・西陽追い機は雲上に眼下には大地色無く吾うつつなり

機は一旦太平洋上に出てから反転して北西に向きを変えた 日本海を越えるとやがてソ連の上空である ほぼ太陽を追いかけているので時間が進まない 機体が傾くと時々大地がはっきりと目に入る ソ連は広い どこまで行っても景色は変わらず町らしきものも見えない
やがて時間の感覚が少しづつ宙に浮き始めた ひと寝入り出来たのか出来なかったのか 目を開けると太陽が左の窓から差し込んでいた 右の窓には地平線が遠くに見える ソ連の大地は暗く川が大きくうねり黒く光っているのが見えた しばらく遠くに見える黒いうねりを眺めていた・・・

 

 

 大きな機体の振動で我に返るとアナウンスが流れてきた 私が理解できたのだから日本語だったのだろう 間も無く中継地モスクワに着陸する モスクワの飛行場は広くあまり他の飛行機は見えなかった 着陸して止まった位置が随分空港ターミナルから離れていた タラップを降りて驚いた ターミナルまでの間ほぼ10メートル間隔で銃を持ったソ連兵が立っていた 冷戦の時代 しかも共産圏の軍隊 下手な動きをしないように真っ直ぐ一列になって前の人に続いて歩いた・・・