Paradox ~夏の日の奇跡~
( SIDE クオン )
頭からシャワーを浴びながら、さっきの…会話を反芻する。
「彼は…敦賀さん、敦賀さんはね…日本で『敦賀蓮』を知らない人はいないって位、有名な俳優でね、私の…目標で…事務所の先輩なの。」
そういって…少し照れながらも嬉しそうに話すキョーコちゃんと、そんなキョーコちゃんを優しい目で見つめる彼に…二人の関係を悟った。…だから、彼が…そうなのかと…思ったんだ。
彼女の特別な王子様…でも、彼じゃなかった 。
「あなたの名前…彼女のショーちゃんは…あなたですか?」
ショーちゃん…という名前を出した途端、彼の顔色が変わった。
そして…牽制された。彼女は俺のものだって 。
彼女が幸せなら…それでいいんだって…そう思いながらも、なぜか面白くなかった。
彼が…成功してる俳優だと…聞いたからかもしれない…。
どんなに望んでも…常について回る…『クーの息子』という言葉。
それは、同じ演じる立場の人間のやっかみだけじゃなく、監督やスタッフの態度にも如実に現れる…。
俺は…父さんの副産物じゃない…。
自分の演技を正当に評価してもらえない苛立ちは、年を重ねるごとに大きくなっていった。
役者としても成功していて…キョーコちゃんという恋人もいる…。
そんな彼を妬ましいと…人を羨んだのは初めてだった。
本当はもっと考えなきゃいけないことが山ほどあるのに…
なぜか、そのことばかりが頭を占拠していた。
彼女が作ってくれた夕食は…どれも美味しかった。
お世辞抜きに美味しいと驚いてみせると…彼女は可愛い笑顔を見せてくれた。
はにかむその笑顔をみているだけで…幸せな気持ちになれる。
彼女の笑顔には特別な力があるみたいだ。
食事を終えて部屋に戻った俺は…窓の外を眺めた。
ここは日本…それに、テレビをつけて流れてきた情報で、今が未来だということを知った。
( 俺は狂ってしまったのだろうか…?現実だとはとても思えない…。)
先のことを考えると、とても眠れそうになかった。
それに目を瞑れば…またあの暗闇の中に落ちていくだけだから…
喉の渇きを覚えて、俺はキッチンへと向かった。
すると…明日の仕込みをしていたらしいキョーコちゃんの姿が見えた。
「待って…いかないで、お願い…私のそばにいて … 」
彼女の切ないその声に、胸がきゅんっと…締め付けられた。
彼女の手には台本が握られていた。
( そういえば…彼と同じ事務所に所属してる…って言ってたな…
キョーコちゃんも…芝居を仕事にしてたなんて…なんて、偶然なんだろう…。)
どんなにつらくても…芝居をやめようと思ったことはない…。
きっかけは父さんだけど、俺は…純粋に芝居が好きなんだ…だから 。
キッチンには彼女以外の姿はなかった。ソレを確認すると…体が勝手に動いた。
俺に気づいたキョーコちゃんが台本を背に隠した。
「コーン?!…ど、どうしたの…?」
そこにいたのは黒髪じゃなく…短めの明るい茶色の髪色の彼女だった。
そんな彼女の姿を見て…どこかほっとした。
自分だけが…変わってしまったわけじゃないんだなって思えたから 。
「黒髪は変装用だったんだね…ね、それって…台本?」
そういって、彼女が隠した台本を取り上げる。
「あっ!」
驚いた顔をした彼女が周囲を見渡して…他に誰もいないのを確認すると…
小さな声で教えてくれた。
「実はね…まだ、敦賀さんに云ってないんだけど…
初めて、主役をもらったの…///
深夜枠のオムニバスドラマの一つなんだけどね…。
休み明けには撮影が始まるから…こうしてこっそり…セリフの練習してたの。」
「主役だなんてスゴイね…でも、どうして秘密なの?
だってすぐ撮影も始まるんでしょ?」
「そ…そうなんだけど、云わなきゃ…と思いつつ…も…その、云いづらくて…」
台本を開いて…パラパラと内容を読んでみると…
彼女が彼に言い出せなかった理由がわかった。
恋愛ドラマ…ラストシーンにはラブシーンもある…。
芝居をしてるものなら当然おこりえる事態だけど、やっぱり同業者であっても
好きな子が…他の男とキスをするのは嫌なものだよな…。
父さんも母さんもプロだから、お互いの仕事に関しては干渉したりしなかったけど
そういうシーンがある日は、なんだか空気が微妙だったから…わからないでもない。
今まで…同業の子と付き合っても、気になったことはなかったけど、
キョーコちゃんが…って考えると…俺もなんだか、面白くないな…。
それに…会ったばかりの俺に牽制してくるくらいの彼だから…独占欲は強いんだろうしね。
まぁ、それだけキョーコちゃんが魅力的だって…ことの証明なのかもしれない。
綺麗な女の子なら…小さい頃からたくさん見てきた。
だけど、彼女には…他の子には感じなかった魅力がある…。
それは…小さな好奇心…のはずだった。
さっき…垣間見た彼女の演技…彼女と演じてみたいと思った俺は、
彼女に挑戦的に云ったんだ。
「ねぇ、キョーコちゃん…俺と勝負してみない?」
このことがきっかけで…本気の恋の苦しさを知ることになるなんて
このときの俺は…思いもしなかったから 。
次回は…キョコちゃんVSクオンの演技対決?
そしてそこで…何かが起こる??
いよいよラブバトルが勃発?! うしし…w
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