魔法
とあるショッピングセンターにトラック1台分の荷物を搬入しに行ったのさ。搬入口は地下一階。警備員に軽く挨拶してなんなく入った。トラックでそのまま搬入用のエレベーターの前まで行けるので荷下ろしはちょー便利。なんてったって最新のビルですもの。セキュリティも万全さ。搬入口にはトラックを長く停められないので、テキパキと4階のお店に荷物を運んだのさ。この日は閉店までお店の手伝いもするのさ。運び終わってお店の人に挨拶したのさ。よろしくお願いしますって。そしたらお店の人は僕に聞いたのさ。入館の許可は取りましたか?って。ええ、取りましたとも、警備員に軽く挨拶した程度ですけどね。と言うと、お店の人はえっ?って顔して。もう一度入館の許可は取ったんですかって?入館許可ってなんのこと言ってるんですか?どうも首からぶら下げるパスがあるらしいのさ。それがないと入館できないんですって。でも僕は言いました。僕許可取ってないのに入館できてますよ。入館できないって入館できるじゃないですか。お店の人はそうじゃないと言います。車で来た人も本当はすぐに入館許可をとらないといけないんですって。知りませんよそんなこと。初めて来たんですもの。とにかく搬入口の近くで入館証をもらって下さい。そうじゃないと入館できないんです。と言い張るのでめんどくさくなって、従業員入口まで案内されながら向かいました。そこには車の入り口ではない所で、ショッピングセンターのスタッフの人たちが電車の改札みたいなゲートにパスをピッピとかざしながらさっそうと入館しております。しかしパスはありませんが僕はすでに入館しているのです。改札の脇に警備員の詰め所があります。そこでパスをもらう手続きをして下さい。先日伺った車のナンバーで登録してあるはずですので。と言うので警備員の所に向かいました。すいません僕入館しちゃってますけど入館証下さい。警備員はえっ?って顔をしました。車のナンバーは何ですか?ナンバーを伝えました。警備員は首をかしげます。うーん、そのナンバーはないですね。手違いで登録されてないようでした。事前登録してないと入館できないんですよ。今、車はどちらにありますか?相方がすでに搬入口から移動させて近くの有料パーキングに入れています。もうこのビルにはないですよ。と言うと警備員はまたえっ?という顔をしました。車もないし登録もないので入館できませんと言われました。でも僕入館してますよ。めんどくさくなったのでうんこしますと言ってその場を逃げ出し、ごちゃごちゃとごまかしながら何食わぬ顔で閉店までお仕事したのさ。閉店して、片付けして、さあ帰ろうと先ほどの従業員のげーとに行きますとストッパーが降りていて出られません。みなさんパスでピッピとストッパーを開けて出ているんですが、僕は入館証がないのでできません。そこにいた警備員は言いました、入館証をかざして下さい。いえ入館証はもってません。そんなことはありません、入館証の無い人はこのビルには入れませんよ。いえ、入れました。入館証がないと改札出られませんよ。そんなこと言われても持ってませんし。どうやって出ればいいんですか?帰りたいんですけど。いえ入館証がないと出られません。入館してないということですから。ははあ、つまり僕は入館していないから出られないんですね。警備員は、そうゆうことです、と言いました。と、ゆうわけで僕はこの日から入館していないのに入館していて入館しているのに入館していないから出られないという魔法をかけられて透明人間になりました。今はすべての規則を無視して自由に生きてます。魔法って本当にあるんですね。実話です。no3
わたしはずっと見ていた
男ならあの逃亡劇にロマンを感じた者は少なからずいるはずだ。東京駅から移送車に移されるときの俯瞰撮影はみごとであった。あのときカメラマンたちにはホイットニーの例の曲が頭に流れていたに違いない。すべての犯罪人の移送は最終ののぞみでなければならない。そう決まった瞬間だった。これから刑事ものを演出するものにとっては生涯のお手本とするべきである。また沖縄行きのフェリー乗り場で思わず眠りこけてしまったというのも最高の演出だ。ラストは予想外でなくてはいけない。これはサスペンスの鉄則ではなかったか。なぜ彼は思わず気を緩めたのか。沖縄には彼を安堵させる何かがあったのか。それとも、誰かが待っていたのか。この狭い日本でいずれの組織の力も借りず、2年以上も逃げ延びたたくましさ。気の小さい人間とはとても思えない。興味はつきないが人を殺しているので無法国家のように関係者でリンチの上首をはねて東京駅にさらす刑という案を提案しておきます。no3
「和」
打ち合わせがまた延期された。あのとぼけた宮本さんがインフルエンザにかかってしまったそうだ。最近は不景気、病気でまったく仕事にならんではないか。あまり調子にのってもらっては困るのでちょっとからかい半分でインフルエンザにイヤミをたれてみたのさ。最近ずいぶん調子いいじゃないのさ。ええ、たぶん今回は一番調子いいかもしれませんね。やっぱりキョードクはだめですね。相手がすぐ死んじゃいますから。そこで終わっちゃうんですよ。あと反撃もひどいですしね。やっぱり今回ぐらいのジャクドクで行くのが一番いいですね。力加減が難しくてね、この域に達するのが難しかったんですがね。私ら寄生してナンボですからね。やっぱり何事も成功の秘訣は「和」にあるということに気づいたんですよ。わたしら寄生人生長いでしょ。世界旅行を何度も繰り返すんですけどね。この間400年ぶりにポルトガル行って驚いたんですよ。あのすったもんだの多い白人国家の中で、国境も変わらず、ほとんど同じメンツでとぼけて生きてるじゃないですか。やっぱり人間も同じだと思いましたよ。喧嘩も華があるだけじゃ駄目だねって。のらりくらりとね、お昼にワインとか飲みながらね、どう?ちょっとブラジルに首都遷さない?とかやりながら一番大事なものはきっちり残ってるんだからね。あーゆう人たちはレスペクト?リスペクトだっけ?して殺すのだけはやめようかなとか思っちゃいますね。インフルエンザはそう饒舌に語り終えると、いつものとぼけた調子でno3の肺の中に帰っていくのでした。(no3 落語の方)