東大前刺傷事件 愛知名門校・高2少年「犯行直後の異様行動」

1/16(日) 19:02配信

FRIDAY



事件直後の現場の様子。警察官が慌ただしく東大内外を捜査している

「どこから来たんだ!」

1月15日朝8時半過ぎ、東京・文京区の酒屋「高崎屋」店主の渡辺泰男さん(82)は、店の前で異様な光景を目にした。現場は農学部が入る東京大学・弥生キャンパス「農正門」前の路上。門の近くにうずくまっていた学生服のような黒い服を着た若い男が、警察官4~5人に激しく問い詰められていたのだ。

【画像】東大前刺傷事件 高2少年を逮捕「衝撃の現場」写真

渡辺さんが振り返る。

「消防車や救急車のサイレンがけたたましく聞こえたので、『何事だろう』と思って外に出たんです。当日は受験(大学入学共通テスト)の初日でしたが、妙に騒々しいなと感じて……すると門の奥に1人、手前に1人倒れ、警察官が声をかけていました」

最高学府・東大前の路上で、前代未聞の刺傷事件が起きた。愛知県内の名門校に通う高校2年の男子生徒(17)が、刃渡り約12cmの包丁で通行人3人を背中から次々に切りつけ「来年、東大を受ける!」と絶叫。切られたのは72歳の男性(東京都豊島区)、受験生の17歳の女子生徒(千葉県市川市)と18歳の男子生徒(同浦安氏)だった。

「加害者の少年が通っているのは、名古屋市内でも有数の私立の進学校です。毎年、東大と京大に多くの合格者を出し、医学部に進学する学生も多い。少年は犯行動機について、こう語っています。『医者になるために東大を目指し勉強していたが、1年前から成績が振るわなくなり自信をなくした。医者になれないなら、人を殺して罪悪感を背負って切腹しようと考えた』と。

少年は前日14日から行方がわからなくなっていて、父親が愛知県警に不明届を提出していたそうです。親に無断で外出した少年は、『名古屋から15日朝6時に東京へ着く高速バスに乗った』と話しています」(全国紙社会部記者)

少年は包丁の他に、折りたたみ式のノコギリやナイフを所持していた。

「持っていたバッグからは、可燃性の液体の入ったペットボトルが複数見つかっています。『事件前、東大近くの駅で火を放った』とも供述。証言通り地下鉄南北線『東大前』駅構内で木片が燃え、改札口付近で着火剤のような液体がまかれていた。少年の犯行と考えられています。警視庁は無差別殺人を計画したとして、少年を現行犯逮捕しました」(同前)


◆何を聞かれても無表情

異様なのは、犯行直後の少年の行動だ。近くにいた警備員が「落ち着いて、落ち着いて」と諭すと、包丁を地面に投げ捨てヘタリこむ。持っていたバッグなども、そばに置いた。大通りを隔て一部始終を目撃していた、前出の「高崎屋」店主・渡辺さんが語る。

「少年はメガネをかけ、無表情でした。駆けつけた警察官の問いにも、放心したように一切答えない。5分から10分ぐらい、そんな状態が続いたでしょうか。痺れを切らした警察官の、『どこから来たんだ!』というムキになったような声が聞こえました。それでも少年は返答しない。仕方なく警官たちは少年の両脇を抱え、近くの交番へ引きずるように連れて行きました」

事件の背景には、何があったのだろうか。大学ジャーナリストの石渡嶺司氏が語る。

「成績が振るわず絶望し、名門高校の生徒が事件を起こす例は過去にもありました。ただ、多くは矛先が自分自身や家族に向かう。無差別で見知らぬ人々を殺害しようとしたというのは、聞いたことがありません。

今回の事件には、ネット社会と新型コロナウイルスが影響していると思います。厳しい受験競争にさらされる名門校の生徒がネット上で目にするのは、極端な学歴論です。人生で成功するには、東大、しかも医学部に入って医者になるしかないという考えに侵されている。『東大がすべてじゃない』『医者にならなくても幸せな生き方はある』という事実を、理解できないんです。

