Beatlesのアルバムをその内容と年代の関連から大きく3つに初期、中期、後期と分けた場合、Help!は中期の始まりを告げるアルバムである。
別の言い方をすると、お揃いのスーツを着て、仲良く首を振っていた、あのいかにも「元気一杯の時代」である初期は早くも遠く、Beatles=みんなのアイドルという立ち位置にもそろそろ終わりの雰囲気が漂ってきた時期のアルバムだと言える。
 それまで、エルヴィスを超えるのだ、最もポップな存在の中の最もトップな存在(the toppest of the poppest)を目指すのだと、強烈な上昇志向を胸にバンドを牽引していたジョンは、その自信満々の力感溢れるスタイルはどこへやらという感じで、前作から突如内省的、もっと言うなら敗北的詩風に方向転換してしまう。
 No Replyでは好きな女に居留守を使われストーカー(!?)に、I'm A Loserでは文字通り、見かけの成功とは裏腹の負け犬気分を吐露、I Don't Want To Spoil The Partyでは恋人に待ちぼうけを食らわされてそれでも嫌いになれないと歌う。本作でもTicket To Rideでは恋人との破局に慄き、You've Got To Hide Your Love Awayでは対人恐怖症的疑心暗鬼をちらつかせる。You're Going To Lose That Girlで「恋のアドバイス」ならぬ恋の恐喝みたいなことを喚いて強がって見せるが冗談にしか聴こえないし、本人が大嫌いだというIt's Only Loveでは君が前を通り過ぎるだけで僕はメロメロなんて甘いことを言ってみるがとても本気だとは思えない。そして、本作のタイトルナンバーにおいては、もう耐えられないHelp!と叫ぶわけである。
 一体全体どうしたことか?何かあったのレノンさんという感じであるが、本人の発言などを読むとどうもいわゆる一つの「燃え尽き症候群」であったようで、62年の10月のデビュー以来イケイケドンドンで世界制覇(アメリカ制覇)を目指して突っ走ってきた結果、64年の前半に見事その目標を果たしてしまうとそれからどうして良いか判らなくなってしまったということらしい。自分が求めていたものは果たしてこれだったのか、いや違う。同年代の文学的で含蓄のある詩を書くBob Dylanにアメリカで会ったこともその疑念を大きくするきっかけとなったのだろう。のちにジョンはこの時期を振り返って、フォーキーな曲想や詩風を指して「僕のディラン時代」、自身の容姿やその精神状態を指して「太ったエルヴィス」と総括することになる。 
ここまで読まれると、Help!の時期がジョン・レノンにとってはいかにもネガティブなものだと思われるかもしれない。しかし、それは違う。この時期があったからこそ僕らはいま「ジョン・レノン」という偉大なるアーティストを得ることができたのだ。生々しい苦悩や痛みを諧謔的ユーモアで包みつつありありと活写し、その極で愛と平和の理想にたどりついてしまう、詩人ジョン・レノンの歩みはこの時期から始まったのである。