推理小説・推理ドラマって、どうやってできているの?

推理小説・推理ドラマって、どうやってできているの?

全くの初心者が、推理小説・ドラマについて、読者・視聴者の立場からではなく、小説や脚本を書く立場から、どんなふうに知恵を巡らせて、視聴者の興味を引き付けるのか、その構造や創造のコツについて、作品堪能後に、ああでもない、こうでもないと素朴に考えるブログです。

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複雑重厚でありながら、特に後半スリリングな展開でした。デビュー作でこの内容はすごいです。

 

■主な登場人物

○同級生三人組・当初の容疑者:喜多芳夫、竜見譲二郎、橘宗一

○相馬弘、秋間(相馬)幸子 ~ 藤原巌刑事部長

○太田ケイ

○学校関係者:嶺舞子(被害者)、日高鮎美、金古茂吉、三ツ寺修

○三億円事件:内海一矢

○警察関係者:構呂木義人、寺尾貢・大友稔

 

■場面設定と語りの視点

●舞子の事件当日から

・語りの視点は基本的に喜多

●取り調べ(15年後)

・語りの視点は主に構呂木

・場合により寺尾

 

■登場人物の関係設定

●舞子を軸とした関係①

○舞子はレズビアン

・レズビアンの同人誌の写真の発見がきっかけ

・同人誌に載っていた文の原稿が遺書に転用される

○舞子と太田ケイとの関係

・隣人女性の証言から太田ケイとの関係が明らかになる(レズビアン)284

○舞子と日高鮎美との関係322

・太田ケイとの関係から類推される

●喜多を軸とした関係

○太田ケイとの関係:恋人

○相馬の妹との関係:なぜか当時から心通じていた(伏線)

●橘を軸とした関係

○喜多・竜見との関係、日高鮎美との関係

○本作の人物設定のキーは橘

・三人組は一体ではない。

・橘と鮎美は恋愛関係(生徒と教師、友達以上恋人未満)

・誤って舞子を殺した鮎美を守るために工作を考えたのは橘

●舞子を軸とした関係②

○舞子と三ツ寺(校長)と太田ケイとの関係

・太田ケイは実は三ツ寺の実の娘

・三ツ寺が舞子にテストの回答を渡していた(秘密の受け渡し場所で)

●相馬を軸とした関係

○相馬と喜多・竜見・橘との関係

・自分だけあだ名がない、三人から疎外されていた …

・舞子の殺害は三人組と推定、それなのに自分が疑われた

○相馬と妹との関係

・妹は後の巡査になった秋間幸子

・幸子は、(少女の時)誤って兄の自殺を助けてしまった思い込み、ずっと自分を責めている

・兄の残したメモを通して三人組を疑う。刑事部長に三人組の情報を提供したのは秋間幸子

○相馬と妹

・第3の軸といったところか

・主軸に絡ませるための要素:捜査のきっかけになる情報提供をする、そのベースに三人組への疑いと恨みがある

●内海を軸とした関係

○喜多・竜見・橘

・喫茶ルパンの店主と顧客という関係(場所の接点のみ)

○舞子の殺人事件との関係

・三億円事件の時効の日に、学校の金庫に隠した五百円札を取りに行った際、舞子の事件を目撃

・三億円事件と舞子の事件の接点は、日にちと場所の偶然。日にち:テストの窃盗が三億円事件の時効の日に実行された、場所:三億円事件の証拠を校長室に隠していたため

・舞子の殺す必要が生じたのは、細工をした金庫に舞子が監禁されていたため(生きていると、金庫を鑑識に調べられる)

○内海の筋

・これが本作の重厚感を増している(二段ロケット)、主軸とこの第二軸との繋がりも自然

●金古を軸とした関係

○鮎美との関係

・金古の盗聴テープに舞子の事件が録音されていた。それをもとに金古は鮎美を脅迫。そのテープが15年後の事件の証拠に。

 

■ストーリーのテーマは何か

●作者にとっては、テーマよりもプロットか

・二段ロケット、2つの大きな事件をどう必然的につなげるか。

・学校、高校生などの場面設定へのこだわりはそれほどない? 一方、青年期の三人が15年後にどれほど違った姿になったかが鮮明に描かれる。

●以下は意識したテーマか

・時効

・時をおいた捜査、2視点での記述(当時の当事者と今の取調べ刑事の視点)

・レズビアン

・教師と生徒(恋愛感情)

・秋間幸子の設定(ストーリーのスタートと終焉、幸子の感情)

 

■ストーリーはどう作ったのか

●実際の事件の流れ(種明かし)

○舞子が鮎美に校長室で迫る、鮎美が誤って舞子を殺害(実は失神のみ)

○鮎美を守るため橘が鮎美に偽装を指示(金庫に舞子の”死体”を入れる)

・徽章を校長室に落とす、その徽章は鮎美が持っていることを生徒は知っている、そのため死体が校長室で見つかることを避ける必要388

○校長室を盗聴していた金古は鮎美を脅迫乱暴

○喜多・竜見・橘が校長室からテストを盗む。その際、橘が金庫で舞子の”死体”を確認(偶然を装う)。実は死体ではなく仮死状態。

○太田ケイより舞子から電話がない旨、連絡を受け学校に来ていた三ツ寺が、竜見の声をきっかけに学校から遁走

○テスト窃盗後に学校に戻った橘が偽装工作(自殺の偽装、二階から投身の偽装)

○金庫から五百円札を取りに来た内海が舞子事件を目撃

○舞子が死んでいないことを知った内海が舞子を五階から落とし殺害、自殺の偽装

●当初わかっていた事実およびそこからのストーリー展開(全ページ439

○舞子が遺書を残し五階から投身自殺。遺書は失恋を伺わせる内容

○検視が十分行われず、警察は自殺と断定

○殺人なら時効の当日となる日、警察に「舞子の事件は自殺ではなく三人組が殺害した」との情報提供があり、捜査開始

○喜多と竜見が比較的早く見つかり、取調べ開始

○喜多の供述から三人組が殺したとの感触が得られない

○しかし当日の三人組の目撃から、舞子自殺を打ち消す事実が出てくる(失恋の相手が見つからない、舞子が金庫から出てきた、… )

○その後の展開

・舞子はレズビアンだった276(全ページの63%時点)

・舞子と最後に目撃された白い靴の女は誰? 学校から遁走したのは誰?

