描出話法の一例 | 新井学院(橋本)~時に先生と生徒の邂逅も人生の転換点になりうる~

新井学院(橋本)~時に先生と生徒の邂逅も人生の転換点になりうる~

新井学院埼玉県さいたま市/北浦和)の橋本(英語&日本史講師)によるブログです。
内輪ネタは非公開とするため,誠に勝手ながら,アメンバーはメールまたはメッセージにて実名を名乗って下さった方のみ承認しています。

<高1英語のテキストより>

※英文ごとに丸数字を付けています。
①The Austrian scientists examined the body more closely.
②They did not know yet how he had died; however, they found it was in about 2700 B.C.
③This was a very important discovery, they said.
④It would teach them a great deal about this very distant period of European history.
⑤From the clothes and tools they could learn about how people lived in those times.


これはつい3週間前まで中学生だった子たちの英語教材です。
①から順に和訳していくと,

①オーストリアの科学者チームはその遺体をより綿密に調査した。
②死因については未だ不明であったが,紀元前2700年前後に死んだことが判明した。
③これは非常に重大な発見であると調査チームは述べた。
④ヨーロッパ史におけるこれほど遙か昔の時代について多くの知見が得られる(だろう)
⑤衣服や道具からは当時のヨーロッパ人の暮らしぶりについて知ることが(できた)


のようになるかもしれませんが,④のwouldと⑤のcouldの訳し方に微かな違和感が残ります。
wouldによってそこから研究が始まるのを予感させるものの,⑤のcouldは実際にもう研究結果が得られたかのようなズレた印象を与えているからです。
⑤の英文にFor exampleが付いているとか,もしくは④と⑤の助動詞がどちらか一方に統一されていればこのような違和感が払拭されるのですが……

はい,そこで種明かしをします。
もし上のように訳したり疑問を抱いたりしたのなら,実は正しい読解ができていません。
③の英文を見落としています。
そこにはthey saidとあります。
これは④⑤にもかかってきます。
つまり,④⑤の英文はそれぞれ,
They said (that) it would teach them a great deal about this very distant period of European history.
They said (that) from the clothes and tools they could learn about how people lived in those times.

となり,科学者チームの発言内容だと捉えるのです。
このようなS+say[think, suppose, believeなど]の省略を描出話法という文法用語で呼びます。

すると,wouldはwillの時制の一致,couldはcanの時制の一致に過ぎませんから,
④ヨーロッパ史におけるこれほど遙か昔の時代について多くの知見が得られる(だろうと彼らは述べた)。
⑤衣服や道具からは当時のヨーロッパ人の暮らしぶりについて知ることが(できると彼らは述べた)。

となり,これを併せて,
④⑤ヨーロッパ史におけるこれほど遙か昔の時代について多くの知見が得られるだろうし,衣服や道具からは当時のヨーロッパ人の暮らしぶりについて知ることができると,科学者チームは述べている。
とスッキリまとめることができます。