芸は女を美しくする

 

 凛とした老女の美しい姿を久しぶりに見せていただいた。三味線と聞いて、隣町の音楽会サロンに久しぶりに出かけた。「聞きたい」である。

 お揃いの和服姿の女性が三人。公民館の観客は20人ほど、雪上がりの翌日だから、いつもより10人ほど少ない。三味線に合わせて、自慢の喉も披露してくれた。

 

 まず、何と言っても姿勢が美しい。座り姿も立ち姿も白髪など微塵も感じさせないほどに凛々しい。人はこのように老いるべきだと、我が身を振り返る。そういえば、銀行の受付係(当時、テラーといった) の女性もピーンと背筋を伸ばして、開店9時を迎えた。開店前の数秒間は制服姿に見惚れた。お辞儀の姿もピシッと決まる。私は今日一日の元気を頂く。

 

 三味線の音には、本調子(ドファド)・二段下がり・三段上りなどがあって、端唄や小唄は三段上りが多いそうだ。さっぱりだが、言われた言葉をメモしたまでだ。ついでに津軽三味線は「ひく」ではなく「たたく」から、猫ではなく、強靭な犬皮を使うそうで、バチも象牙ではなく、固いべっ甲だそうだ。さらに糸も絹糸ではなく、丈夫な馬の尾っぽ。ナイロンなどが普及する以前のお話だろう。

   盲目のごぜさんが手にする三味線は一回り大きい津軽だそうで、岩下志麻主演の「はなれ瞽女おりん」は津軽三味線だと教えて頂いた。

 

   私がメモを取りながら拝聴しているので、中休みに隣の方が「三味線、なさるんですか」と尋ねてきた。彼女は青森弘前出身の方だった。「三味線といえば、津軽三味線しか知りませんでした」と。「お帰りになることはありますか」と聞けば、「久しぶりに昨年に」とポツリ。「それは良かったですね」と返事をして、また三味線に。

演奏の三人はいずれも名取り。三味線包みの布(胴袋)には家元の家紋が入り、名取り名が入っている。質問してみたら、こんな次第であった。

 

   銀行時代、トンシャントンシャンと三味線のお座敷に招いてくれる社長がいた。思い起こせば、良き時代であった。きっと、あの日の思い出が音楽サロンに走らせたのだろう。

お三方、いずれもお呼びがかかり、演奏活動でご多忙のようだ。私にはその芸がない。