本来なら学校の先生や友人に悩みを打ち明け、こうした偏見を解消すべきでしょう。しかしコロナ禍でオンライン授業が多くなり、対面で相談する機会がなくなってしまった。加害少年は偏った考えを、自分の中で増幅させてしまったのだと思います。成績が下がっていても、まだ高校2年生なら、いくらでも挽回できたハズなのに……」

最近の社会現象も、少年に影響を与えたと石渡氏は考える。

「このところ電車内で乗客を切りつけたり、雑居ビル内でクリニックを放火する事件が相次いでいます。無差別の殺害事件です。少年も模倣し、『どうせ死ぬなら世の中を巻き込もう』という考えになったのかもしれません」

事件が与えたインパクトは大きい。受験生は不安な気持ちを抱えつつ、試験を受けることになる。



https://news.yahoo.co.jp/articles/cd24edc4592390c08c8020f273c72f504de09686





東大前で高2が無差別刺傷…名門校の生徒が事件を起こす戦慄の背景

1/17(月) 9:32配信

FRIDAY



事件が起きた東大農学部前の路上。警察官や消防士が現場を行き交いあたりは騒然となった

1月15日、午前8時半頃、東京大学弥生キャンパスの前の歩道で、高校2年生によるその凶行は起きた。

【画像】東大前刺傷事件 名門校・高2少年「戦慄の犯行現場」写真

この日、大学入学共通テストが行われる東京大学には、受験生がコートに身を包んで続々と訪れていた。受験生にしてみれば、コロナ禍の中でこれまで積み上げてきた勉強の成果を出し切る日であり、緊張に震える者、イヤホンで英単語を聞きつづける者、合格祈願のお守りを握りしめる者など様々だっただろう。

そんな学生たちの前に現れたのが、名古屋市在住の高校2年の少年Aだった。

少し前、少年Aは電車内や東大前駅の構内の複数ヵ所で放火を試みたが、失敗に終わっていた。その後、彼は東大の正門前の歩道に向かった。

この時、彼は刃渡り12cmの包丁、折り畳み式ののこぎり、ナイフ、可燃性の液体を入れたペットボトルや瓶を合計11本持っていた。

正門の前には、同じように駅から向かってきた受験生たちが一列に連なるように歩いていた。少年Aは所持していた12cmの包丁を手に取ると、近くにいた人たちを無差別に襲っていった。

最初に襲われたのは、72歳の男性だった。背中を刺され、重傷を負う。つづいて、千葉県から受験に来ていた女子高校生、そして同じく男子高校生が背を切りつけられ、その場に倒れ込んだ。

すぐに通報を受けた警察官が現場に駆けつけた。少年Aは特に抵抗する仕草も見せず、おとなしく逮捕された。

その後、彼は警察に対して、事件を起こした理由を次のように述べた。

「3人を切った。面識はない。医者になるため東大を目指して勉強していたが、成績が1年前から振るわなくなり、自信をなくした。医者になれないのなら人を殺して罪悪感を背負って切腹しようと考えた」

少年Aは、東海地方にある全国的にも有名な進学校に通っていたと報じられている。特に医学部への合格率が高く、東大を筆頭とした医学部へ大勢の生徒を進学させている名門校だった――。


◆無差別殺傷事件が相次ぐ理由

この事件が報道された時、「またか」と思った人は決して少なくないだろう。

近年、まるでテロのような無差別殺傷事件が頻繁に起きている。10~20代の若者が起こした事件だけでも、18年の22歳男性による東海道新幹線車内殺傷事件、20年の15歳少年による福岡商業施設女性刺殺事件、21年の24歳男性による京王線刺傷事件などが挙げられる。

19年こそ20代以下の少年の無差別事件は起きていないが、40代、50代によるものとしては京アニ放火事件、川崎市登戸通り魔事件がある。さかのぼれば、池袋通り魔殺人事件、附属池田小事件、秋葉原通り魔事件など枚挙に暇がない。

