きょうのご機嫌はいかがです?

 

最近あまり聞かないセリフ(言葉)が次から次へ飛び出すドラマでした。心地よく驚きながら、うなずきながら見ていました。「47回創作テレビドラマ大賞」を受賞した作品だそうで、たしかに新しい視点がいっぱい感じられました。

 

 

不機嫌なモンスターにならないためには たゆまぬ努力が必要だ。

たしかに。

それにしても「機嫌がいい」とか「不機嫌な」とか、最近あまり聞かない言葉になった気がします。

※ところが念のためググってみると、なんと、「不機嫌ハラスメント」という言葉があるみたいですびっくり。仕事を頼むと不機嫌な顔をする、挨拶をしても無視するとか…いろいろあるみたいですけれど…まぁまぁまぁ、このドラマでは相手のことでなく、「自分の」機嫌を言っているわけで、そこは全然違う。

 

 

ドラマ冒頭、生徒会選挙の演説会でハウリングが起きたとき(ヘッドホンをしていなかった主人公は)「いや~!!」と叫んで立ち上がります。「不機嫌のモンスター」になったわけですが、

そうならないために(社会と共生していくために)、彼女はヘッドホンをつけ、サングラスをつけ、騒がしい人たちから避難する、そういうたゆまぬ努力を、おそらく小さいころから一つずつ見つけてやってきたのだと思います。そういう彼女と、彼女をとりまく人たちの物語。「感覚過敏症」という「外からわからない障害」をクローズアップしながら、深刻になることなく、むしろ若者の逞しさを印象付けて希望が見えたドラマ、また続編を単発で見られたらうれしいです。

 

 

 

 

  主張しない俳優の凄さ

 

ちょっと楽しいくらいのドラマに仕上げてくれたのは、主人公・片瀬あまねを演じた當間あみちゃんの可愛さ!そして、力まないファニーな演技。役者としての個性を主張しない、空気のような、ふわふわホイップのような人だな…と(良い意味で)、『さよならマエストロ』のときも思いましたけれど、今回も、騒音はだめ、光もだめ、食物も制限…それこそ五感が縛り付けられるような、大変な障害なのに、主人公(片瀬あまね/當間あみ)はいつもニコニコしてそこに居ます。無色透明の演技ができる稀有な女優さんだと思います。

 

 

 

破天荒な母を、尾野真千子さんにキャスティングしたのもすごくわかる気がします。世間なんか気にせず、自分がしたい事をして生きなさい。自分の機嫌をとりながら楽しく生きなさい。そんなメッセージを、この母はずっと、自らの生き方で伝えてきたのでしょう…でも、ずいぶんチャランポランな生き方にも見えて、この母もまた、娘の賢さに救われてきたのだろうと思います。

 

 

もうひとり、あまねの理解者・琥太郎役に奥平大兼さん。

このかた、映画『MOTHER』で話題になった新人俳優さんだと思うのですが、見たのは初めてでした。上手いわぁ。素敵だわぁ。この人も自己主張を感じさせない、自然な演技で、主人公・あまねとのバランスが抜群でした。

 

 

 

 

 

  どうせ大人になったら忙しく働くんだから

 

部活に強制的に入らなければいけない、校則が本当にあるのでしょうか?…有るんでしょうね…そのいびつな「当たり前」を前にして、あまね(當間あみ)と琥太郎(奥平大兼)は それぞれの理由で戸惑います。

 

あまねの言い分が良いですよね。「どうせ大人になったら忙しく働くんだから、今くらいご機嫌に休んでいたい」…軽く頭をなぐられた感じでした。なんというか、新しい。「部活に入れ」と言われて、「今くらいご機嫌で休んでいたい」…とは、ホンネのホンネだし、しかも、なんて品のある表現でしょう。「みなさま、ご機嫌よう」

 

言い訳ばかりしないで、そういう本音が言えたら、できたら、学校も、会社も、世の中も、ギスギスしない。変わるよな…と思いました。

 

 

そしてもうひとつ驚いたのは、「どうせ大人になったら忙しく働くのだから」と、あまねが言っていること。彼女はすでに働くことをイメージしているようです。このあたりが、シナリオの新しいところ、強いところ、現実的なところ、素晴らしいところ、だと思います。感覚過敏というハンデを背負っているから…と後ろ向きな見方をしているのは視聴者で(わたしで)、あまねにとってそんなことは当たり前のこと。大人になったら働く、しかも、忙しく働くイメージを持っています。

 

 

それにしても、主人公たちの前に立ちふさがる昭和思想モンスター(あまねの担任)を、山田キヌヲさんが 実に憎らしく演じてくれました。若い人たちの素直な発想、が際立ちました。

 

 

 

 

そんなこんなで、このドラマにはいろいろなシーンで軽いショックを受けました。カルチャーショック?世代間ギャップショック? 呼び方はわかりませんけれど、本当に視点が新しいドラマでした。

 

【作】 森野マッシュ さん

【音楽】 Ryu Matsuyama 

【演出】 堀切園健太郎さん

【制作統括】 落合将さん 遠藤理史さん