・太田ケイが怪しい?

・鮎美が怪しい?348(79%)

・橘も怪しい?356(81%)

・1時の電話に出たのが舞子かどうかあやしい361(82%)

・鮎美発見、自供377、橘関与など全容明らかに

・鑑識の結果と矛盾400(91%)、鮎美は舞子を殺していない証拠も出る

・金庫のからくりが明らかになり、内海の線が出る406(92%)。その後、内海逮捕

・最後に秋間巡査が自殺した相馬の妹であることが喜多に明かされる(420)。また三人組に関する情報提供者が秋間であることが署長から構呂木に明かされる。

●コメント(まとめ)

○実際の事件では橘がカギになるが、それが最終盤(81%)にならないとわからない。三人組が一体との誘導が巧みに行われる。

○舞子がレズビアンであることが63%時点でわかり、他の女性との関係の推理を根本的に変える必要が生じる。

○校長の三ツ寺の線、金古の線、太田ケイの線などが張られるが、それぞれがストーリー上で一定の役割を果たしながら本筋でないことが示される。

○午前一時に竜見が掛けた電話の相手が舞子だったという“事実” (実は橘の偽装、実際は鮎美)が推理を混乱させる(収束させない)のに有効に機能している。

○タイトルから内海がカギになることは想定できるが、最後の最後(91%)でその線への展開が図られる。金庫の線はやや強引に感じるが、内海の自己顕示欲の強さがそうさせたとの設定である。

○ストーリーの最後に秋間巡査が相馬の妹であることが明かされる。今回の再捜査のきっかけが秋間の情報提供であり、その秋間の思いで物語が閉められる。

あらすじはdorama9さんの以下を参照。

https://dorama9.com/2019/06/13/post-106931/

https://dorama9.com/2019/06/20/post-108097/

 

●前編のストーリー上のポイントとシナリオ作成上の工夫

(†:筆者コメント)

○藤井が同級生の田山を刺し殺す。藤井は北山とSNSでつながっていたが、北山も同級生3名を毒殺していた。

○北山・藤井は、山の豪雨災害の時に、近くの学校の校長(吉田鋼太郎)に助けられる。その際、校長が若い北山・藤井を優先して助けたために、自分の妻と教え子が逃げ遅れて死亡していた。

†この豪雨災害から藤井の同級生殺害までの経緯が事件解明上のポイントになる。

†この救出の状況は校長の口からしか語られていない。関係者が必ずしも本当のことを言っているわけではない(ミスリードの有力手法)。結果的には大きくはズレていなかったが … 。

○藤井がやってないと言いながら留置場で暴れる。

これを挿入する意味は? 緊取は送致逃れと見立てるが … 。

○事件2ヶ月前に藤井に何か起こる?

†弱みを握られ脅される? 誰に? 隠さないといけないことが生じる?(結果的にはそうであったが、この時点で推定することは不可)

○38分:藤井「どうせ僕は殺される … 」

†結果として、前の「自分はやっていない」も「僕は殺される」とも真実。このあたりの伏線づくり視聴者へのヒント提供も脚本作成上のスキル(タイミングと内容の程度) … 。

†「校長に殺される? 救助の際に藤井に恨みを持つ何かが起こる? 足のケガに関係? 校長に山に呼び出される?」などと推理したが、現実はもっと複雑。「恨み」ではなく「弱みを握られる」に近いものであった(詳細後述)。

†「北山に殺される線は? 北山はすでに3人やっている。北山と校長が実は深く繋がっている?」なども考えたが、大外れ。一つの情報群に対して、推理の幅は思った以上に多様なものにしうると感じた。

†推理が外れる原因としては、常識的な推論をしている明らかになっている情報に偏りがある重要な情報が隠されている(これがクライマックスまで出されないならそれは反則 … 。適切な伏線づくりは必要)

○53分:校長との会話と北山の聴取が同時並行。その結果、人の命の重みを理解させたい校長をいつまでも恩着せがましく鬱陶しい奴と考える2人が崖から突き落としたことがわかる。

複数の局面から同時に種明かししていくためによく使われるテクニック。

○ここで前半終了。最大の謎は「助かった校長が二人にそれぞれの同級生を殺させた? なぜ?」

①どう教唆した?

②なぜ同級生を殺させることが人の命の大切さを教えることになるのか?

 

●推理のポイント-校長がどういう目標を持つか

○二人を矯正させる

・あの二人にこれができれば理想

・二人を自分と同じ境遇において考えさせる?

・上の2つの謎の解明につながらない …

○二人を破滅させる

・二人を生かした上で破滅させる? 校長にそう転換させる強い理由が要る … 。

・また、どう脅すと二人に同級生の殺害を決意させられるかも謎 …

○二人に復讐する

・自分の期待を裏切った二人を傷つけることで復讐する。

・一番普通だが深みに欠ける

○結果は、どれも外れ … 。

 

●後編のストーリー上のポイントとシナリオ作成上の工夫

○北山:(校長をがけ下に突き落としたことに対して)もし校長が自分たちを警察に突き出すような行動をとれば大変なことになるということを校長に示したかった。

†ちょっと無理筋? むしろ校長は警察に言って彼らを止めることを考えるのではないか?