この種の事件を取材していくと、事件を起こした加害者の病理に加えて、家庭環境や社会環境の問題が複雑に絡み合い、雪だるま式に数え切れないくらいの困難を抱えるようになる中で、精神的に追いつめられて、冷静な判断能力を失ったまま衝動的に大事件を起こしていくプロセスがわかる。

今回の東大で起きた事件で特徴的なのは次の2点だろう。

・加害者が一流高校の現役高校生だったこと。

・犯行の理由を「成績」のせいにしていること。

詳細は今後の取り調べに委ねられるが、親のゆがんだ教育が引き金となった事件は少なくない。先の事件でいえば、秋葉原通り魔事件の加害者は親の過剰な教育によって精神を壊された一人だ。少年院にせよ、フリースクールにせよ、そうしたスパルタ教育の犠牲になった子供たちが一定数いる。

私がこの事件を知って思い出したのが、かつて医者の家庭で起きた奈良高校生放火殺人事件だ。

この事件の概要を振り返りたい。

事件が起きたのは、06年のことだった。加害者は、県内屈指の進学校に通い、東大事件の少年Aと同じく医学部進学を目指していた少年Bである。

少年Bの父親は医者だった。父親は息子を自分と同じ医者にするために、小学校に上がる前から勉強を指導していた。もともと父親はエリート意識が高く、周りの人を抑圧するようなタイプで、妻に対してもDVを行っていた。そんな性格もあり、マンツーマンの指導はだんだんとエスカレートし、少年Bに対する暴力を伴うスパルタ教育となっていった。

後に、少年Bは父親による暴力の恐怖にさらされる毎日を過ごしていたと告白している。怒鳴られる、物を投げられる、お茶をかけられる、殴られる、蹴られるというのが日常的に行われていたそうだ。少年にしてみれば、それは教育ではなく、虐待だったにちがいない。


◆禁じられた母親との連絡

やがて母親は少年Bの妹を連れて別居し、離婚することになる。少年Bは父親のもとに置き去りにされる形になったが、これによって彼が「母親に捨てられた」との思いを膨らませたであろうことは想像に難くない。

離婚後、父親は少年Bに母親や妹と連絡をとることを禁じ、スパルタ教育を激しくしていく。同時に、父親は同じ医者の女性と再婚。父親と継母が医者という環境のもとで、少年Bにとって「医学部進学」の重圧はより一層大きくなっていった。

少年Bは、父親の期待に応えなければという気持ちと、音を上げたくなる気持ちに挟まれていた。それでも関西で超一流校とされる有名校に進学できたのは、努力の証といえるだろう。

だが、こうした環境が、少年Bの精神をどんどんむしばんでいった。

父親は「勉強して医者になれ」と言うだけで自分の気持ちをまったくくみ取ってくれない。本音を口にするだけで罵倒される。自分の夢を持つことさえ許されない。どれだけ努力してもほめてもらえず、成績が下がって虐待されることに慄く日々。膨らんでいく優秀な同級生への劣等感……。

もし彼が東大医学部へ絶対合格できるような成績をとっていれば、心に多少の余裕も生まれていたかもしれない。だが、運動神経と同じで、勉強ができるできないはある程度先天的な力だ(それを認めず、すべてを努力とする教育界の風潮が間違っているのだが)。それに、無理やりやらされている中ではなかなか成長は望めない。

少年Bにとって不幸だったのは、それをわかってくれる人が周りにいなかったことだ。むしろ、有名進学校にいたせいで、自分を必要以上に勉強ができない人間だと感じる傾向にあった。

彼の精神が限界に達したのは、高校一年の時だった。中間テストの英語の成績が、平均点を大きく下回ったのである。毎年何十人も東大合格者を出す学校なら、必ずしも悪いわけではないはずだ。それに高校1年なら、これからいくらでも挽回のチャンスはあるだろう。


