アイロンをかける

 

 夏物もおしまいだ。アイロンをまとめて掛けた。夏蒲団もおしまいだ。押し入れから厚めの布団を引っ張りだした。リンゴか美味しい季節。ジャムをとろりとろりと作ってみた。

 

 アイロン掛けを始めたのは、50代初めの頃。妻が「アイロンが重くなり始めた」と口にしたからだ。第二の職場にも移り、パリッとしたワイシャツへのこだわりも無くなり、「それなら、私が」と始めた。当初は「ゴメンね」と言った妻が、しばらくして「だいぶ、うまくなったわね」と口を叩くようになった。

 いつまで経っても、妻のようにはいかない。「まッ!  いいや」の地が出る。さて、夏物シャツは「このまま、来夏までも」と考えたが、ジャムをコトコトと煮詰めている間が手持無沙汰だ。アイロンを握った。

 

  心に背負った傷も人それぞれだ。フロイドさんは精神医学の創始者だ。氏は研究を進めていくうちに、患者が「思い込みもまた現実に起こったかのよう」に話す。こんな患者に向き合うには、セラピストもまた否定することなく、患者の現実・リアリティーとして受け入れることを説いている。心の医学の始まりだ。

 

   NHKテレビを見ていたら、9.11事件で我が子を失った父親二方が登場した。一方は毎月月命日にお坊さんを招いて、お経を読んでもらっている。もう一方は9.11の英訳公文書の和訳に努め、イラクまで訪ねられている。弔いのありようもまた人さまざまだ。

 

   妻は「市販のジャムは甘すぎて、いけないわ」と。だから私は色々なジャム作りに挑戦した。変わったところでは、我が家の木になったサクランボジャム作り。キウイジャムもなかなか美味しかった。何といっても、妻のお気に入りは新玉ねぎジャム。健康に良いからと言って、「無くなったわよ」と、すぐに請求された。

 

   妻は私を叱りたがり屋だ。アイロンを掛けていると、妻が隣で私の手の動作を観察しながら、あれやこれやと口にする。妻が着るわけでもないのにと思いつつ、万事「まッ!  いいか!  」だ。

 

  

妻に叱られることもなく

アイロンかけが終わりました