和田氏自身、行き詰まった時は受験テクニックで乗り越えた。その後、受験テクニックに関する数々の著書を世に送り出してきたが、最近はかつてと比べるとテクニック本が売れなくなったという。

「テクニックを変えれば受かるかもと思ってくれる受験生がすごく少なくなったと感じます。2005年のテレビドラマ『ドラゴン桜』(1期)の放送時には東大受験ブームが起きましたが、昨年に『ドラゴン桜2』が放送された際には全くと言っていいほど東大受験ブームが起きていないのが象徴的です。今の子たちは、行き詰まったときにテクニックではなく根性で乗り越えようとしてしまう傾向があると感じます。ですが、的外れな努力ではダメ。成績が上がらないのなら、根性よりもやり方を変えたほうがいいという発想がないといけません。今は本やインターネットで受験テクニックの情報がたくさん出ているので、地頭が悪い、センスがないと嘆く前に、別の方法を試すだけ試してほしい」

 スポーツなどでは根性論では勝てないことがわかって科学的なアプローチをするようになったものの、受験の分野ではいまだに根性論の考え方が根付いているという。根性論が浸透している限り、精神的に音をあげてしまう学生は後を絶たない。


「学校や塾も旧態依然としたやり方で指導していては、結果的に子供の自尊感情を傷つけてしまうと思います。努力で勉強を乗り切ろうとさせず、勉強への向き合い方を教えてあげたり、実際の医者の世界について教えてあげたりするなど、広い視野を与えるようなアドバイスが重要だと思います」

 そして、改めて「医者ほど大学名が役に立たない分野はない」と強調する。和田氏によると、医療分野における学歴主義からの脱却の転換点となったのは、2004年の「臨床研修制度の必修化」だという。制度の導入前は、東大病院をはじめとする複数の名門病院では、東大卒業生以外が研修医として入るのは難しい状況だった。だが、必修化以降は大学名ではなく、大学の成績が重要視されるようになったのだという。

「結果的に、希望の病院で研修をするためには、偏差値の低い大学のほうが(相対的な成績が高くなり)、かえって有利になることもある。東大理IIIに入れる実力があったとしても、あえて下の大学に行ったほうが得をする可能性もあるのです。その後の病院の出世や大学教授へのなりやすさも、必ずしも偏差値の通りになっていない。ほかの学部なら官僚になりやすい、会社で出世しやすいといったように学歴が有利に働く状況も多少はあると思いますが、医学部の場合は、たとえば東北大や慶応大と比べても、東大出身者が医者として出世できるとは言えません。ある意味で、東大の中では医学部が一番割に合わないと思います」

 先を見通す広い視野を持っていれば、人生に絶望することも、過度のプレッシャーを感じることもなかったのではないか。

「ほとんどの医学部受験生たちは入学後の事情を知らず、少しでも偏差値の高い大学に入りたい。保護者も同じで、医者の世界を知らないまま学校名にこだわっている親は多いと思います。理IIIを輩出するような塾では毎日5時間もかかるような膨大な量の宿題が出されることもあり、受験生には世の中のことを知るための時間がない。実際、東大医学部に入る学生たちの多くは、世の中のことを知らないまま勉強をしてきた人が多いと感じます。だからこそ、受験生にはその狭い視野を広げる大人の存在が必要なのです」

事件を起こした少年にそうした大人の存在がなかったのだとすれば、残念に思えてならない。(AERA dot.編集部・飯塚大和)



https://news.yahoo.co.jp/articles/f35ae7d346aff8ce0a98ccb5a8a435beca50f127