◆「一流大学合格」の押し付け

だが、これが父親に知られ、逆鱗に触れることになった。父親にとっては絶対に認められない点数だったのだ。少年Bはこれまで受けてきた虐待の体験から、恐怖を膨らませた。そして、父親を殺害して支配から逃れようと考えるようになる。

彼は殺人計画を練りはじめるが、すでに真っ当な精神状態ではなかったのだろう。6月20日の早朝、自分を支配する父親が仕事で家にいないのにもかかわらず、家に火を放ったのである。

家はあっという間に炎につつまれ、寝ていた継母と彼女の連れ子である義弟妹の合計3人が焼死することになった――。

この事件を通して考えたいのは、「一流大学合格」という押し付けが、どれだけ子供の心を傷つけることになりかねないのかということだ。

何十年も前から、親によるスパルタ教育がもととなって様々な事件が引き起こされてきた。事件が起こるたびに、親が子供を「所有物」としていることへの批判や、それを見過ごしてしまう社会の空気のあり方が問題視されてきた。最近は、行き過ぎた教育を「教育虐待」と見なす意見も出はじめている。にもかかわらず、それらは一向に是正されるわけでもなく、同じような事件が起きてしまっている。

なぜか。そこには教育のゆがんだ構造がある。

日本では、格差が拡大する中で、一部の強者がそれ以外の者たちを支配し、富を牛耳る構造が明確化している。経済界や大学を頂点とした教育のピラミッドの中では、「人間性をはぐくむ」と言いながら、実際は「人材開発」という名のもとに、材料開発をするように次々に指導内容を増やして押し付けていった。

そんな子供たちの間に教育格差があるのは自明だし、学習障害をはじめとする先天的な能力の差があることもはっきりしている。にもかかわらず、子供たちはほとんどすべて横一直線に並ばされ、勝ち抜けられるのは「努力した人」であり、そうでない者は「努力しなかった人」と見なされる。

こうした中で、一部の親がスパルタ教育によって何とか自分の子供を優秀な人間にさせたいと願うのは必然だろう。親にたくさんの問題があるにしても、社会の方にもそれを見過ごしてしまう空気がある。

奈良の事件でいえば、父親である医者にはたくさんの間違いがあった。だが、周りにだって問題はあったはずだ。医者である父親がわが子を同じ医者にしようとすることを止める空気があっただろうか。進学校にどれだけ少年Bの苦しみを理解する人がいただろうか。そもそも間近で虐待を目撃していた医者の継母は、なぜ止めなかったのだろうか。

教育とは、その子が生まれ持った翼をその子に合った形で成長させ、大空に向かって好きな方向に羽ばたかせるためにあるものだ。

決して社会や親が自分たちにとって都合のいい翼をつくり、決まった方向へ飛ばせるためのものではない。そんなことは、ドローンがやるべきことなのだ。どの世界に、卵からかえったヒナに、自分たちが開発したプロペラをつけて、操縦しようとする親鳥がいるというのか。

東大で事件が起きた翌日も、同会場及び全国の会場で大学入学共通テストが予定通り行われた。数年後、大半の子供が自分の翼で目指す方向へ飛んでいくだろう。だが、社会や親に押し付けられた翼を持った子供たちは、どんな空を羽ばたくのだろうか。


取材・文:石井光太

77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。日本大学芸術学部卒業。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『「鬼畜」の家ーーわが子を殺す親たち』『43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層』『レンタルチャイルド』『近親殺人』『格差と分断の社会地図』などがある。



https://news.yahoo.co.jp/articles/9c02a43bd45a1f5765b32c866ebb9bf086325ff2





東大前刺傷事件を引き起こしたターニングポイント3点を検証

石渡嶺司大学ジャーナリスト

1/17(月) 7:01



刺傷事件が起きた東大・弥生キャンパス。凶行の背景とは?(写真:アフロ)


