交渉できるカードを持った!

 

『エルピス』が最終回を迎えました。

いい終わり方でした。

ネット記事の中には「グレーな結末」とか、「丸くおさめられた」とかの意見もあるけれど、いや、いや、みごとに成果をつかんでいますよね?

浅川恵那(長澤まさみ)と斎藤(鈴木亮平)の交渉場面…あれは見事でした。

 

 

つまり、かつては あの斎藤の手のひらでコロコロ転がされていた浅川恵那(長澤まさみ)が、最後は堂々と渡り合う人間になった。堂々?…いや、斎藤を圧倒するようなカード(切り札、チカラ)をもって交渉していた。「かけひき」できる存在に成長していた!

 

 

そういう物語として、最後は着地したんだ、と、私は思いました。

冤罪の事件解決でもなく、社会派ドラマでもなく、

名もなき弱き者たちの戦いの記。

ラスボス打倒をめざした勇者たちのドラクエ。

 

 

もちろん、ドラマは人それぞれに「見方」があるので、冤罪や権力者の犯罪をあばく物語として固唾をのんで見ていたかたが多いと思います。私も、最初のころはそうでした。

 

 

 

  社会派ドラマだと思ってた

 

なにしろ「実在する複数の事件から着想を得たフィクション」は、TBSでドラマ化が拒否され、諦めきれないプロデューサーは退職・転職までして…という情報が、スタート前に広まっていましたから、いったいどんな事件が描かれるのか?いったいどんなふうに事件は解決するのか?登場する人物たちはどう立ち向かうのか?…期待は膨らむいっぽうでした。

そして、実際ドラマが放送されると実に面白く、先鋭的で、リスペクト以外の言葉が見つかりませんでした。

 

 

でも途中で『あれ?』と思ったんですよね(悪い意味じゃありません)

7話くらいでしょうか?…八頭尾山(はっとうびさん)事件の冤罪の可能性を「フライデーボンボン」でゲリラ的に放送し、いちどは成功したものの、次に、目撃証言がひっくりかえる大スクープを放った時、予想外の反響の大きさにテレビ局は大混乱。関係者たちも大波に飲まれます。ディレクターだった村井(岡部たかし)は子会社に出向、岸本拓郎(眞栄田郷敦)は経理に、そして浅川は「ニュース8」に返り咲きます。

 

 

ここから浅川はどんどん拓郎と離れていきます。

つねに時間に追われ、「放送できない真実もある。番組をつぶすわけにはいかない」と言い始め、すっかり以前の”スター”に戻ってしまう…振り返ってみれば、このあたりも上手いですよね~…いちどは「飲み込めないものは飲まない!」と決めた人間も、何かの拍子で、守るものができれば、正義のための決心なんて簡単に捨ててしまう…実際、そういうものですよね…そうでない者たちは奈落の底に落ちていく。

浅川恵那はフツーの人だっただけです。

 

 

そんな浅川に絶望しつつ、拓郎はひとりで事件の取材を続けます。

このドラマが、「旅」が、終わらなかったのは、ひとえに岸本拓郎のジャーナリスト魂が暴走したからです(本人にはそんな自覚はないけれど)

 

 

 

 

  主演男優賞は、眞栄田郷敦!

 

7話、8話あたりの眞栄田郷敦の何かに取りつかれたような取材は、見応えがありました。

今シーズンの主演男優賞は、眞栄田郷敦!

助演ではなく、主演男優賞です。

このドラマ後半の主演は、長澤まさみではなく、まちがいなく彼でした。

彼がひたすら取材してまわり、インタビューをつづけた迫力と緊迫感は、まったく予想外でした。ひとりの俳優が脱皮した瞬間を目撃したのだと思います。

 

 

そして、彼は冤罪事件の確かな証拠をつかみますが、なんと浅川の「ニュース8」に邪魔をされ、世間に公表できなくなった…なんという裏切り!拓郎の怒りは頂点に達します。

 

そんな拓郎に、村井(岡部たかし)は大門亨(迫田孝也)を紹介します。

 

