ユキの家
「足洗ったら、中入って来い」
裏口近くの水道まで僕を案内すると、ユキばあちゃんは家の中に入っていった。
お化け屋敷のような家だった。
学校の帰り道に必ずこの家の前を通るけど、家主は見たことがなかった。
サンダルに砂利をつけたまま、僕とユキばあちゃんは強い日差しの中、二人で歩いた。
家に来る途中で、近所の人から『ユキばあさん』と呼ばれていることや、
一人息子がいて、ちょうど僕と同じ小四の男の子と、小二の女の子の孫がいることも聞いた。
ユキばあちゃんのだんなさんは、ずいぶん前に亡くなって、息子さんとも離れて暮らしているから、
ユキばあちゃんは一人でこの家に住んでいる。
「スイカを切ってやる」
と、ユキばあちゃんは台所に立った。
まな板を洗い、包丁を出し、皿を準備する…
ただそれだけのことなのに、その曲がった腰のせいか、ものすごく時間がかかった。
僕は、ろくに包丁も使ったことがないのに、ユキばあちゃんから包丁を奪い取って、スイカを切った。
スイカよりなにより、台所が汚かった。
そんなことばかり考えて、これからスイカを食べようとする僕の頭には、
さっきの汚い台所の光景が何度も何度も思い出された。
ユキばあちゃんはじっと僕を見ていた。
僕は意を決してスイカにかぶりついた。
つづく