溺れる舟 | 毒を持つ人

人生論を語る気はないのですが、

順風だけの人生などめったにありません。

波間の舟のかじ取りは、達者な人間にも大変です。

大波をかぶって、ぐらりと舟が傾くことは、誰にでも起こり得ます。

人生の海を漕いでいる限り、舟は揺れつづけています。


揺れる舟に、すーっと近寄ってくるのが、寄生ボーダーです。

「教えてあげる、助けてあげる、味方をしてあげる」

猫なで声でそう言いながら、彼らの手は、こちらの舟の縁を掴んでいます。



航海がすすむうち、ボーダーさんは口を出すようになります。

ああしろこうしろ。

指示には、善意があるようです。

最初のうちは礼を言い、そのとおりにしています。

そのうちに気がつきます。


この舟はわたしの舟なのに、どうして、あなたが動かしているの?


振り返ると、ボーダーの手はこちらの舟の縁をまだ掴んでいます。

自分の舟を動かせば?

そう思うのですが、ああしろこうしろ、は止みません。

自分で自分の舟を漕いで好きなところに行けばよいものを、

航路も航法も、ボーダーさんが掌握しているようなそぶりです。


「このままでは、危ないから」

「ほうってはおけないから」

「心配だから」


本当に危険なのでしょうか?

もう一度、後ろを振り返りました。

この舟を揺さぶり、この舟は危険だから注意しろと旗信号を立て、

ひとの舟にしがみつきながら、舟の底に穴をあけている人がいる。

ボーダーさんだ。



わたしの為に生きてちょうだい。

寄生ボーダーはそう言っています。


「ヒロインになりたいわたしの為に、嫌われたり、失敗したり、くじけてよ」

「奴隷のように、わたしに尽くして、皆の前でわたしに感謝し、わたしの功績を認めてよ」

「わたし以外の人と仲良くしないでよ」

「わたしの影響下にいてよ」

「わたしの引き立て役でいてちょうだい」


自分の力で舟を漕ぐことができない毒人間は、他人の舟にしがみつき、

他人の舟を自分のダダ漏れの自我で満たそうとします。

寄生理由とコントロールに効力をもたせるために、毒人間は、

【善意】と【正論】をふりかざします。

つけこむ隙をさがして、毒人間はこちらの落ち度をじーっと探しています。

完璧な人間などいないのですから、それは必ず見つかります。


「お前はまちがえているんだよ。だから教えてあげているんだよ」

「お前は出来の悪い人間なんだよ。だからうまくいかないんだよ」

「ただしい道はこっちだよ」

「分かってないね。だからダメなんだよ」

「わたしだけはあなたの味方だよ」



毒人間は、『救済者』の顔をして、舟に接近してきます。
本当は自分が溺れているのですが、毒人間はそれを

他人が溺れていることにして、

自分はうまく漕いでいる航海者のふりをします。


「ここに溺れかけている舟があり、わたしはそれを助けています!」


自分の善行と、相手の落ち度は、毒人間にとって、自慢すべきことです。

どんな小さなミスでも、重大なことが起こったと、大声で

言いふらさずにはいられません。

本人は、『救済者』なのですから、それは正当化されます。

自分がしがみつく舟の価値を貶め、舟が逃げられないように、

寄生ボーダーは悪評で寄生先の退路を断ちます。



悪口のようでいて、悪口ではない。

~してあげる、~してあげた、~してあげたい。

善意のかたちを借りているので、万人が納得します。



毒人間の”善意”とは、ターゲットの舟の縁にしがみついて、舵とりを奪い、

航行可能な舟を、溺れさせようとするものです。

他人の舟を揺さぶっておいて、

「あーら、大変。どうしましょう」

周囲をうろうろして、懸命に、救おうとしてみせます。

ここに穴の開いた欠陥舟があるんだぞと吹聴し、船主が悪い注目を

浴びるのを見て、悦びます。

「助けて!」

本人の代わりに、周囲の舟の救援を集めることまでやってのけます。

他の人が出てくると自分の出番がなくなるので、

「この人は傲慢で、人に助けを求めようとはしない」

寄生ボーダーは、船主が悪いことにして、上手に他の人を遠ざけます。



「人命救助をしているわたしを見て!」

「それなのにつれなくされた、わたしを見て!」

「ほら、わたしの助言を拒んだから、この人は沈もうとしている!」



わざとらしくびしょ濡れになってまでして、通りすがりの舟にも

泣いて訴えずにはいられません。

第三者の目には、素晴らしい善人の、救出劇にしか見えません。

舟尾を押さえている毒人間をふりはらおうとしてもがいている被害者は、

疑心暗鬼で人間不信の、加害者にみえます。


もはや航海どころではありません。

寄生虫の重みで、舟は転覆しそうです。

助けているふりをしながら、寄生ボーダーは叫びます。

「ほら言わんことではない。人の教えや好意を拒んだから、滅んだのだ」


親切なボーダーさんを受け入れたらいいのにねえ……。

被害者は、僚船からごうごうたる批難を浴び、軽蔑され、罵倒されます。



自分自身の核がない毒人間は、誰かの舟に寄生することで、

舟を動かしているような気になるのかもしれません。


被害者は沈みますが、毒人間は、生き残ります。