ACT. 14 碧い石の導く所へ…
(SIDE レイノ)
舞台にスポットライトが当てられ…ラストシーンが始まる。
2階のVIP席からそれを眺め…時計をみつめると…隣りから声が聞こえてきた。
「いよいよだな…」
「そうですね…」
俺がそう応えると学園長は隣にいる少女に話しかけた。
「お前も…これでいいんだよな?」
「はい…お父様。」
学園長の隣りには…舞台に立つ彼女と瓜二つの少女が立っていた。
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『Atlantis ~碧い月の夜に~』 ラストシーン
(SIDE キョーコ)
暗転した舞台のうっすらとした明かりの中で…
彼が見せてくれた羅針盤はタイムリミットを告げようとしていた。
「これでよかったのかもしれない…。」
苦笑しながらそういった彼に…かける言葉が見つからなかった。
私の中の迷いがこの結論を招いたのだと思ったから…。
アトランティスへの郷愁…彼は帰りたがっていたのに…。
空の青に海の青…彼と過ごしたあの丘の上の花畑…
彼と共に生きるのはあの島がいい…そう…私も思っていたのに…
「レンっ…」
それ以上…何も言えなかった私に彼が柔らかく笑って言った。
「あの日の約束…覚えてる?」
あの日の約束…それは…
彼に愛されながら…願った私の気持ち…彼に捧げた愛の言葉…。
「愛してる…あなたとずっと…生きていきたい。
たとえこの世界が滅びようとも…私の魂はずっとあなたのそばにいる。」
そう…それはどんな世界にいても変わらない私の気持ち…
「それは…この世界でも有効かな?」
彼のその言葉に応えようとしたとき…幕の外で大きな歓声があがった。
「観客の皆さんが選んだのはプリンスは~~~レン王子!!それでは感動のラストシーン…ご覧ください。」
その声と同時に暗転幕があがり…私は彼と…ラストシーンを演じる。
碧い月が南の空に上る…海が見えるここはクレイトの丘…
目の前に広がる青と白の花が…まるであの日の海のようで…
シンクロしていく記憶…
滅亡に向かうアトランティス…守りたいと願った…あの島へ私も帰りたい。
叶わぬ想いに自然と涙が零れた…そんな私を彼は優しく抱きしめてくれた。
互いを見つめあう二人…
迫りくる津波を演じる手が止まり…観客席も固唾を呑んで見守る。
近づいてくる彼の瞳を見上げ…そっと目を瞑った私に重なる…彼の唇。
甘くて切ない…その口付けに場内からため息が漏れた…。
と…その時だった。
ぽぉ…っと…私の服や髪飾りのオリハルコンが金色の光りを帯び始めた。
そして、ポケットの中の…彼の羅針盤と私の碧い石が…強い光を帯びて輝きだした。
光りの正体に…彼と顔を見合わせた私…
すると石は空へと向かい上っていき…彼の手のひらにあった羅針盤からは光りが泉のように溢れ出した。
それはまるで金色の海のように…観客席が光りで埋め尽くされていく。
そしてひときわ眩い光りを放ちながら上っていった碧い石から光りの柱が現れた…。
その光景に…彼が私の手を強く握り締めて言った。
「たとえ世界が終わりを告げたとしても…君と一緒ならどこへ行っても怖くない……俺が望む未来は…君のいる世界だから…。」
彼の言葉に私も応えた。
「私の幸せも同じ…あなたがいなきゃ…ダメなの…。」
そう言って抱きしめあった2人を大きな光りが包み込んだ。
…場内からは大きな歓声があがった。
そして…光はその彩度を増していって…眩い閃光を放った。
眩い閃光に目を瞑る刹那…私に向かって何かを叫ぶショータローの姿をみたような気がした…。
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「まぁま?まーまー…」
柔らかな風が吹いている小高い丘…温かな肩に寄りかかって…
