「アリス」を巡る旅 2/2

 

 谷村新司さんは1970年大阪万博の頃、関西でバンド活動をしており、万博で知り合った人の紹介でアメリカ縦断のコンサートキャラバンに飛び回っていた。

 私はと言えば、入学した大学構内をウロウロしているばかりだった。その前年は東京で浪人生活を送っている。その頃に観た映画が「愛すれど淋しく」(原題The Heart Is a Lonely Hunter)だった。

 

 物語は口も聞けない耳も聞こえない若者シンガー(唇読はできる宝石職人)、アラバマ州が舞台である。シンガーには心許せる友は精神を病んだ友人一人しかいなかった。その彼が病院へ入り、転居先に見つけたのが、大けがでお金に窮迫した一家の貸間看板だった。

 しかしその貸間は、シンガーが入る前は多感な14歳の娘ミックの部屋。少女の夢は音楽の道に進むことだった。自分の部屋を取り上げられ、そのうち父の病状の悪化でさらに学校まで辞めざる得なくなる。

 

 シンガーとミックの心の交流が始まる中で、悪夢のような事件が次々と起こり、シンガーは唯一の友も亡くなる。ラストは自死したシンガーの墓前で、ミックは「あなたを愛していました」と。原作はカーソン・マッカラーズ(1917~67年)。この映画で女史の名前を知った。女史は人種差別や身体、そして精神的にハンディを背負った人ばかりを小説に登場させ、そこから人間の魂をすくい上げ、世に問うた作家だ。

 

 谷村新司さんの歌詞「昴」や「群青」は大きな歌、「いい日旅立ち」もいい。アリス時代の歌詞も素晴らしい。そして彼はアダルトビデオの愛好家で大収集家でもあった。

 そんな話を同年代の男友達にしたら、初耳で「がっかりだ」と。女友達にしたら、こちらも初耳で「(ショックで)今夜は眠れない」と。「でもね。彼のもうひとつの世界があったからこそ、デリケートな女心も星座も歌にし、メロディーを歌詞に載せられたと思うんだが」と応えた。

 男友達はすぐさま「いい子、いい子で育っては、つまらん人間なるわなあ」とすぐさま合点。女友達はそうはいかなかった。男女の差かなあ~?

 

 アリスを巡る旅の最後は、ご本家「不思議の国のアリス」の作者ルイス・キャロル(1832~98年)。本業は数学者。別に少女ばかりを撮影する写真愛好家でもあった。

 男心はきっと蝶のように蜜を探して飛び回る生き者なのだろう。自らをコントロールする力があれば、二つも三つもの世界を行ったり来たりして、そこから万人の心を捉える大きな泉が湧き出ているのではないだろうか。

「心は淋しい狩人」