◆東大前会場で刺傷、高校2年生が犯人

15日、共通テストの会場である東京大学弥生キャンパスの前で無差別刺傷事件が起きました。2人の受験生と男性1人が刺傷され、男性が重傷となっています。

その後、犯人は高校2年生であることが判明しています。

犯行の理由は「勉強がうまく行かず死のうと思った」というもので、昨年、相次いだ無差別殺傷事件や放火事件を模倣した可能性も指摘されています。


◆受験生の凶行、無差別刺傷は初

10代の受験はうまく行くこともあれば、うまく行かないこともあります。

うまく行かなかった場合、自暴自棄になったり、周囲に当たり散らすことは当然、起こり得ます。

1913年(大正2年)に久米正雄が執筆した小説『受験生の手記』は主人公である受験生が受験と恋愛、両方に失敗して自殺するまでを描いています。

その後も、昭和、平成と時代が変わっても、受験や勉強の伸び悩みを理由とする10代の自殺者は一定数出ています。

一方、受験の失敗がきっかけとなって起きた殺人事件としては、1980年の神奈川金属バット殺人事件が有名です。

進学校の高校卒業後、2浪だった予備校生が父親のクレジットカードの不正利用や飲酒を咎められ、それがきっかけとなり、深夜に金属バットで両親を撲殺。

当時は受験競争の激しさを象徴する事件として話題になりました。

近年でも2018年には、医学部受験を娘に強要し続けた母親が刺殺される事件が起きています。

なお、受験全般で見ると、親が凶行に及んだ事件も1999年の文京区幼女殺人事件、2016年の名古屋小6殺人事件などが起きています。

大学受験の失敗に話を戻すと、暴走した場合には自殺か、もしくは親族の殺害か、そのどちらかでした。

今回は無差別刺傷、かつ、無差別殺人をけいかくしていたわけで、これは日本における大学受験史のうえでは初めてのことです。

◆ターニングポイント・1~進学校ゆえの中だるみ・停滞期

では、犯行に及んだ高校生はなぜ、思い詰めてしまったのでしょうか。

現時点(1月17日午前)では、「愛知県の進学校」「東大医学部に進学希望で将来は医者志望」「勉強に伸び悩み、死のうと思った」「計画は去年から考えていた」など、断片的な情報しか出ていません。

ただ、少ない情報から、背景として考えるターニングポイントが3点あります。それは「進学校ゆえの中だるみ・停滞期」「コロナ禍での対面授業停止」「高校生独自の世界観の狭さとフィルターバブル」の3点です。

まず、1点目の「進学校ゆえの中だるみ・停滞期」について。

少年が在籍していたとされる進学校は中高一貫校であり、高校からの入学者も受け入れています。

中高一貫校は中高のカリキュラムを5年で終わらせて、残り1年間は大学受験対策に充てるのが一般的です。その分だけ有利とも言えますが、逆に中高一貫校のデメリットとされるのが中だるみです。これは高校受験がない分、のんびりしてしまい、あるいは、速過ぎるカリキュラムについていけず、成績が低迷する、というものです。

それから、高校受験を経て高校に入学した場合だと、高校2年生に成績が伸びず停滞してしまう高校生は私立・公立問わず、一定数います。そのため、高校2年秋から冬にかけて実施される進路ガイダンスや講演では、「高校2年時の成績だけで志望校を決めない方がいい」と進路担当教員や講師が呼び掛けるのが一般的です。


◆ターニングポイント・2~コロナ禍での対面授業停止

生徒が成績不振などで悩んだ場合、クラス担任や進路指導教員が相談に乗ることである程度の解決が可能です。

教員の指導によって成績が伸びることもありますし、新たな進学先を提示、進路変更をすることもあります。

しかし、コロナ禍で大学だけでなく高校も、対面授業や学校行事が中止となりました。オンライン授業が展開されたものの、教員が生徒を観察し、アドバイスする機会は相当狭まってしまいました。

