入院中 | ありえない結婚生活~バカ中夫と共に…

入院中

無事に次女望みを出産し、


アクアは5日間ほどの入院生活を送ることとなった


当たり前だが、周りは出産を終え



喜びに満ちた母親たちが


生まれたばかりの愛しいわが子との時間を慈しんでいる。







アクアもその中の一人のはずである。


しかし、穏やかに日々をすごせるはずもなかった。


外界としっかり隔離された病棟であっても


周りを囲む環境は容赦なく進入してくるものである。


アクアを守ってくれるはずの防波堤が


あまりにも不完全だったのだから


仕方ないといえば、仕方ないのかもしれない。





トライアングル支店の事務員さんは


アクアの出産直前に入社したばかりで


何かを任せられるほど期待を寄せることは出来なかった。


頼るべき夫にも、まだ安心して経理を預けるわけには行かない。


ただでさえ、ぎりぎりの経費をいくつか滞らせたまま捻出しているような


特殊な経理状況だったのでなおさらである。





それに加え、長女杏里は


ロタウィルスに感染し、預け先の姉の家で


毎日嘔吐と下痢を繰り返していたのだ。




そんな状況だったのだから、穏やかなはずの病室の中でも


望みが寝ている時間は外の世界のことで頭がいっぱいだった。




その状況が


「早く、一日でも早く退院しなきゃ…」



そう、アクアを駆り立てていたのだ。





夫は二日に一度は病院に顔を出してくれた


仕事からみの報告もあったのだが、次女の顔を見るのも嬉しかったのだろう。


頼りないはずの夫なのだが、


それでも顔を見るだけでほっとした。



夫は間違いなくこの特殊な環境を乗り越えている


たった一人の同士だったのだ。



その夫が笑顔を見せてくれるだけで


なんとなく安心してもいいような気持ちになれた。






喫茶店のママは一度お見舞いに来てくれた。


子供好きのママはこのお見舞いを楽しみにしていたようで


割と遠い病院だったのにもかかわらず夫に運転手を頼み


いつもの派手な服装に香水をつけ


大きな声で病棟に現れた。




夫が来ると聞いて姉を気を利かせ


まだ、体調の悪い杏里を連れてきてくれた。


幼い子供の気持ちを考えてのことだったと思う。



姉はママを一目見てこういった。




「あの人が噂のママ?あの人私嫌いやわ。」




姉は昔から人を見る眼があった。


人間に対する洞察力があったのだろう。




それでも、ママは世話になっている人である。


アクアは声をにごらせるしかなかった。




この時、アクアはまだママの本質をまだまだ見抜いてはいなかったのだ。