われ思う。ゆえにわれ有り。

 

まさかこんなに深味のあるドラマになるとは思っていませんでした。

タイトルからして、『不適切にもほどがある』と同じような 昭和おじさんのドタバタ劇か?と思っていたのですが(←最近2つのドラマの共通点がよく指摘されていますね?)、どちらも「家族」に対する想いがベースにあるのは同じ、でも表現方法は全然違います。

 

 

たとえば『不適切にも~』は、クドカンの堪忍袋の緒が切れたところから、過剰なコンプライアンスに対して、生まれたドラマだろうと思います。エッセイでよく嘆いていましたから。実は怒りのドラマ。『ランボー怒りの脱出』、『クドカン怒りのショータイム!』。

 

クドカンだけでなく、表現にかかわる人はみんなずっと過剰なコンプライアンスに苦しんで「これでは何も創れない!」と訴えています。その怒りや不満を、けろっと、抜群に面白いエンターテイメントに昇華させているのはさすがクドカン、あざとい~、ずるい~、天才!

 

 

いっぽう『おっさんの~』は 原作をよく知らないのであまりツッコんだことは言えないのですけれど、中心となるエピソードに、「生きづらさ」をかかえる息子(…と、お姉さんも)、そしてゲイの大地くんを登場させて、すごく今的で デリケートなアップデートを狙いました。

『不適切にも~』が「怒りのショータイム」なら、『おっさんの~』は「われ思う。ゆえに われ有り』みたいな、考えるドラマになりました。

 

 

 

 

  いつもラストで「え~~っ?!」

 

ドラマの「質(テーマの質の良さ)」と同時に、「作り方」も上手い!と思うんですよね。いろいろなエピソードの織り込み方がタイムリーだし、毎回ラストは「ええええ~っ?!」と叫ぶようなドンデン返しとか、重大事件発生…みたいなところで終わる。もう次週が気になって気になって。

 

 

 

たとえば先週8話では、誠(原田泰造)のアップデートがかなり良い感じになってきて、夏祭りに 翔(かける/城桧吏)や大地(中島颯)と一緒に出掛けます。

3人すごく良い感じ。そして大地と別れたあと 心を開いた翔(かける)は 誠(原田泰造)に「野球部をやめてもいい?」と聞きます。誠は「もちろん! もう翔の好きなようにすれば良いんだよ」と答え…あら~、なんだか全部うまくいきはじめた。問題は全部解決?だったらこれで最終回?…と思ったら、ラスト、学校で、

 

 

退部届を出した翔(かける)が、長谷川くんたちに「今までありがとうございました」と挨拶。立ち去ろうとすると…「逃げるのか?!」「そうやって俺たちから逃げるのか?! カッコ悪いぞ沖田!」

 

えええ~っ?!

 

ニキビ治療を手伝ってもらった長谷川くんが?! なぜ、そんな訳の分からないことを言う?! 誠(原田泰造)の問題が解決したと思ったら、なに~?!、また新たな火種?!

 

 

…と思ったら!! 9話、その続きが。

長谷川くんは翔(かける)が、「野球が嫌なんじゃなくて、俺らが嫌なんじゃないのか?」と鋭く問います。

仲間たちは「そんなこと聞きたくないよ」「辞めるって言ってるんだから それでいいじゃないか」と言うのを、「いや、俺は聞きたい」と言って譲らない長谷川くん。結局、翔(かける)と彼らは初めてホンネで話をして、理解を深めることになりました。長谷川くんファインプレー!

 

 

画像は拝借しました

 

 

 

 

 

  お母さんのエピソードをありがとう

 

このドラマで上手いなぁ!と唸るのは、とくにお母さん(富田靖子)のエピソードをひょいひょい織り込んでくるところです。

子どもたちの生きづらさだけでなく、黙々と家族を支えるお母さんの存在も忘れていないんですね。そこ、素敵です。

 

 

6話でしたっけ?7話でしたっけ? お母さんが「(社内の)弁当新メニューコンテスト」で優勝して、商品化が決定! 職場の仲間にも褒められて気分アゲアゲ。家族に報告するのを楽しみに、夕食はそのメニューを用意して待っています。ところが、家族全員スループンプン

 

そして、さらに、娘の就職のことで誠が「女の子はそんなに急ぐことないよ」と言うのを聞き、(内心)怒り心頭。自分だって若いときにやりたいことはあった。でも、状況が許さなかった。そして今は黙々と家族を支えてる。支えるのが当たり前に思われてる。ついに、爆発しました。口調はおだやかなんですけれど。

「いつでも食べたいときに食事が出てきて当然だと思われるの……嫌!」

 

 

そのあとお母さんがメニューコンテストで優勝したことを知って、誠たちは大後悔。なんとか謝りたい、感謝の気持ちを伝えたい、と、「推し活」しているアイドルグループ「RONDAM」のコンサートチケットの予約争奪戦に参戦!…という流れでしたけれど、チケットが取れたときは熱いものがこみ上げました。感動巨編じゃないんですよ。ただ、家族でチケットを、よ~いどん!で取ろうとしているだけのエピソードなんですよ。なのにグッとくるのは何なのでしょう? 

 

 

 

そして9話、またまたお母さんの感動的なエピソードが織り込まれていましたけれど、それはまた機会があるときに。家族それぞれを、ありがちなパターンでなく、一人ひとりの不器用な思いを大切に描いてくれているところが、このドラマは素敵です。さて最終回はいつ?どんな終わり方? いまから楽しみなような寂しいような。

 

■原作:練馬ジムさん(LINEマンガ)

■脚本:藤井清美さん

■音楽:鈴木ヤスヨシさん

■演出:二宮崇さん、室井岳人さん、加治屋彰人さん

■プロデューサー:松本圭右さん(東海テレビ)、古林都子さん(The icom)、渋谷未来さん(The icom)