○北山:自分は死ぬために山に来ていた。ところが助かってしまった。それをいつまでも亡くなった人に感謝しろと言われてはかなわない。自分にとって筋違いの言われ方。

常識的な考え方を裏切るストーリーで不合理はない。助かったことに感謝するためには、生きたいという意志があるのが前提。想定を裏切るためには、その前提を反転させるしかない

○北山:同級生は友達でもなんでもなかった。殺すまでは考えていなかったが、痛い目に合わせることに抵抗はなかった。

†これも、常識的な考え方を裏切るストーリーで不合理はない。同じ反転と考えられる。

○藤井の供述と梶山管理官の救出・報告が同時に進む。

†先述の複数の局面から同時に種明かしをするためのテクニック

○藤井:校長が同級生を刺す場面を見たと供述する。

これまで供述しなかった理由が必要(具体的には、校長と自分との関係が分かれば、北山と自分との関係や自分が毒物を生成した事実がばれる、が理由であった)。

†ここで、2つの同級生殺人事件が全く別の性質のものであったことがわかる(医大生殺しは何と校長が犯人)。前半のラストの「最大の謎」を裏切る展開

○藤井の供述から、校長が若い二人を先に逃がした理由が、別にあることを匂わす。

・校長の聴取の際、それを校長にぶつける。具体的には、「北山と藤井に校長が同級生と不倫関係にあったことを目撃されたこと」。

・緊取はこの不倫の持ち出しで、校長による「保身を図るための供述の嘘」を突き崩す。

†一方、単なる不倫の露見を防ぐための殺人という安っぽい結論を避ける工夫もあった。

・避難の順番を決める際に生じた一瞬のやましい気持ち(断じて不倫ではないが一片のいとおしい気持ちがあったことも事実 … )が、永遠に本人を苦しめている。その行為自身は誤ったものではなかった … 。

†その行為(優先順位を決める行為)自身は誤ったものではなかったが、その後、医大生の殺人まで至る点にはやや飛躍があるか。また、その動機は結局、不倫の露呈を防ぎ保身を図るということに帰着しないか。

 

●まとめ

○関係者にどう供述させるか。関係者に必ずしも本当のことを言わせる必要はないが、そうするための合理的な理由は要る

○いきなり真実がわかっても視聴者は反則行為と感じるので、適切な「伏線づくり」「視聴者へのヒントの提供」が重要(適切なタイミング内容の程度も必要)。

○一つの情報群に対して、視聴者の推理の幅は思った以上に広範。視聴者の推理が外れる原因としては、常識的な推論をしている明らかになっている情報に偏りがある重要な情報が隠されているなどが考えられる。それらをどう仕込み視聴者の裏をかくかがポイント。

複数の局面から同時に種明かしをしていくテクニックをうまく使う。

常識的な考え方を裏切るストーリーづくり。北山の「死ぬために山に来ていた」や「同級生は友達でもなんでもなかった」などが典型。

○常識的に不自然な設定には、それなりの理由を用意する必要がある。自分に有利になる供述を全くしなかった藤井の例(校長が刺殺するのを目撃した)など。

○別の人物に普通では考えられない同種の行動をさせることで、大きな謎を生むことができる(北山と藤井にそれぞれの同級生を殺させる共通の何かがそうさせたと視聴者に推定させる)。結果としては、共通の何かがあってもなくてもよい(本作は後者。全く別種の殺人)。

○どんでん返し(校長が殺人者)を設けるにしても、「安っぽい結論(高潔な校長のはずが不倫発覚防止のために殺人)を避ける工夫が必要。安易などんでん返しは作品の格調を大いに下げる。そのための工夫が最後のひと踏ん張りといえる。

あらすじはdorama9さんの以下を参照。

https://dorama9.com/2019/06/07/inhand-rating-netabare09/

 

●推理をしていく上で、以下の2つの筋が繋がらない

○市毛(「高家=濱田岳」の恩師)が難治性のアレルギーで入院

・病院長がその治療をしていない。

○紐倉(山下)のかつての上司福山(時任)がBSL4の実験施設の建設を計画中

・厚労局長の瀬川(利重)がそれを主導

 

●こういう場合、普通の常識では予想できない関係が設定されている

○本作では、「市毛が実は実験施設の建設に反対している」がその関係。

○なお、治療をしない病院長は厚労局長側のメンバー(これはあらかじめわかっていたこと)

 

●ここでは、「市毛が意識不明であること」がシナリオ作成上のポイント

○市毛の意識があれば、本人施設や局長との関係を紐倉や高家に当然話す。

・意識不明の設定:脚本家が明かしたくない事情・関係を伏せておくことができる

○一方、紐倉・高家が実は市毛の周辺人物に当たればその辺の事情はわかるはずだが、そこまではやっていない設定(視聴上、それで不自然ではない)。

 

●上記の「現実的には(つまり周りに訊けば)わかるじゃん!」との視聴者の反応は、どこまで想定しておくべきか?

○ターゲットとする視聴者が違和感を持たない範囲なら問題ない?

・今回の「周辺人物に聞けばわかるはず」との疑念は、かなりミステリーに長けた視聴者が想起すること?(ターゲットであっても番組進行から一旦離れて熟考すれば想起できること?)。そうであれば問題ない?

