なるほど村上春樹の世界

 

ちょっと訳あって、必要にせまられて、映画『ドライブ・マイ・カー』を見ました。

ご存じのように、カンヌ国際映画祭で「脚本賞」をはじめ4冠を達成した作品です。脚本・監督:濱口竜介さん(脚本は大江崇光さんと共同執筆)、主演:西島秀俊さん、共演:三浦透子さん他

 画像は拝借しました

 

 

上映時間が長いんですよね。179分、約3時間です。途中で眠ったひと、見るの止めたひと、少なくないと思います。それなのにどうして4冠なのか、不思議に思いましたけれど、

ダイナミックだとか、感動的だとか、スリリングだとか、そういうパワー映画ばかりがヒットする昨今の流れに、一矢報いる、メモリアルな作品として評価されたのではないかと想像します。かつてのフランス映画のような、あるいはドイツ映画のような、大人の精神世界を描く作品よ、よみがえれ、みたいな。

個人的な評価は★★★★。

面白いというのではないけれど(言い方…)、見終わったあと、いろんなシーンが深々と心に沁みていることを感じます。

 

 

村上春樹さんの短編の映画化だそうです。なるほど。小説自体が、理屈で理解しきれない世界で、それが好きな人と、よくわからンという人に分かれると思いますが、たしかに映画もそういう感じです。

 

 

 

 

 

  ちょっとネタバレします

 

冒頭、いきなり裸の女性がシルエットで映され(後ろ向き)、物語を語り始めます。彼女はかつて女優で、いまは脚本家(霧島れいか)。

その横で裸で寝そべる西島秀俊。ふたりは夫婦です。

 

 

(ネタバレ本当にすみません)あとになって夫(西島秀俊)が語るのですけれど、彼女はセックスのあとに物語が湧き出る。でも、翌朝には忘れている。役者であり舞台演出家でもある夫(西島秀俊)は覚えていて、妻にメモを渡す。それを妻が脚本に仕上げる。夫婦の儀式みたいなライフスタイルです。夫はそれを深く考えていませんでしたが、妻にとっては、無意識ですが、過去に抱えた重い重い重いトラウマを昇華させている時間です。

その妻が、大きな秘密をのこして、ある日、とつぜん亡くなった。

 

 

 

これ以上はいくら何でもネタバレが過ぎるので避けますが、ひとつだけ、この映画で驚いたのは、残された夫(西島秀俊)が演出する舞台が「多言語劇」だったことです。韓国語、中国語、日本語、そして手話。それらが入り混じる劇です。そんな劇を見たことがないので最初は「?」「?」。リハーサルだけそうやって、本番では日本語に統一するのか?と思ったくらいですが(舞台は広島で開催されます)、ちゃんと本番でも多言語で、それが非常に新鮮でした。セリフではなく「音のハーモニー」を楽しむ。とくに手話の部分は静寂が続き、不思議なアクセントになっています。

 

 

その手話のイ・ユナ役を演じるのは韓国出身のパク・ユリムさん。美人で清楚で可愛らしく、情熱的で、知的でした。絶賛。

総合マネージャー的&通訳を演じる、韓国出身のジン・デヨンさん。

舞台でエレーナ役を演じる台湾出身の女優ソニア・ユアンさんなど、みなさん(当たり前ですが)上手くて素敵で、多国籍の、世界が共演する作品をもっと見たいと思いました。

 

 

 

あ、もうひとつだけウインク 誤解を恐れずに言えば”退屈しそうな”映画を、3時間、見続けさせたのは主演の西島秀俊の品格だろうと思います。この人は主張しない。

 

すべての物語の始まりになった妻を演じた霧島れいかさんもポイントでした。まるで存在が夢だったのではないかと疑うくらい美しく、儚く、悪魔的で、主人公を虜にしていたのがすごく納得できました。