供養の山旅

 

 四月から男孫がトップバッターで中学入学。「これが最後の山となるだろう」と、鈴鹿の山へ連れ出した。朝明渓谷から1000m 弱の稜線縦走を経て、一回りする4 時間ほどのルート。息子を加えた三人の日帰りの山旅。

 本コースは低山ながら、眺望のよい稜線歩きを楽しむことができる。稜線からは遥か先に伊勢湾河口を望み、最後に目的地823m の奇岩「羽鳥峰」が姿を現す。

 

そこはかつて若かりし私たち四人家族が訪れた場所。その日に撮った一枚の写真が私の生涯のベストショット。そんな思い出の地を再びと、妻の供養も兼ねて出かけた。

現在、私は股関節の痛みを抱えているが、先生からは「骨に損傷はありません」とのお墨付きも戴いて、「まあ、痛くなったら途中で引き返せばいい」という気持ちぐらいで歩き始めた。まずまず調子で渓流沿いに歩き、最初の目的地の根の平峠まで登った。

 

ここからは稜線歩き。馬酔木の白い花が満開だ。青いお空にくっきり。稜線道の所々に「狐のしっぽ」がびっしり。本名はヒカゲノカズラという。「狐のしっぽ」と俗称を教えてくれたのは、私の母。この山に来るたびに亡母を思い出す。

 

  

水晶岳954m の頂上まで歩いて、昼食を頂いた。山頂は眺望良し。そして私には誠に珍しい無人の雨量観測小屋が建っている。一人の男性登山者がやって来て、三角点を写真に収めた。最近は三角点をカメラに残す人が多いと聞いている。私はいつもここで昼食や昼寝したりするお気に入りの場所だ。本日は早起きして、おにぎりを握っておいた。

 

さらに歩いて、金山山頂を経て、羽鳥峰に着いた。私は息子に「ここに来たことを覚えているかい? 」と尋ねたら、「こんな珍しい場所があるんだね。まったく記憶にない」という。「そうか~」と残念。

羽鳥峰に先客の姿が見えた

さあ、帰ろう。下りはなかなかキツイ山道だ。妻もかつてはこんな道を往復できたのだと感慨深い。しばらくすると、渓流が姿を現した。三人はどんどん下った。山の桜が残っている。今年は桜を二度楽しむことができた。

 

自宅で、あの日のアルバムを探した。すると昭和61 年から出てきた。妻は33 歳、息子は小学2 年生。家族の古い思い出が櫛の歯のように欠けていく。私だけの記憶の中に留まるだけの思い出になっていく。