転寝をしていた私を起こしたのは…可愛い愛息子の声だった。
「ねぇね?…いつになったらてんしたんやってくる?」
その声に頭上から返事が返ってくる。
「そうだなぁ…いつになるか、神様に聞いてくるから…神殿に飾る花を摘んできてくれるかい?」
「わたった~」
そう云って花畑へと元気よく走っていくあの子を見て…微笑みながら彼に聞いた。
「誰に聞くの?…彼はもう神殿にはいないのに。」
光りの柱へと飛び込んだ私が…目を覚ましたのは彼の腕の中だった。
アトランティスを救うため…この身を捧げたはずだったのに…
この世界も…私も無事だった。
その時…心配そうに覗き込む彼の手には…見慣れない羅針盤が握り締められていた。
あれからアトランティスは…
頻繁に起きていた地震もピタリと止み、民には笑顔が戻った。
王宮へと戻った私たちは…ポセイドンの神殿へと急いだ。だけど…彼の姿はどこにもなかった。
しばらくして…私は一人でポセイドンの神殿へといった。
誰もいなくなった神殿の洞窟…
そこから見える空と海の青を見たとき…彼からのテレパスを感じた気がした。
「止まっていた時が動き出したんだ。だからもう…寂しくない…」って…彼が笑ったような気がしたの。
それからしばらくして…
レンはアトランティスの王となり、私たちは…アトランティス全土の祝福を受けて結婚をした…。
ショウ王子は…私たちの結婚式の後…世界を見てくると旅に出て…そのまま…
そのまま…連絡もよこさないで…散々人に心配をかけておいて…こんな手紙を送ってよこしたのよ。
「お前よりいい女を見つけたから…今度見せてやるよ?
今更後悔したって遅いんだからな?俺にはもう娘もいるんだから…」
って!!その手紙には妻子を連れて島に帰ってくると書いてあって…それをみた王妃様や王様もすごく驚いて…隣国では今…大騒ぎになってる…。
ショウ王子らしいわ…と呆れ顔をしながらも…彼が幸せになってくれてほっとした私がいた。
時が解決してくれるのね…と感じる出来事は他にもあった。
だって今ではミモリ姫も立派なお母さん…いい人を見つけて幸せに暮らしてるんだもの。
そんなことを思い出していたら…隣りで彼が私に言った。
「クス…気持ちよさそうに眠っていたよ?昨日は…頑張りすぎたからね…。」
「もぉっ!!あの子に聞こえたらどうするの??」
「ん?…だってあの子の希望じゃないか…兄弟が欲しいって」
そう云って花摘みに夢中になってるあの子を確認してから…私を抱き寄せるレン…
「それはそうだけど~~~。」
照れながら…そう応えた私に…彼ったら…ちゅっ…と髪にキスをして…
「あの子が寂しくないように兄弟はたくさん作ってあげないと・・・ね?」
そう耳元で甘く囁かれた。www …だけど…あの子が欲しがるのなら…
「…そうね…寂しくならないようにしてあげたいわ。」
あの子を初めて抱きしめた時…彼を思い出したの。あの子は…
孤独だった彼の生まれ変わりのような気がするから…だから…
「じゃあ…今日も頑張らないとな。」
「もぉっ…レンったら…/// 」
花を抱えたレイノに声をかけて…私たちは宮殿へと帰った。
(SIDE レン)
アトランティスは無事だった…
それはおそらく彼の力によるものじゃないかって…思ってる。
この世界に戻ってきた彼女には…あの学園での記憶は残ってなかった。
あの世界の事も…俺が過ごしたあの長い月日もすべてが夢だったように思える。
いや…今いるこの世界の方が夢なのかもしれないと…時々不安になる。
幸せすぎて…だから、そんなときは…この羅針盤を取り出して…彼を思い出す。
カチコチカチコチ…
あの子が生まれた日から…時を刻みだした羅針盤…。
碧い石に導かれるように…出現した光りの柱…あの日の奇跡は今もまだ続いている…。
そしてそれは…もう一人の彼女がいる世界でもきっと…。
次回はいよいよ最終回…の予定です。