実際に、逮捕された少年が在籍する高校は16日にコメントを発表しています。

昨今のコロナ禍のなかで、学校行事の大部分が中止となったこともあり、学校からメッセージが届かず、正反対の受け止めをしている生徒がいることがわかりました。~個々の生徒が分断され、そのなかで孤立感を深めている生徒が存在しているのかもしれません。

※朝日新聞デジタル 1月16日12時配信「刺傷容疑の少年が通う高校が謝罪コメント『コロナ禍で生徒が分断』」より


◆ターニングポイント・3~高校生独自の世界観の狭さとフィルターバブル

3点目としては、高校生の世界観の狭さとフィルターバブルがあります。

まず、高校生は世界観が狭いのが一般的です。進学校であれば過去の進学実績や周囲の友人の志望校などから「自分も難関大に入らないと」と考えがちです。

さらに、ネット社会の宿痾とでも言うべき、フィルターバブルがこの世界観の狭さに拍車をかけてしまいます。

フィルターバブルとは、自分が見たい情報しか見えなくなることを意味します。

特に現代では、SNSやYouTube、アマゾン、ネットニュースなどアルゴリズムが優秀です。提供される情報がどんどん変化し、利用者のし好にあった情報が中心となって表示されます。

例えば、YouTubeだと、西村博之さんの切り抜き動画を何回か見ていると、上位のおすすめ動画にはひろゆき切り抜き動画ばかり出るようになります。

このフィルターバブル、10代ならでは、ということはなく、20代でも40代でもどの年代でも起こり得ます。

実際、2021年には、アメリカで連邦議会襲撃事件が起きました。これは、2020年アメリカ大統領選挙の結果を不服とするトランプ前大統領支持派が「あの選挙は不正だった」とするニュースを信じ込む、フィルターバブルに陥ったからこそでした。

刺傷事件に及んだ高校生もフィルターバブルに陥り、「東大医学部志望→成績が伸びない→もうダメだ、だから死のう」と考えてしまったのでしょう。


◆1点は大したことがなくても

以上、3点のターニングポイントについて解説しました。

もちろん、それぞれはどの高校生にも当てはまります。あるいは、全部、という高校生も全国に一定数はいるでしょう。

その中でも、刺傷事件を起こした高校生は、3点全てが惑星直列のようにピタリと当てはまり、孤独感・孤立感を深めたことが背景にあるのでは、と私は考えます。


◆フィルターバブルを薄めていれば

フィルターバブルは、高校生であれ、大学生であれ、社会人であれ、大なり小なり抱え込んでしまいます。

しかし、実は簡単に薄める方法があります。

それは、情報の多様化です。一つの視点だけでなく、複数の視点から情報を見ていくことでフィルターバブルは薄まり、視野は広がります。特に新聞は一覧性という点では優れています。情報検索という点ではネットメディアよりはるかに遅いものの、フィルターバブルを薄める手法としてはおすすめです。

この高校生の場合、成績が落ちても入れる医学部を探す、あるいは、高校2年生で成績を落としてもその後、受験で逆転した(あるいは大学卒業後に逆転した)事例などを調べたり、教員などから話を聞くなどしていれば、いくらでも人生は変わったはずです。

もちろん、犯行に及んだ高校生の短絡的な発想は非難されるべきものです。電車や駅構内での放火も試みた、とされるなど無差別殺傷を考えた点は厳罰に処されるべきでしょう。

しかし、その一方で、こうした凶行を及んだその背景もまた、厳しく見て対応策を考える必要があります。

そうでなければ、こうした凶行が繰り返されるのではないでしょうか。

犯罪だけでなく、犯罪の原因に対しても強硬にあたるべき、と私は考えます。


石渡嶺司

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。2018年は肩書によるものか、バイキング、ひるおびなどテレビ出演が急増。ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。主な著書に『大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ)『キレイゴトぬきの就活論』(新潮新書)『女子学生はなぜ就活に騙されるのか』(朝日新書)など累計30冊・62万部。2021年1月に『就活のワナ』(講談社プラスアルファ新書)を刊行。



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