・完全な論理性の担保( = 現実場面)はなかなか難しいはず。

緊取第9話は最終回との2話連続だったので、自分的には面白いと思った第4話について、「シナリオとはどう作るものか」という観点から自分なりに考えてみました。

 

なお、あらすじはdorama9さんの以下を参照。

https://dorama9.com/2019/05/02/post-81466/

 

●ストーリー上のポイント

○前半

・2014・2018年の女子高校生連続殺人事件の犯人として樫村荘介が逮捕される。

・その直後、二日前の夜から行方不明の女子高校生(福永真希)も樫村荘介が監禁していることが強く疑われる証拠が出る。これまでの事件ではだいたい拉致4日で被害者が衰弱死しているので、残り時間はあと約30時間。

・荘介は完全黙秘。

・荘介の姉の茜(松本まりか)に事情を聴く。荘介は引きこもりで、祖母澄江(鷲尾真知子)は寝たきり。茜は町役場に勤めながら、引きこもりの弟と寝たきりの祖母の面倒を見ながら生活している(茜の不幸・不憫な環境が巧みに描かれる)。

・茜によると、母や優しかったが、父は特に荘介に厳しかった(虐待的)。17年前にその両親が火事で死亡していることがわかる。

・また、殺された被害者および拉致されている真希はいずれもバイオリンをやっており、また茜・荘介の母もバイオリンをやっていたことがわかる。

・荘介の話し方から、本人に知恵がある、あるいは裏があるようには見えず、緊取は、荘介が快楽殺人犯には見えないという。また、荘介が母の代わりに高校生を拉致したことも考えられるが、彼女たちを衰弱死させていることから、この筋も不自然とみる。

・当時の火災の映像などから、17年前の火災は、姉の支持もある中、荘介が自らを虐待していた父を殺すために放火し、手違いから母まで殺してしまったとの見立てが出る。

・茜も、いつのまにか自分の家庭は壊れてしまったと言う。

○転換

・緊取は、取調室で荘介に姉を会わせる。姉は優しく荘介に接するが、よく見ると荘介は姉を恐れているように見え、また姉のコントロール下にあるように見えた。緊取は、茜は弟の犯罪を知っており、また茜は、荘介が母まで誤って殺してしまったことに強い罪悪感を持っていることを利用して、荘介をコントロールしていると推定する。

・つまり、荘介は茜に依存しているが、茜も荘介の支配を通して自分の存在意義を確認しているという点で荘介に依存しており、二人が共依存の関係であると推定する。

・(荘介が自白した場所に真希がいなかったので)緊取は、真希の居場所を言わせるために、荘介を釈放し、やくざ上がりの真希の父親が荘介を暴力的に自白させる恐れがあると伝える。茜が真希の居場所を言えば、ただちに荘介を保護するといって、茜に自白させようとする。

○クライマックス

・緊取は、この作戦で茜が自白すると見ていたが、その話を聴いた茜は今まで張りつめていた緊張の糸が切れたように泣き出す。実は裏で糸を引いていたのは祖母であり、茜・荘介は、祖母澄江の完全な支配下に置かれていたのである。茜はそれを秘密にしておくために、ぎりぎりまで真希の監禁場所を自白しなかったが、大切な荘介の命も危ないことが明確になると、どちらの道(荘介を助ける道と祖母を守る道)も取ることができなくなったため、泣き崩れ、支配されている孫の立場に退行せざるを得なかったのである。

 

●感想

○どんでん返し

・最後に茜と荘介の共依存の関係があぶりだされ、それが隠されていた真実だと思った瞬間、「祖母が二人を支配していた」という大きなどんでん返しが待っていた。

○松本まりかの演技(守ろうという必死さ、その後の退行)

・必死に守り抜こうとしていた荘介と祖母澄江の両方を守り切れない状況に追い込まれたことがわかった瞬間、茜が泣き崩れ、退行(子供の時分に戻る)せざるを得なかった状況を松本まりかが迫真の演技で表現していた部分が感動的であった。演技のクオリティがここまでドラマを引き締めたものにすることがよく表れていた。

○祖母の憎悪の合理性

・祖母が、大切な娘を殺したということで、孫をそこまで恨み、虐待し、支配することが現実的かとも思われたが、「かわいい孫」という概念は世間一般に常識的に存在するものに過ぎず、より血のつながりの強い自分の娘への愛は、孫への憎悪に転じることは十分ありうると感じた。

 

●考察:このストーリーをどう作るか

どう作ったかは、脚本を書かれた香坂隆史さんに聞くしかないが、そんなことは当然できないので、私がアマチュア的に考えてみます … 。

○まず、描きたいテーマ(視聴者を唸らせたいテーマ)を決める。

・この回のテーマは、「肉親の憎悪やそれに伴う支配」であろう。また「共依存」もサブテーマとして十分強力である。

○推理ドラマとして、「本筋に見えるミスリード筋」と「本筋」を作りこむ。

・まず「誰でも考えるナイーブ筋」をつくる → 引きこもりの荘介による女性監禁殺人事件

・本筋に見えるミスリード筋をつくる → 姉弟に共依存関係が存在。姉が弟を支配し、女性を誘拐監禁させる。

・本筋をつくる → 祖母の憎悪に基づく孫の支配(逆に孫の祖母への依存

○以上の三本の筋を時間に沿ってうまく流し込む。

・まずは「ナイーブ筋」を着想させる情報を出していくが、その不自然さも併せて醸し出す(たとえば、荘介の素直な性格、裏のない言動。愛する母の代わりに高校生を連れてきたと考える筋の不自然さなど)

・つぎに、本筋に見えるミスリード筋をそこはかと匂わす(茜を荘介に会わせ、両者の言動・しぐさ・視線などを視聴者に見せる。より直接的に茜の荘介に対する冷たい言葉を視聴者に見せるなど)

・どんでん返しをまさにクライマックスの場面で見せる(緊取が緻密な作戦で追い込んだはずの茜が、最後の最後に緊張の糸が切れ、退行していかざるを得ない様を視聴者に見せる)。

