年間ランキング 次は10位ですが、気がつけば12月も20日!(早っ!)世間も一年を振り返りはじめています。焦る 急ごう。急ごう。残していた1位を先に発表します。10位はそのあとで。
勘が鋭いかたが多いので、たぶん
先日 映画『ドライブ・マイ・カー』の感想を書いてしまったので、1位は『アレだろう』と思われたかた多いかもしれないですね。みなさん勘が鋭いから そして、同じ意見のかたもいらっしゃるかもしれないし。
そうです、そうです。2023年最高に素敵だったドラマ1位は『グレースの履歴』です。3月~5月、NHK地上波、再放送でした。全8話。
とにかく着想が素晴らしくて。
とつぜん事故で亡くなった妻(尾野真千子)が遺したドライブレコーダーの履歴を、夫(滝藤賢一)が辿るというストーリーも素晴らしかったのですが、それ以上に衝撃を受けたのは、これが「車の物語」だったことです。
いや、間違ってます。これは「詩情あふれるロードムービー」であり、「夫婦の深い絆の物語」であり、「再生の物語」です。単純に車の物語ではありません。けれど!
毎回オープニングでメタセコイアの並木道を走る真っ赤なスポーツカーが、あまりにカッコよくて。見とれていたら、なんとそれが、1960年代、ホンダが開発した車であることがわかり(4話)ビックリ仰天。感動してしまいました。
車は実在するんだ…!
車好きのかたなら、見てすぐ「伝説の名車S800」だとわかったのでしょうけれど、私は外車だろう、くらいに思っていて。それがまさか、日本の、ホンダの車だなんて。しかも昔の。夢にも思いませんでした。
60年代、日本はまだ世界に相手にされない時代。メイド・イン・ジャパン(工業製品全般)は「安かろう、悪かろう」と言われた時代の 名残りが残っていた時代です。先進国の仲間入りがチラと見えたのは、おそらく大阪万博が成功した’70年くらいからです。そんな時代に、ホンダはSシリーズを開発して世界に打って出た。そして見事成功した。
妻が遺していった「S800」は、そういう海外で売れた車のひとつでした。
最初のオーナーが、グレース・ケリー モナコ公妃だったというエピソードが明かされる4話は、もう卒倒しそうでした。鳥肌が立ちました。もちろんフィクションですけれど。インパクトが強すぎて、だから、このドラマを「車の物語」と言いたくなるのです。
希久夫(夫/滝藤賢一)は長野・安曇野あたりを走っていたとき、オーバーヒートさせてしまい。「仁科オートサイクル」に立ち寄り修理を依頼します。
ただのバイク店ではありませんでした。オーナーの仁科征二郎(宇崎竜童)は若い頃、S800の開発にたずさわったホンダの技術者だった!
そして、当時は海外に支店があるわけでなく、欧米で車のアフターサービス(メンテナンス)が必要になったら、よく駆り出されたと話します。バイクレースの監督として世界を転戦していたからです。近くにいる者は、誰でも駆り出された。
あるとき、イタリアでのレースが終わって、モナコへ行かされた。
モナコの郊外で出会ったのは、そのひと! グレース・ケリー・モナコ公妃でした!
若き日の仁科征二郎を演じたのは毎熊克也、爽やか好青年でしたが、50年経つと宇崎竜童になっちゃうんですね。歳月は過酷だ。いやヴィンテージだ。
そして別れのとき。
希久夫(滝藤賢一)が修理費を支払おうとすると、仁科(宇崎竜童)は「もう、もらったよ」と、ポケットから車の部品を取り出します。そこには、あの日、50年前、彼が刻んだ「7 Sep.1967 S.Nishina」のサインが!
気絶しそうでしたよ。あまりにカッコいいシーンで。
亡くなった妻(尾野真千子)が、なぜ、愛車を「グレース」と呼んでいたのか。
すごい奥さんです。車の趣味が良いだけでなく、たぶん相当高額だったその車を(”あのグレース・ケリーが乗っていたユーズドカー”ですから)思い切って買う度胸と、経済力。きっと投資で蓄えたんですよね。余計な空想ですが
そして、「グレース」の正体を知って、夫(滝藤賢一)は何を感じたのか? 何も感じなかったかもしれない。妻はそんな夫の 理科系思考、のんきさを愛したのだから。とにかく履歴をたどる旅は、5話からが本番、長野・松本へ、滋賀・近江八幡へ、瀬戸内から、愛媛へ…続いていきます。
こだわりがハンパない黒澤組ならぬ「源組」。
このドラマの原作は源孝志さんです。脚本、演出も、です。強いイマジネーションがあるから、脚本も演出もやっちゃうのでしょうか。
そういう監督、いましたよね…世界のクロサワ、黒澤明監督。
いくらなんでも並べて言うな、と叱られそうですが、でも、監督個人がどうこうというより、「チーム力、総合力」で連想してしまうのです。
「黒澤組」とよく言われます。
監督の素晴らしいイマジネーションに惹かれて、優秀なカメラマンが、照明マンが、ロケ地コーディネーターが、プロデューサーが、いろんな才能が集まってきます。最高の絵を撮るための「こだわり」を実現してくれるのは、そういうスタッフです。源孝志さんの作品を見ていると、それを強く感じます。『グレースの履歴』でも、詩情ゆたかな風景や、照明の美しさ、大道具・小道具のこだわり(そもそもS800というこだわり)、もちろん人物のこだわり…いくらでも画面から楽しみを見つけることができます。
すみません。長くなりました。ほっておくと一晩中喋りそうなので、最後に、最近の作品(ドラマ)を書いて終わります。
2023年、一番素敵だと思ったドラマは『グレースの履歴』でした。皆さんの1位は何でしょう?
『京都人の密かな愉しみ』 2015年1月~2017年5月/不定期
『京都人の密かな愉しみBlue 修行中』2017年9月~22年5月/不定期
『平成細雪』谷崎潤一郎原作/2018年・4回
『スローな武士にしてくれ』2019年3月23日
『正月時代劇 ライジング若冲』2021年1月
『忠臣蔵狂詩曲No.5 中村仲蔵 出世階段』2021年12月