カンテレの企みなら、わかる

 

このドラマは最初から好きでした。

けれど、何が特に良いのか言葉にできず、う~ん・・・悶々としていたら、しだいに三瓶先生(若葉竜也)が素晴らしい、世界に見つかってしまった、杉咲花ちゃんの演技が沁みる・・・といった賞賛が次々と出てきて、う~ん・・・ますますわからなくなっていました。

 

 

 

でも、これがフジテレビでなくカンテレの制作だと考えると、なるほど、攻めてるんだな~、挑戦してるんだな~、と、納得できました。

 

 

たとえば、イケメンをそろえていませんよね?

星前先生(千葉雄大さん)ごめん!!でも今回はイケメン枠でなく、救急部長という大出世の実力派ポジションですよね? 

 

キーマンの三瓶先生(若葉竜也)は髭ぼうぼうのムサクルシサだし、岡山天音さんは、え?え?え? 生田絵梨花さんが恋する相手?!・・そんなイケメン枠だったけ?! と驚きですし、とにかく、カッコいいドクターは出ていません(皆さんごめん!!)。

 

いや、三瓶先生ワイルドでカッコいい、イケメンじゃん!、と言われるかたもいると思うのですけれど、ここはまぁ一般論ということでウインク つまり医療ドラマのわりに絵柄(画面)が全体に地味です。これをわたしは<カンテレの企み その1>だと思っています。つまり意図して地味な絵作りをしている。青春の反抗期というか、停滞する地上波ドラマへの一石というか、「医療ドラマといえばカッコいい先生」という概念を崩しちゃえ!みたいな狙いを感じるのですが、考えすぎ?

 

 

 

 

 

だからでしょうか風通しが良いです。

 

ドラマの舞台(空間づくり)もサッパリしていて、その中で、俳優さんたちのセリフがしっかり耳に届きます。

カンテレはこの医療ドラマ(原作)を、たぶんすごくリスペクトしていて、わーわーキャーキャー騒がれるのでなく、伝えたいことをしっかり届けたいと思っているように見えます。

たとえば・・・原作者・子鹿ゆずるさんのコメント・・・「脳に障害を負ったら、日常が断たれてしまうと感じるかもしれません。でも周囲が状況を正しく理解し、適切な対応ができれば、本人は能力を最大限発揮することができるのです。記憶障害のミヤビが、脳外科医として働き続けるというのは、一見あり得ない設定に見えるかもしれませんが、医学的なロジックに基づいて作られています。」、ということを、コツコツ伝えていこうとしているのじゃないでしょうか。

 

 

 

 

 

  「静かなドラマ」を狙った? いや、それは結果論

 

このドラマを見ていて、「静かだな」と思ったことはないでしょうか? わたしは最初からそう感じています。それ、<カンテレの企み その2>だと思います。

いろいろな事件は起こるのですけれど、ドラマチックにならない。

 

 

たとえば第5話、住職(三宅弘城)が「もやもや病」の手術をすることになったとき、その術者としてミヤビ(杉咲花)を三瓶先生(若葉竜也)は指名します。

記憶障害をもつミヤビが脳外科の手術?!それも、細い血管の難易度の高い手術です。「できません」と拒否するミヤビに、三瓶先生は淡々と「できますよ」と、背中を押すというより、包み込む感じで言います。「できる」「できない」という押し問答はなしです。そういう定型パターンは避けているように思います。

 

 

 

そこから彼女は手羽先で血管吻合の練習をくりかえし、三瓶先生に「いいですね」と太鼓判をもらい、手術に臨みます。その手術シーンもミヤビが集中する様子が、目のアップや立ち姿などで撮影され、時々、「吻合終了しました」、「血流再開します」といった最低限のセリフが流れるだけです。これほど静寂につつまれた手術シーンを他に見た記憶はありませんし、手術が終わったあとの、『この景色を一生覚えておきたい』と感激するミヤビの想いと、祝福する医療スタッフたちの温かい気持ちが画面からあふれていたのは名シーンだったと思います。

 

 

たぶん、ドラマは「静かさ」を狙ったわけではなく、伝えたいことを他に邪魔されないで、できるだけシンプルに伝えようとしただけかもしれません。それが結果的に、静かなドラマになった。。。。

 

 

それを実現できたのは、やはり、俳優さんたちの力があったからだと思います。

前述したように、この物語は「周囲の人たちの理解と、支えがあれば、障害をもつ人も能力を最大限発揮できる」ことを描いた話なので、主役の二人だけでなく、ミヤビを心から信頼し応援してくれる仲間たち、星前部長(千葉雄大)や、大事な手術の前は泊まってくれる友人の森ちゃん(山谷花純)や、頼りになる看護師長(吉瀬美智子)や、いつも安心させてくれる麻酔科医(野呂佳代)や・・・さまざまな人たちの気持ちが(演技を超えて)あふれているから、静かだけど説得力のあるドラマが生まれているのだと思います。

 

 

 

カンテレの「攻めるドラマづくり」と言えば『エルピス』がすぐ思い浮かびますが、タイプは全然違うけれど、『アンメット ある脳外科医の日記』も そうしたラインのひとつだと思います。「長いものには巻かれない」みたいな。必要ならイケメンだって消してしまうぞ、みたいな。いろんな作り方をしてくれると、ドラマの可能性が広がって嬉しいです。

■原作:子鹿ゆづるさん

■漫画:大槻閑人さん

■脚本:篠崎絵里子さん

■演出:Yuki Saitoさん

■プロデューサー:米田孝さん、本郷達也さん

■オープニング曲:上野大樹さん「縫い目」

■主題歌:あいみょん「会いに行くのに」