最近娘の抱っこコールが激しい。
今までの人生でこんなに自分を求める人がいただろうか。いや、いない。
とにかく娘は朝も昼も夜も私を呼びつける(泣いて)
へい、へいっ。
坊主頭の丁稚奉公より呼びつけられてる。
そんなわけで肩から背中から全部がバッキバキ。
呼び出し激しい丁稚奉公だからマッサージとか整体なんて夢のまた夢。
娘のブロックの角の上に寝転んで患部を刺激すると言う、健気な処置をしている。
気分だけはシンデレラ
シンデレラはあかぎれた手を心配するネズミや小鳥に『大丈夫よ』ってほほえむの。
私はブロックに『大丈夫か?壊れないか?割れるなよ。』そう願いながら全体重をかけるの。
押し潰されるブロック。可哀想にこんな事のためにこの世に誕生したんじゃないだろうに。
でも耐えろ。
悩みん坊、万歳!って松岡修造も言ってたじゃないか。
そして無情にも走って来た娘の歩行器にはねられる。
ぐぉっふっ 小指…我の小指は無事か…
シンデレラ、カボチャの馬車に轢かれ終了
見兼ねた母がバンテリンを塗ってくれると言う
ありがてぇ、ありがてぇ。
丁稚奉公に戻って背中を出す。
これがとんでもない悲劇を招くなんて
昨夜私はとんでもなく疲れていて
目は開いてるけど頭は働いていない状態だった。
おそらく背中を出した時点で意識が行方不明。
「はい、終わったよ」と言う母の声で意識が帰宅。
はー、やれやれ。
どれバンテリン。お手並み拝見しようじゃないの。
今日のベルサイユは大変な人ですこと。
丁稚奉公から次はアントワネットになった気分。
5分後
あれ?なんか…気のせいかな
10分後
これ、いけない気がする。
脳内でイケナイ太陽がこだまする。
歯がガチガチ鳴るほど寒気がする。
遭難?人類初の室内遭難?
『寒いんだけど…』
私がいうと母がはぁ?すっとんきょーな声を上げる。
『ねえ、バンテリンってこんなにキツいの』
『寒くて指先まで震え出すんだけど』
痙攣じゃないよね?怖い。
ベルサイユは大変な人どころじゃないよ。
乗車率300%。窒息まったなし。
「塗りすぎたかな?」
おい、母。
かな?じゃないよ。
どのくらい塗ったのか尋ねると「自分でいつも塗るときと同じくらい」
分からねぇ。
会社の飲み会の二次会で酔った幹事に会費いくらか聞いたら「大体で良いよ」って言われたくらい分からねぇ。
母にそのいつも塗るときの実演を頼む。
母は背中を出すと
とんでもないスピードでバンテリンを塗り出す。
エアホッケーでもしてるかのような軽やかさと力強さ。
ざっと20往復。絶望のラリー。
「こんな感じ」
どうすんのよ、私そんなに塗られてんの?
肩から背中からバンテリンテロに遭遇。
泣き崩れた。
寒い。寒くて仕方がない。
母にお風呂で流すように言われる。
入浴はすでに済ませてあったのだが、再びの入浴を決意。
申し訳ないが寒い脱衣場で服を脱ぐなんて無理だ。
ストーブの前で全裸になった。
真っ直ぐ立てない。
90度、直角に腰を曲げてガタガタと震えながら風呂場へ向かう。
すれ違いざまに娘の顔を見たらぽかーんと口を開け、眉間にシワを寄せて私をみていた。
すまん、娘。
お風呂からあがってきたら またいつもの母に戻るから。
しばらく待ってておくれ。
世界でこんなに汚い笑顔があるだろうかと言う笑顔を娘に向け『ちょっと待っててね』と声をかけた。
風呂場に到着。
もう誰も入る人もいないし、かけ湯もせず浴槽に浸かる。
これが第二の悲劇を呼ぶ。
寒い…お湯の刺激で私の肌内部のバンテリンが暴動を起こす。
お湯に浸かるとますます寒いじゃないの。
背面でええじゃないか運動開催。
ええじゃないか、ええじゃないかー。
バンテリンいっぱい塗ったって
ええじゃないか、ええじゃないかー。
寒くても
ええじゃないか、ええじゃないかー。
バンテリンたちの熱い思いを感じる。
20分くらい経つとバンテリンたちの暴動も沈静化。
そして私は気づく。
パジャマがストーブの前にあることを。
また全裸で来た道を戻らなければいけない。
行きはよいよい
帰りはこわい
バスタオルを巻き付け開き直り
奇跡の生還!俺の勇姿を目に焼きつけな!くらいの気持ちで乗り込んだ。
肝心のパジャマは娘が歩行器で踏みつけられている真っ最中で、なんなら車輪に絡まって邪魔くせーな、と娘は粗末に足ではらう。
おおパジャマ。共に戦った戦友よ。
今助けるぞ。
パジャマを広い上げると娘も再び訪れた自由に喜び駆け出す。
車輪が私の足の小指を轢き去る。
テロに暴動に轢き逃げに次ぐ轢き逃げ。
濃厚な一夜だった。
しかし、我は勝つ!我は勝つ!
ビーンチェーーーーロー!
なんて言ってたら娘
トゥーンドット姫になってしまい、本当に誰も寝てはならぬされてしまった。