○三本の筋の背景を作りこむ(つまり筋を「人の心理」からみて齟齬がないようにするための工夫)。

・祖母が孫を歪んだ形で支配する状況設定が必要:最愛の娘を孫に殺された

・支配の背景になるネガティブな感情が必要:娘を殺された憎悪

・姉弟が共依存関係になる状況設定が必要:弟の負い目(誤って母を殺す)、結果のひきこもり

・孫が自分の両親を殺した状況設定が必要:父親の過度の躾・虐待

・誤って母まで殺してしまうことが自然な犯罪設定が必要:放火

・ストーリーのきっかけになる犯罪が必要:女子高校生の誘拐監禁

・上記の誘拐監禁と祖母・孫の支配関係が整合する状況設定:死んだ娘の代わりを孫に連れて来させる

○以上の基本線ができれば、あとは細部の作り込みに焦点が移るか。

・折り重なり描かれる出来事間の相互関係に齟齬が生じない

・人の心理からみて不合理な点がない など

○脚本の作成作業が、なかなか大変であることがよくわかる … 。

 

あらすじはdorama9さんの以下を参照。

https://dorama9.com/2019/06/07/post-105846/

 

●前半の状況

○被害者等

・被害者:ネット広告会社の社長・宇佐美(霧島れいか)

・凶器:PCとIDカードのヒモ

・殺害時刻・場所:昼休みの社長室

○怪しい人物

人事部、梅田(三宅弘城)45歳くらい

営業部、橋本(入江甚儀)35歳くらい

アーカイブ室長、木崎(橋本じゅん)60歳(退職間際)

 

●前半の推論

○殺人の意図の形成時期

・主に「計画的」「衝動的・発作的」「偶然」の3類型が考えられるが、殺害時刻・場所を考えると、「衝動的・発作的」であろう。

・犯人は、おそらく梅田・橋本・木崎の「いずれか」または「共謀」であろうが、「衝動的・発作的」殺人なら、おそらく単独で、「かっとなってパソコンで殴り、IDカードのヒモで絞殺する」であろう。

○殺人の動機

・前半では、動機らしきものは出てこない。三人の中では、橋本に動機らしきものがみられたが弱い(失敗の原因を部下に擦り付けたのを社長に見抜かれ担当を外される)。警察もその線の読み。

●後半37分、情報漏洩が前面に出てくる。その後の展開は?

○後半37分、梅田がSNSで天海の取り調べを“圧迫取調官”としてSNSにアップしていることがわかる。

○年齢が異なる梅田、橋本、木崎が一緒に弁当を食べる仲であることがわかっていた緊取は、インターネットをサーチしたところ、木崎が内部情報を出しながら会社批判をしているブログを発見する。

○緊取は、木崎が社長から内部情報漏洩を理由に退職直前で懲戒解雇を言い渡され、それにカットなった木崎が発作的に社長を殺害したと推理する。また、梅田・橋本が捜査を混乱させ、木崎の逮捕を遅らせようとした理由を、木崎を退職させた後で退職金をゆすりとろうとしたからとの見立てを立てる。

○梅田・橋本を信じていた木崎は、緊取の“見立て”を聞いて、自らの殺人を認めた。

○しかし、実際は、梅田・橋本と木崎の信頼関係は維持されており、捜査かく乱の理由は、逮捕を遅らせ、木崎が退職金を受け取れるようにしたいがためであったことがわかる。

 

●考察

○梅田の人物設定

・梅田は、社長が殺されているのに、風評被害から自分の採用業務への影響を嘆くなど、大事な神経が切れているピンボケ社員なのか、落ち着いて警察の取り調べをかわす実は頭のよいしたたかな社員なのかわからない描写がされている。このような人物設定により、視聴者が推理のバリエーションを広げざるを得ない効果が得られている。

○三人の共通性の設定

・実際の梅田は前者のイメージに近い人物で、会社の出世コースからは外れている。結局、橋本・木崎も出世コースからは外れており、木崎は、過去の栄光にしがみついているタイプ、橋本は部下に失敗を押し付ける人格などで、その裏付けをストーリーの中で示している。また、その点が三者を結び付けており、最年長の木崎が、梅田・橋本の不満を聞く関係とされていた。各人物の整合性は取れている。

○「梅田・橋本による捜査かく乱の動機」の逆転

・一方、梅田・橋本による捜査のかく乱の動機について、緊取は、木崎の退職金をゆすりとろうとしたからとの見立てであったが、実際は、木崎を守ろうとしていたことが明かにされる。この逆転を自然なものとするために、前半の梅田・橋本の性格描写のバランスを工夫する必要があったと考えられる(梅田を、ゆすりを計画するような性格、悪知恵が働く人物っぽく描写する一方、木崎を守るために取り調べで何とか頑張ったとも見て取れる描写)。

○情報漏洩の伏線

・37分に情報漏洩が唐突に出てきた感もあったが、前半に橋本の担当業務で、CM撮影でのアイドルの予定が漏れたことが出てきている。ただし、情報漏洩をそのまま出すのではなく、部下への責任のなすりつけの場面として描かれ、漏洩がうまくカモフラージュされている。

 

●まとめ:シナリオ作成上の工夫

○性格描写の多義性(梅田)の設定による推理バリエーションの拡大

○シナリオ逆転を自然に成立させるための性格描写(特に梅田)の整合性・バランス設定

○伏線(情報漏洩)を目立たなくさせるための別視点(なすりつけ)の抱き合わせ

○おまけ:初めて出てきた社長秘書を和久井映見と勘違いしたため(実は鉢嶺安奈)、推理が大幅に乱された(笑)。

あらすじはいつものとおりdorama9さんからの引用です。

https://dorama9.com/2019/05/30/post-84748/

全体として、今回も脚本がよく推理が及ばなかった … 。

 

●前半の状況

○大久保が自首

・大久保(役名:伴佐知恵)が自首。前の夫(役名:坂本彰夫)が金をせびってくるのを自身の婚約を機に解消するため、坂本宅を訪問。その際、乱暴されそうになったため抵抗し、誤って殺してしまったと供述。証拠もその通りに揃う。

 

●警察の読み

・天海(役名:真壁)が、大久保の供述どおりの線にしたがい、安易な常識的な推理に流れる-珍しいパターン

・しかし小日向(役名:小石川)は、大久保の婚約者が2回りも下で、しかも大久保が殺人を犯しても結婚を破談にしない点から、婚約者に疑問を向ける。

・大久保が供述の際、話しすぎる点も不自然に描かれる。

・実際、婚約者に揺さぶりをかけると、不自然なリアクションが現れる。

 

●前半で推理が難しかった点

①仮に大久保が犯人でない場合、誰が犯人か?

