映画と小説~レマルクの思い出

 

「見てから、原作を読むか。読んでから、映画を見るか」。昔、こんなキャッチコピーがあった。

 高校時代に熱中した外国人作家は、ドイツ人作家レマルク(18981970)。映画「西部戦線異常なし」と「凱旋門」を観て、レマルク作品の虜になった。「汝の隣人を愛せ」「愛する時と死する時」などの作品も手にした。

 

 アウシュビッツを訪ねた折、ドイツ人ガイドに「レマルクは現在読まれていますか」と尋ねると、一呼吸おいて「今は、ベルンハルト・シュリンクでしょう」という。

帰国後、検索してみたら、映画「愛を読む人(原題 朗読者)」の原作者だった。そうだったのかと、早速短編数冊を手にした。よい作品ながら、やはりレマルクだ。

 

 最近、図書館で足立邦夫氏の「レマルク~最も読まれ、最も攻撃された作家」を見つけたので、懐かしく拾い読みしている。氏は1929 年小説「西部戦線異常なし」を31 歳で発表し、一躍時代の寵児になった。ナチスから標的にされ、からくも亡命。妹はナチスの手で処刑されている。数度の結婚。大スターのマレーネ・デートリッヒとの交遊も詳しく書かれている。レマルクさんに「こんなの人生があったのか」と初めて知った。

 

西部戦線発表以前の氏は、「郵便局長か、教師か、薬局の親父か、これ以外の将来像は想像できなかった」と語っている。そんな31 歳の青年が突然世界の頂点に立った。

小説「西部戦線異状なし」は映画化され、大ヒット。氏はナチスドイツと連合国のせめぎ合いのシンボルにもなった。過酷な時代の先頭に押し出されたにもかかわらず、その後も高品質の作品を量産した。凡人はあれこれと、ただ思いを巡らしているばかりだ。

 

映画「西部戦線異常なし」のラストシーンは、主人公が蝶をつかもうとして、塹壕から頭を出した途端、頭を打ちぬかれて死亡する。原作にはない蝶の登場は映像美として優れ、観客に訴えかける力を持っている。うん。監督のアイデアだ。

 

映画「凱旋門」は、ユダヤ人外科医が祖国を追われ、パリに逃げた物語。その彼にナチスの手が忍び寄る不安な日々を描いている。こちらは小説の方が断然良かった。イングリット・バーグマンが出演していたので、うっとりして観た思い出ぐらいしか残っていない。

映画「愛を読む人」は2008 年の作品。こんな映画を観る度に考えることは、ドイツと日本の国民性の違いだ。

 

 

2009年10月の凱旋門