「…解ってねぇんだろうなぁ?
今の日本には、お前の歌を聴いてくれる奴らより、お前を潰す事に全力を傾ける奴らの方が圧倒的に多いって事が、さ。
どうしても歌いたきゃ身一つで海外に行って、事務所も何にも柵(しがらみ)の無いトコで一から始めるしかねぇから、ま、頑張るんだな。」



お前みたいな甘ったれがどれだけやれるか楽しみにしといてやるよと嘲笑うローリィと共に冷酷な視線を向けてきた自分の同行者2人の目に、尚は最早声を出すことすら叶わなかった。




▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


明日にも解雇したことが公になればアカトキの損害をこれ以上拡大させることはないだろうとローリィに言われたアカトキサイドの2人ば、心底安堵したような笑みを浮かべ、再び深々と頭を下げて帰っていった。



最早尚を視界に入れることすら煩わしいと完全に無視した格好で。



LMEを出た途端待機していたタクシーに乗り込み、上司と部下がお互いを労うように笑い合う姿を目の前で閉められた車のドア越しに見せつけられたまま、見棄てられた尚はただ2人を見送ったのである。




さて。


問題はここからだった。


元歌手“不破 尚”から不破 松太郎に戻った少年には、これから自分がどうしなければならないかが全く分かっていなかった。


何しろ自分から動いたのは歌手になるプロセスに関わることだけ。


最初に上京してきた15歳の時も着いてきたキョーコに任せきりで、住まいも食事も金銭面に関わる生活全てをキョーコに委ね自分は何一つやってこなかった男である。


しかも手持ちの金は僅かで、とても京都の実家まで帰る為の旅費には足りなすぎる。


考えあぐねているうちにもどんどんと時間は過ぎ、気が付けば日はすっかり傾いて。


仕方なく移動しようとふらふら歩き始めたものの、目的地があるわけでもない松太郎は何となく最寄りの駅に向かっていた。




「…もしもし、君…これから何処へ行くのかな?」



宛て処なく駅ビルの中をさ迷い歩いていた松太郎に、ガタイのいい制服警官と、その横に並んでいるせいかやや細すぎに見えなくもない背の高い制服警官が声を掛けてきた。


警官としては職務質問せずにはいられない挙動不審な若者、それが今の松太郎であった。


明らかに顔を周囲に晒したくなさそうなサングラスに帽子、不自然なまでに大きすぎるボストンバック。



声を掛けられた松太郎もまた困惑を隠せなかった。



「…え…と…。
か、帰ろうと思って…。
そ、その、家、に…。」



嘘ではない。


嘘ではないが、持ち合わせがほぼ無い松太郎にはどうしたらいいのか分からず、答えがしどろもどろになってしまった。



「……君、年はいくつ?
家出とかじゃないの?
…とにかく話を訊こうか。
ちょっと交番まで来てくれるかな?」



特に自分に疚しいところはなかった松太郎は、素直に交番まで足を向けたのだが。


それは翌日の新聞を飾るネタの一つとして取り上げられる事になる。



《カリスマロックシンガー、突然の解雇!!
音楽業界を永久追放!?
解雇のその日に不審者として駅で逮捕か!?》



新聞、週刊誌も挙(こぞ)って面白可笑しく書き立て、実際は補導でも逮捕でもなく保護されただけの筈の松太郎が引き取りに来た保護者と共にフラッシュの嵐に晒されたのは言うまでもない。




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「………ここまでアホやなんて…ウチはキョーコちゃんに何て詫びたらええのや…!!」



「……あんなにもお心砕いて下さった芸能事務所の方々にも後ろ足で砂かけるような恥晒しおって…っ!!
このド阿呆がっ!!」



事態が事態なだけに片親だけで迎えに来る訳にもいかず、揃って上京し保護された警察署で警官一同に平謝りし、僅か数ヶ月前に気持ちよく送り出した息子と苦々しい思いで再会した両親は、怒りに震える身体を必死に抑え付けながら新幹線での帰路終始無言で、完全に家族だけで人目のない自宅に辿り着いて漸く口を開いた。



「これだけの騒ぎ起こして……分かってんのやろな?
あんたにはもう、歌を歌う場所はこの日本にはどこにも残っちゃおへんの。
だからって余所様のお国に送り出して、これ以上日本の恥世間に晒したら…もううちは死んでも死にきれません!!
これはあんたが自分で招いた事や、潔う歌手の道は捨てるのやね!!」



それでもまだ歌いたいなんて言うんなら二度とうちの敷居は跨がせませんよって覚悟おし、と捲し立てる母と、怒りに身を震わせながらも口調はあくまでも静かに今後の事を口にする父。



