作者の朝倉かすみさんは北海道出身なんですね。作中で、実家の北海道とやり取り…や、北海道の温泉に行くシーンがありましたので、もしかしたら…と思っていました。
「たそがれどきに見つけたもの」は、短編集です。全編中年のおじさん、おばさんの話です。中年とは、四季に例えると晩秋で、それって味のある時期ですよね。よくも悪くも心も体も違ってくる年代で、作者はそれをそれぞれの話で語っています。6篇が載っていましたが、私は「その日、その夜」が好きだったので紹介します。
主人公のきむ子は小説家。独り身のまま中年になり、最近は体の調子が悪かったりしたせいで、酒をやめ、遠くのスーパーに健康増進を兼ねて買い物に行くようになりました。
小説家としての仕事は順調で、書き始めのころは会社に勤めながら書いていて、本が出る頃には忙しすぎて大変だったくらいが、今は小説一本で食べていけるくらいの稼ぎではあります。
これはたぶん皆さんだれもが思っていることかもしれなけど、小説だけで食べていけるスーパースター的な人はほんの一握りで、主人公はそんな人たちに嫉妬しながらも、自分も年をとってなかなか捨てたもんじゃない、と思うようになります。
冬至の日、主人公は今日も体の左側が痛い、と思いながらもかぼちゃを食べる準備をします。トイレに行ったらごはんにしよう、と思ってトイレに行くと…。
主人公は、トイレで倒れているところを発見されました。一週間もたってから、担当者がマンションの管理人に連絡を取って発見、という流れだったようです。小説家という職業柄、仕事が詰まっていれば人前にでなくても仕方ない、と思っていたら死んでいたということで、死因は心筋梗塞でした。
短編だしあっさりしてるんですが、私がこの作品を好きなのは、この話の流れとかではなくて、主人公が誰かのためについついグリーティングカードを集めてしまうというところや、母が行った歌舞伎で紙切り芸人に弁慶を切ってもらう話、そういう普通なことの思い出が好きなんですよね。
普通の小話が好きなのは、江國香織さんが好きなのが影響してると思います。あの人の作品は80%が小話できていると思うんです(笑)たんたんとしていて好きです。
この作品でも最後、主人公がトイレで死んでいて「尻を出して死ぬのはイヤだっただろうな」と弟がぼんやりつぶやきます。主人公は一度トイレで意識を失ったことがあったので、お尻を出したまま死ぬのは嫌だなぁと思っていたのです。
中年って、体にガタが来はじめたり、いろんなことが変わる年代じゃないですか。更年期障害の人もあれば、だんだん中年に差し掛かって体のシルエットに自信がなくなってくる人、なんの趣味も持たなかった人が急にアイドルに目覚めたり…。
作者の方もこういうことを経験してきたくらいの年の方だそうですが、うまくかけてるなぁと思います。うちの母が55歳ですが、更年期障害に悩んだり、親の死や介護問題、父の定年問題など、抱えるものは様々です。私たちみたいに、自分たちと子供のことだけ考えてりゃいいってわけじゃないんですもんね。
これを読むと年取るのが怖くもなりますが、悪い方に考えるんじゃなくて、こういうのが普通なんだよ、て教えられてる気がしますね(笑)
うちの母にも音読して聞かせてあげたいです(笑)字が細かくて読書なんかできない、とボヤきますんで(笑)
では、また何か読んだらまた書きます。