・犯人はおそらく婚約者(これはある程度、予測がつく)

②婚約者が犯人の場合、その動機は何か?

③もっと大きな謎は、なぜ大久保が婚約者の身代わりをしたのか?

・「婚約者の愛をつなぎとめるため」などのチープな理由は考えられない。せっかく苦労の末、事業を成功させているのに、それを棒に振るような身代わりはありえない。

○逆に言えば、脚本作成上のポイントは、上記の②③について如何に合理的な説明を用意するか、ここに最大の精力が注ぎ込まれたはず。

 

●上記②③の種明かし

○上記の②について

・実は、婚約者と殺害された坂本はグルで、共謀して大久保から金を巻き上げようとしていた。

・これは、考えうる関係である(が想定できなかった)。脚本作成上、一見無関係に見える二人をグルにすることにより、視聴者の見立てを大きく裏切る展開が可能になる(どんでん返しの一つの“装置”といえよう)。

・婚約者が坂本を殺す動機は、①手下として支配されることの煩わしさの解消と、②大久保を貶め金づるとして縛り付けることを可能にする(詳細後述)という二つの大きなメリット、いわば一挙両得という点でうまい設定になっている。

・一方、最後の“動機のどんでん返し”において、実は相手を強く縛り付けることをねらっていたのは実は大久保であったことが明かされる(これも詳細後述)。

○上記の③について

・大久保も坂本を殴ったが、そのあと確認に行った婚約者も殴っていて、そちらが致命傷になっていた。

・大久保も加害者になっている点で、実は身代わりで出頭したのではないという設定に成功している(この点も想定できなかった)。

・両方を加害者にすることにより、視聴者の「大久保が出頭するはずがない」という見立てを裏切ることが可能になった。推理ドラマ構成上のテクニックなのであろう。

○学ぶべき点

・本作品のポイントになる上記の2点については、何ら不自然なところはなく、ズブの素人である当方としては、脚本作成上の学ぶべき点と言える。

・また、供述・物的証拠とも何ら不自然なところがなくかつ両者整合的であっても(当初の天海の見立て)、脚本家が知恵や工夫をめぐらすことにより、まったく別のシナリオが設定できるよい例と考えられる。実際こういう事案があった場合、警察で誤った捜査が行われる可能性もあろう。

 

●物的な証拠について

・殺害時の写真として大久保が提出した写真と鑑識時の写真との比較から、塚地(役名:玉垣)が犯行時間のズレを指摘した点も秀逸で、それが「殴打が2回行われたこと」への展開につながる。

 

●大久保は実はすべてを知っていた

○動機のどんでん返し

・大久保は婚約者の行動(致命傷を与える殴打)やその行動に至った動機、さらには婚約者と坂本がグルであった点も実は知っていたと供述する(いわば動機のどんでん返し)。

・したがって、「大久保は婚約者の身代わりとして出頭してきた」というのは結果的には誤った見立てではなく、実はそれが真実であったことが明かされる。

・また、その理由が婚約者との愛を確実にするためであり、その背景には大久保の深い人間不信を通した打算が介在しているのだが、その目的は彼女なりの懸命な愛の獲得であった点が最後に悲しく描かれる。

○このどんでん返しをもっと強調する手もあったのでは?

・なかなか深い設定であった。一方、この部分が時間の関係からか説明的にしか描写されていなかったため、当方は後での振り返りではじめてその深い意味に思い至った。

・婚約者の縛り付けは単なる金づるの確保という金銭目的であったのに対し、大久保のそれは情念としての縛り付けを求めたという点でより深さ・怖さがある一方、過去の生い立ちや自身の経験からそういう形でしか愛を求められなかったという点に悲しさがつきまとう。1時間でここまでを描き切るのは難しいか。

 

●まとめ、脚本作成上のキーワード

○他に解釈がないようなストーリーにおける別シナリオの構成(脚本家のテクニックと執念)

○グル、仲間、共謀などの適切な活用

○複数人による加害行為という選択肢

○動機のどんでん返しによるストーリーの深化、その際の本人の生い立ちなどの活用

今回は、『執事西園寺の名推理2』の第4話です。

前回同様、あらすじはdorama9さんのサイトを活用させていただきます。

https://dorama9.com/2019/05/18/post-83335/#anker3

 

●自分の途中までの読み

○推理に必要な情報が不足気味?

・ドラマで出されている情報から(脚本家の狙いどおりかは不明だが)推理は確かにミスリードされた。ただし、全体的に“楽しい推理”ができるほど情報が出されておらず、ミスリードというよりは、「推理は無理!」といった感じを持った。

・(読み)シングルマザーでスナック勤めの森村絵美(今回は基本、役者名で記載)が、子育てに必要なお金が足りないため、玩具メーカーHolly Toyのテディガールというぬいぐるみ(AI搭載)を盗み、ガンちゃん牧場の牧場主(岩井剛夫)とつるんで金を儲けた。Holly Toyの技術者である広田(役名)はテディガールを持つ森村を追っている中、ようやく森村を見つけ、追跡する。しかしその過程で広田が森村に絞め殺される。

・この読みは全く的外れであり、当方もこんな筋ではないことは当然わかるが、推理を進める情報がない … 。

 