「…どちらにせよ、わしらは今後お前を手元に置くつもりはないで。
今回の騒ぎはお前を預かって下はったご住職の耳にもちゃあんと届いとる。
その上でご住職からの申し出をお受けしたんや。
ご住職はなぁ…ご自分がお前の嘘を見抜けなかった事を大層気に病んでおられて、ご自分のお師匠はんの処で預かって貰えるように頭下げて頼んでくれはったそうや。」



自分の未熟さ故に師匠の力に縋らねばならない、見抜けなかったばかりにご両親には済まないことをしたとわしらにまで深々頭下げてな、と苦渋に満ちた表情で言い放つ父親に、松太郎は返す言葉を持たなかった。



「…ご住職が頭下げはる理由なんぞ何にもない。
  頭下げなならんのはこっちやっちゅうのに…っ!!」



あまりの情けなさと住職への申し訳なさに目尻に涙を浮かべて身体を震わせた父は、何も言葉を返せない松太郎に最後に一つだけ言い放った。



「……お前をそないなアホに育ててしもうたのはわしらや。
どんなにアホでも、最後の責任だけは捨てずに持つ。
成人するまでの保護者としての責任だけは、な。
だが!!
それ以降はもうないと思え!!
戸籍も独立させて今後お前との縁は切る。
3年後に勘当や。」



将来的に親子の縁は切るとまで父に宣言された松太郎が口を開くまでには、かなりの時間と勇気を必要とした。








今回ちょっと長い…かな?


長さが一定にはなかなかならないものですね~。(;^_^A


電話を切られたローリィは早速事の次第を全員が把握する必要があると判断し、再び全員に無茶振りをぶちかましていた。



その無茶振りを受け、さらに数日後ローリィ宅の応接室に敷かれた巨大ラグの上には死屍累々の体(てい)で転がる見慣れた顔がずらり。



「………た、堪らん…。
毎回こうも無茶振りをされたら身体が持たねぇ…。」



「……まったくです。
こちらのつごうはおかまいなしですもんねあのかた…。」



「…気をしっかり持て緒方くん。
魂が八割あっちに行きかけてるみたいに目が死んでるし言葉も変に弛いぞ~。」



「仕方ないでしょ新開さん。
10日は掛かる筈の仕事を一晩で仕上げて来いなんてとんでもない無茶振りを本気で仕上げて来る啓文も啓文だけどね…。
私は後回しにできそうな分は完全後回しで何とか前倒しできるものを徹底的に繰り上げ捲って時間空けて来たわよ…。」



それでも2日は徹夜したけどとぼやきながら、春樹はバッグから出した化粧ポーチで自らの目の下の隈と格闘していた。



「お~、悪かったな。
何しろ怒れるお姉ーちゃん達に手綱つけにゃ~暴走されかねん状況だったんでな。」



「…たからだしゃちょう、それもひかひへぼくにょとこのさつえいすたっひゅとひとうさんのことではありまへぬか。」



「…呂律(ろれつ)が回っとらんし目が虚ろだぞ緒方くん。
まぁ間違っちゃおらんが。
緋堂くんは有名人だから皆知っとるだろうが、他の面子は知らんだろうから紹介しとかんと何かしらの誤解を招きかねん。
彼女らが加わった経緯を説明した上で今後どうするかを話し合う必要があると判断したから招集かけたんだよ。」



とはいっても多忙なメンバーのスケジュール併せるの難しいから今日まで待ったんだぞといけしゃあしゃあと宣(のたま)うローリィに恨みがましい視線を向けてしまいたくなるのをこらえつつ、一同はふらつきながらも用意されたスツールに腰を下ろした。



「…さて、では改めて紹介しよう。
女優の緋堂 誓子くんと緒方君の映画の撮影スタッフの面々だ。
例のあのガキの所業をそりゃもう見事な手腕で京子の口から根掘り葉掘り訊き尽くしたっつー強者だぞ。」



紹介されたのは誓子を筆頭にメイク、スタイリスト、撮影助手にタイムキーパー等々年齢も上は50代から下は20代後半まで総勢8名。



「…あらあら、この中じゃ私が一番年上なのかしら?
でも、この業界じゃなかなか指折りな有名人が揃ってるのねぇ♪
あたしたちの緒方監督は勿論だけど…CM制作分野じゃ新進気鋭の有望株の若手監督として有名よね、そこのワイルドなコ。
確か黒崎…潮さんだったかしら?
それにそちらのお嬢さん、クイーンレコードの麻生 春樹さんでしょ?
若いけどかなりの実力派だってあたしの耳に届いてるわよ。
あらあら、それに新開 誠士監督まで?
まあ、そうそうたる面々じゃないの。」



