い・・・一万円!これが??

一万円!

渡された風呂敷づつみを持ちながら、私はどうしたらいいものか、その「セット」をただ、呆然と見つめていた。
「あの・・・。これ・・・、一万円出すんですか?」ボソッと私はSさんに聞いた。
「そうよ。だって〇〇ちゃん入信したじゃないの!」とSさんは弾むような声で言うではないか。
しかも、札所のおばちゃんもニコニコとした笑顔で私を見てるではないか。



しまった!
はめられた!!

そう思った時は既に遅かったのだった。
周りを見ても信者だらけ。しかも、札所に来ている信者はみんな、こっちを見ているではないか。
もうマジで逃げ場はない。

身を守る為にも、私はしかたなく、渋々と財布から一万円を出して、札所のおばちゃんに渡した。
「どうぞ、良いことがありますように」とおばちゃんは、言った。
チャリ~ンとお金が飛んでいく音が私には聞こえた気がした。

はあ?良いこと?この時点で・・・
ねーよ!!


ニコニコするおばちゃんと、右隣にいたSさんに向かって、私の心の声は、そう叫んでいた。

「じゃ・・・、〇〇ちゃん。そろそろ帰りましょうか。帰りに渋滞に遭ったら大変だものね。」とSさんは言った。
2時を少し過ぎていた頃だった気がする。
一気に、空腹感も前夜からの仕事の疲れも、何もかもぶっ飛んでしまったカンが湧いてきた。
頭の中が真っ白な感覚になってしまった。

「そうそう、〇〇ちゃん。帰りなんだけど、別な信者さんのお宅に寄って帰りましょうね」とSさんは例の広大な駐車場に向かいながら、道すがら言い始めた。
同行していた信者のおばあさんも
「そうだね、これからの話なんかも聞くといいかもね」と真剣な顔つきで言っていた。

「これからのこと?まだ、なにかあるわけ?勘弁してよ・・・」私の心の声は、そう二人に向かって言っていた。
広場を出るまで、あの敷き詰められている、玉砂利を踏みしめる音だけが、ヒジョーに虚しく私には聞こえていた。

駐車場に着いて、私は行きも帰りも助手席に座り、支部のおばあさんは後部座席に座っていた。
運転は行きも帰りもSさんだった。

貴重な私の一万円と交換した「セット」の大きさは幾つか何かが中に入っているようで、ちょっとした重さではあった。
一番下にはサイズで言えばA4位の大きさだろうか。そこに積み重ねるように「何かが」入っていた。
高さは15cm位の風呂敷包み。この風呂敷も色は白。

支部のおばあさんが「膝の上に乗っけなきゃだめだよ」と教えてくれた。
「その中に、御札も入ってるんだからね」だって。

「御札・・・・・」ああ・・・・、まいった。どうしよう。愕然としながら、車は帰路に向かった。
地元に帰り着くかな・・・という時間帯に隣の市に「別な信者さんのお宅」はあった。
結局、そこに上がりこまなくちゃならなくて、渋々もうろうとしながら、あがった。

「このかたが、新しく入信した〇〇さんです。今日、御札とか頂きに行ってきたんですよ」
Sさんは半ば得意げに、信者さんに報告した。
「そう。良かったじゃないの。ささ、お茶でも召し上がって」
とお茶とお菓子を出された。

それから、その信者さんがなんであの会に入信したのか、そんな話が始まった。
ほとんど聞いてなかったが、やはり家庭の問題があって、解決するのに入信したそうだ。そんな事を言ってたように思う。

お茶とお菓子が空腹感通り過ぎた私には、マジで染みた。

「さっ、その風呂敷包み開けてごらんなさい」と信者さん。
「ただし、開ける前には、手をあわせてから開けるのよ」と。

言われるままに、そうやって風呂敷包みの結び目を開けた私は、

どひゃーん・・・・!!!

一番上には、あの教会で「偉い先生」が言っていた「火除けの笹の葉」が入っていた。
その下には何やら、長細い紙にこう書いたものが入っていた。


大宇宙神



これが、会の「御札」だそうだ。
Sさんが
「〇〇ちゃんのうちには神棚はあるの?」と聞いてきた。
「ええ・・・、もちろんです。親が熱心にもう何十年とお祭りしてる、神様があって。山の神様なのですが、大山根津の尊といいます。特にその団体に入って拝んでる、というのではなくて。個人として拝んでる、という程度なんですが」
と話した。
「じゃ、その神様の御札は近くの神社で燃やしてもらって、この御札に変えることね」
「えっ・・・、燃やすって。何も親には話してないし、ちょっと・・・・」
「あら、それをしなきゃ、良いことなんてあるわけないじゃない」
「えっ・・・・」周りの信者は私をガン見してた。
「はぁ・・・。話してみますけど・・・」弱気な私のできる限りの返事であった。

親父も母ちゃんも激怒するだろうな。というのは想像に値していた。

「あっ、そっれで、毎日綺麗なお水をお祭りしてね。朝一にコップでいいから。そして必ずそこに入ってる教本を読んで。お祈りは欠かさないでね」とざっとSさんは話した。

1時間位いただろうか。
じゃ、帰りましょう、ということになって、そのお宅を出た。
朝集合場所にした店の駐車場で解散したのだったが、なんだかんだで、結局夜は8時に近かった。

もう、疲れきって、ふらふらでうちに帰った。

それからが、私にとって悪夢の連日になるとは思わなかったのだった。



つづく・・・。