ここが、<転換点>でしたね…振り返ってみると。

 

副総理の娘婿であり、長年秘書をつとめてきた亨(迫田孝也)、かつて一門の議員がレイプ事件を起こし、もみ消したこと。そして、そのあと、被害女性が自殺したこと、を、インタビュー・ビデオで告発すると言います。

 

罪の意識から逃れられない、一生背負っていくしかない、と、大門亨が語ると、拓郎も、

「僕も…」…「自殺した友達のことを…思いながら…仕事しています」と吐露します。

「フライデーボンボン」でアイドルにチョッカイ出していたころの拓郎とは人間が変わった!

 

そしてこの告発ビデオが、最後、切り札になります。

 

 

 

 

  「殺されますよ!」

 

拓郎と電話で話したあと、部屋のチャイムが鳴り、亨は引きずり出されます。数日後、車の中で死んでいるのが発見され、警察は「自殺」と断定するのですが、殺された!…拓郎にはハッキリわかります。

 

このあと、村井おじ(岡部たかし)が「ニュース8」のスタジオに暴れこんで、セットから何から叩き壊し…浅川(長澤まさみ)は大きなショックを受けます…

 

「上司としてはパワハラ、セクハラ、最悪だったけれど、報道人としては尊敬できる先輩だった。その人がスタジオで、何より大切にしていた場所でああなっているところを見たから(どうしても理由を知りたくて、君の家に押しかけてきた)。君が私を信用できないのも、私に力が足りないのも、わかってる。でも、逃げられない。ここから始めるしかない」

 

今更…と、きっと拓郎は思っただろう。私も思った。

拓郎が真相を追いかけ、決定的な証拠をつかんだときも、逃げたじゃないか!

 

そんな ちょっと納得できないところも抱えつつ、ドラマは最後の「ニュース8」の、あの対決へ向かっていきます。

拓郎に、そんなことしたら「殺されるよ!」と言われながら、今回の彼女は逃げない覚悟ができたようです。「テレレレッテッテレー♪」、浅川のレベルが上がった。

 

 

 

 

  切り札を持っている!

 

そして、あの対決シーンです。

大門亨(迫田孝也)のニュースを外してくれ、と頼む斎藤(鈴木亮平)。そんなことしたら、世の中への打撃は はかりしれない。斎藤は斎藤で、国のことを思って交渉しているんですよね。

それは(権威にべったりではないことは)信じられる。

 

 

しかし、今回の浅川は「でも、それが真実」と一歩も引きません。

交渉できる人間になっている!

以前の、すぐ説得される浅川とは違う!

 

 

そして、「では、本城彰を(もともと浅川たちが追いかけていた”冤罪事件”の真犯人)逮捕させて。本城彰を逮捕するまで邪魔をしないで」と駆け引き、斎藤もさすがの人物で、そこしか落としどころがないと判断して、言います。

 

 

「今夜のトップニュースで出して構わない。明日まで待つと、君は事故か病気で出られなくなる」と告げます。

 

 

わかります。

浅川が、いま、無事でいられるのはテレビ局にいるから。放送直前のスタジオにいるからです。そこを一歩出れば、人の目がないところに行くと、亨と同じように拉致される。

浅川や拓郎たちを守るのは、世間の目なのだ。

 

 

力のない者たちが闘うには、結局、世の中を味方につけるしかない。

 

 

 

最終回の、あの対決シーンを見て思ったのです。

そうか、このドラマは社会派ドラマというより、ドラクエ(戦いの旅)だったのか。

何者でもなかった者たちが、闘い、破れ、そしてまた起き上がって…しだいに「勇者」となっていく戦闘記だった…。

あくまでも、わたし個人の見方ですけれど。

 

 

 

 

切り札を切れる人間になりたい、と、思っています。

力のある人間(たとえば会社の上司)と交渉できるだけの、情報や、切り札を持てるように、常に心掛けよ。と、思うのですが、現実はいつも やられっぱなしですね~。

ほんとうに良いドラマでした。