●後半で明かされる真相

○西園寺がなぜ真相にたどり着いたのか不明

・後半では、西園寺がさっさと真相にたどり着くが、その真相は、視聴者の推理とはおそらくかけ離れたものであったはず(鋭い視聴者は、それまでに与えられた情報で西園寺レベルの推理が可能なのであろうか…?)。

・テディベアは、AIぬいぐるみではなく、西園寺家に森村が預けた夢という子供のことであり、Holly Toyの社長と副社長(二人は夫婦、副社長は小沢真珠)の真の子供であり、それを生んだのが代理母を務めた森村であった。森村の借金返済はこの代理母の謝礼であった。

・森村は、小沢真珠が子供を欲しがったのは、不倫をしている夫をつなげとめるためだけであることを知り、また腹を痛めて生んだ夢に対する強い愛情を抑えられず、夢とともに逃げる道を選んだことがわかる。

・殺された広田は、夢を取り戻すミッションを負っていたが、森村の夢に対する深い愛情を知り、そのミッションを放棄し、真相を公表すると上司の部長(川越仁志)に言う。そうなると会社にとってまずいことになると考えた川越は、その場で広田を絞め殺す。

・一方、ガンちゃん牧場の牧場主は、人間の生殖医療に携わった経験があり、なんと小沢真珠の兄であり、小沢が経営難の兄の牧場を援助することを条件に、代理出産の実務をこっそりと行うことをもちかけていた。

 

●推理がまともにできなかった理由

○推理を促す情報の不足

・前述のように、西園寺が真相にたどりついた理由がまったくわからない(西園寺は超人なのでそれでよいとの考え方もあるが … )。

・後で振り返ると、西園寺が旧知のおもちゃ屋に何かを調べに行く(テディガールのことか?)、牧場主が人の生殖医療に携わっていたことが前半でさりげなく紹介される、小沢がテディガールという言葉を西園寺から聞いた際にAI玩具のこととは思えない動揺を示すなど、断片的に結論に関係する情報は出されるが、その情報だけで上記真相につなげる推理はおそらく困難ではないか。また、犯人が川越であることなど、到底推論できない。

○推理を促す適切な情報量およびその内容について吟味がいる?

・やはり推理を楽しむためには、視聴者が真相に接近するための情報を適切な時期に適切な量、出す必要があろう。

・提供する情報の内容および量は、「真相にある程度は接近できるが、決して追いつくことはできない」、「間違った推理を誘発するが、騙すがための不自然な情報提供ではない(つまり隠そうとする犯人がそうすることは人の心理として自然、という範囲)」という2点が必要であり、その2点を、うまくコントロールできることが脚本家の力量というなのだろう。

 

●では、どうすればよかったか

○「テディガール」とは何か?

・「テディガール」が玩具ではないことを警察または西園寺が示し、それを探ることが真相に近づくための大きな手がかりになることを前半に視聴者に示す。

○社長と副社長の関係の示唆

・両者がうまく行っていないこと、特に副社長の小沢真珠にまだ愛情が残っており、小沢がそのために何か動いていることを視聴者に示唆する。

広田と川越の関係の示唆

・川越が広田を殺しているのであり、推理ドラマの大きなポイントの一つは、殺人の動機と殺人の方法の解明であることを考えると、広田は「玩具でないテディガール」を探しているのであり、副社長・川越部長がその指示者であることを視聴者に示唆しておく必要があろう。

○ガンちゃん牧場の牧場主の役回り

・人の生殖医療者であったことがこの事件にどう係わりうるかをもう一歩踏み込んで視聴者に示唆する。

○以上の4点による改善効果は?

・4点の改善で、テディガールが人である可能性に気づくことができれば、とても犯人とは思えない描き方をされながらも逃げている森村とその娘の夢に発想を繋げていくことができるのではないか。

 

●今回のポイント、感想

○推理ドラマにおいては、視聴者に推理を促すための「適切な情報の量および内容」についてよく吟味し、それらを適切なタイミングで提供していくテクニックが重要。

○その際のポイントは、「真相にある程度は接近できるが、決して追いつくことはできない」、「間違った推理を誘発はするが、騙すがための不自然な情報操作は行わない」という2点か。

ビデオで見ているため、どうしてもブログの記載が遅れてしまう … 。

 

あらすじを自分で書くのはしんどいので、dorama9さんの以下のサイトを活用させてもらいました。

https://dorama9.com/2019/05/10/post-82412/

 

●自分の途中までの読み

○進行

・殺害されたのは、弁護士の山下彩矢(国分佐智子)で、夫の山下翔太(山崎樹範)も弁護士。夫の実母の昌子(真野響子)は専業主婦で、昌子の夫は銀行員で単身赴任。親夫婦と息子夫婦は同居していないが、月に1回実家で食事会をする関係。嫁(被害者)と義母との会話は、多少のぎくしゃく感はあるが、強い感情的なものは見られない(まあ普通の嫁姑関係)。

・嫁が親夫婦のマンションから買い物に出て行った後、行方不明。しかしマンションから嫁が出た映像がなく、逆に顔を隠した大きなスーツケースを持った人がマンションから出ていく映像が記録されていた。

○中盤の(ありふれた)読み

・義母か夫が嫁(妻)を殺害。

・嫁(妻)には不倫の疑いがあるので、夫がそれを理由に嫁(妻)を殺害 or 夫と実母が共謀して殺害

・ただし動機が弱い。離婚すればよいだけの話なのになぜ殺害? そこが謎で推理が進まず。

 

●最終的な動機

・嫁は高学歴でエリート、義母は平凡な専業主婦。自供時点で、嫁は義母を小ばかにするような会話(映像)が入る。つまり、義母の嫁に対する強いコンプレックスと自らの傷づけられたプライドが動機であった。ただし、殺害は計画的なものではなく、かなり衝動的なものに近い。前記の動機の弱さに関する藤善さは、この設定により緩和。

・嫁(妻)が不倫をしているとの夫の嘘を義母が信じていたことも、憎しみの遠因といえる(実際は、不倫していたのは夫であり、警察は、物語中盤でその点を把握している。視聴者にも開示された)。

・ただし、この嫁の性格や義母との相当な棘のある会話は、自供時点ではじめて開示され、物語の過程では視聴者に示されない(警察の把握も自供時点という設定)。

 

●推理が行き詰った理由

○上記の義母の動機に対し、不自然な感じはしなかった。一方、自供の前は推理に行き詰まった。そのギャップの理由は何か?

・やはり、与えられた情報の中で常識的な推理をしていることが原因と考えられる。

・与えられた情報 → 常識的な推論 → 「殺人まではいかない。なぜ?」となる。

○一方、新たな情報の付与により、動機は容易に形成される。

・物語の冒頭部分ではある程度フレンドリな(少なくとも憎しみあってはない)嫁・姑のように描かれていた。これで“両者の関係はまあ普通”という枠をはめられてしまい、その前提で推理をしているので、母の傷ついたプライドやそれに伴う強い憎悪が推定できなかった。

・つまり、「隠された情報(表立って述べられていない情報)」が大きな意味を持つ。脚本的には、普段の両者の関係をどう切り取って視聴者に提供するかが一つのポイント。その際、実際を後で知った視聴者が「なあんだ」と白けない程度の切り取り方が脚本上の腕といえそう。

○また、殺人は「計画的なもの」という枠取り(これは自分自身の思い込み)が、推理を行き詰らせたもう一つの要因と言える。

・「義母の嫁に対する憎しみがベースにある中、嫁の言動が引き金になって押さえていた憎しみが閾値を超え、発作的にカボチャで嫁を複数回殴打する行為が誘発された」という点は、不自然ではない。当方の「殺人=計画的」の固定観念が、推理を間違った方向に向かわせた。

 

●学習上のポイント

○視聴者に「どういう前提を持たせるか」「どういう間違ったフレーム、ただし後で白けない程度のフレームを植え付けるか」「誤った推理をどう誘発するか」がポイント。

・「常識的な人のふるまいはこう」、その連続で人は推理していくので、実際(本当の筋)とはいつの間にか大きくかけ離れた推理となってしまう。

・この「常識とのギャップ」をどう綿密かつ連続的に発生させていくか、ここが推理ドラマの脚本上の一つのポイントといえそう。

 

●心理学の「後知恵バイアス」と推理ドラマとの関係

○人には後知恵バイアスが強力に働くこと知られている。そのことが、このドラマの中で実感できた。(後知恵バイアスのWikipediaでの説明は下記)

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BE%8C%E7%9F%A5%E6%81%B5%E3%83%90%E3%82%A4%E3%82%A2%E3%82%B9

・今回の筋の推理が事前に困難であったにもかかわらず、種を明かされれば(動機がわかれば)容易に想像できる常識的なストーリーだと感じてしまう。一度結論を聞いてしまうと、人はそれを聞く前の状態には戻れないということ。

・言い換えると、結論を聞いていた人が番組を見ると、「えっ! そんな筋も読めなかったの?」との感覚を持つということである。

・これを脚本家側から見れば、この後知恵バイアスのおかげで推理ドラマが作りやすいということになる(もしこのバイアスがなければ、オチを知っても腹落ち感を得にくいということ … )。

 

●「嫁が生きていた」というどんでん返しをどう理解すべきか

○本作では、実は嫁が生きており、意識を取り戻した後、警察に保護されていたという設定になっていた。

・つまり、警察はそのことを隠して捜査をしていたことになる(義母も夫も騙されたままで捜査を受けていたことになる)。

・このことを、番組中ではゴーストという表現(隠語?)を使っていた。

○今回の捜査でゴーストを使うメリットは何か?

・実は、警察は犯人が最初からわかっていたことになる(嫁は殴られた相手を知っている)。本来なら、義母を逮捕して終了ではないか?

・ゴーストのねらいは、動機の追及を深めたいから? 本編中では、被害者の安全上の理由とスピーディな事件解決が目的といっていたが、本当なのか?

・ゴースト採用の理由については、私にはわからなかった … 。

 

●まとめ(ポイント)

○視聴者に情報をどこまで出すか、どう切り出すか。

・対警察と対視聴者の両面で重要な要素。

・フレンドリに見せかける。心の内面を見せない。誤った前提に誘導する。

・ただし、自然な誘導でないと、視聴者は脚本家に騙されたと思う(反則だと感じる領域はあるはず)。「気持よく騙された」と感じる頃合い・加減・塩梅がポイントか。そこの勉強が要る。

○「殺人の動機」および「殺人の意図の形成時期」のパターンを理解する必要

・視聴者は、上記2点のパターンを理解した上で、それらを自由に組み合わせながら臨機応変な推理ができる必要がある。

・一方、脚本家側からは、ストーリーのバリエーションを膨らませる重要な要素になり、それらを使って視聴者をどう巧みに迷路に導くかが重要なワザになる?

・動機の種類:その人が憎い、その人がいると自分の立場が脅かされる、偶然の事故(動機がない) → 今回は、その人が憎い

・殺人の意図の形成時期の類型:計画的、衝動的・発作的、偶然 → 今回は、衝動的・発作的

不慣れなため、どのブログを選ぶかから始まり、実際に書き始める今に至るまで、

結構な時間がかかってしまいました。

 

基本設定をどうするのかも、調べながら、わからなければ、まあ初期設定のままで

という感じです。

 

作業の中では、やはりブログのデザインが、楽しかったですね。

そんな凝るつもりはなかったのに、やっぱり最後のページまで見てしまいました!

 

それでは、よろしくお願いします。