「若輩者の私などを大女優の緋堂さんがご存知でいらっしゃるとは…恐縮です。」



恐縮しきりな春樹に誓子はカラカラと笑い飛ばして見せた。



「この業界長いとね、それなりの人脈ってモンがあるから、情報も結構入ってくるってことなのよ。
業界一緒でもジャンル違えば顔合わすなんて滅多にないけど、それでも名前が耳に入ってくるってことは、みんなそれだけ注目されてるってことよ。」



注目に恥じないように頑張りなさいと言われたようで、全員がシャキッと背筋を伸ばした。



誓子はそんな若者たちを姉のような眼差しで暖かく見つめて頷いた。



「済まんな緋堂くん、実はこのメンバー、一人欠けとるんだ。
この前緊急打ち合わせした時の皺寄せがまだ残っててな、どうひっくり返っても今日の集まりには来られなかった奴がいるんだ。
ま、面識は有るんじゃないかな?
うちの蓮のマネージャーやってる、社 倖一って奴だ。」



「…あぁ、あのコ?
いつも敦賀くんと一緒の、モデルでもやってけそうなメガネのコよね?
……何だか繋がりが分かりにくいわねぇ。
彼は一体なに繋がりなの?」



誓子の言葉に不敵に笑うローリィと苦笑するメンバーに、誓子はまた首を傾げたが、事情を聞くにつれそれは楽しそうだと目をキラキラと耀かせた。



「ふ~ん…。
京子ちゃんと敦賀くんてそういう感じなの。
うふふ、これは私達緒方組が一肌も二肌も脱がなきゃあ♪
やるわよ監督!!」



「………え、え?
な、何を!?( ; ゜Д゜)」



「とーぜんじゃないのっ!!
今一番近くで二人を見てる私達こそが、両片想いな若い二人の手助けをしないで何とするって事よ!!
良いわねみんな!!
自覚している敦賀くんはホンの少しの後押しでいいけど、自覚してる筈なのに後退りしちゃってる京子ちゃんは退路を断たなきゃ後ろ向いて逃げちゃうわ!!
逃げたりしたら京子ちゃんは心の底から笑えなくなっちゃう。
幸せになれる子が、いいえ、今まで決して幸せとは言えない人生を歩んできた子が、これ以上後ろ向きになっちゃダメ。
そのためにも周りに居る彼女を見守って育てていこうと決めている大人である私達が逃げ道塞いだ上でばーんと背中を押してあげなきゃ!!」



緒方組スタッフも握りこぶしでうんうん頭を上下させて同意する中、既におばちゃんズのパワーにドン引きな若手メンバーは主導権が嬉々として話し合うローリィと緋堂以下おばちゃんズに完全に移った事を実感したのであった。











またまた間が空いております!!(ToT)


も~~スライディング土下座が、ぺったんこないりるになりそうです…(>_<)

さぁ、アメンバー500人突破記念で頂きました!!

我らが罠張りマスター、魔人seiさんからのネタでございます!



仮題でしたのでちょっぴり変更で行きます♪











幼馴染みというものは --前編--




「ねぇ、不破君・・・それって、最上さんのことかな?」



M製菓の真山、そう名乗った男が口にした名前に、俺はほんの数秒だが言葉を返すことが出来ずに口篭った。



この男、今何て言った!?



「不破くん、それって最上キョーコさんの事でしょう?」



…また出た。



「……何で?
何でアンタがキョーコを知ってるんだよ。」



謎は直ぐに解けた。


スポンサーの社員相手なのについ出てしまった普段使いの口調にも相手は気にしなかったらしい。



「気付かないかな。
  …俺、君とずっと同じ幼稚園だし、小中学校もずっと一緒だったんだけど。
まぁ身体弱かったし、学校しょっちゅう休んでてなかなか行けなかったし、そのせいで2年も遅れて君らと同級生してたくらいだから知らないだろうけどさ。
  あ、ちなみにそのあと猛勉強して海外留学の上スキップして学校卒業してるから結局年より上なトコまでいったけど。
  君と最上さんの関係ってさ、地元じゃ凄く有名だったの、知らなかった?」



事の起こりは新作菓子のCMに俺が起用され、今日がその撮影日だった事だ。



挨拶に来た菓子メーカーの若い男は真山と名乗り、前期のCMに出演していた同じ事務所のタレントと一緒に挨拶を受けた。



そんな時、偶々共演タレントの久我に掛かってきた電話。



幼馴染みの女から忘れ物を家に置き忘れているという連絡を受けたという久我と、それを聞いた俺が忘れ物なんか幼馴染みの女に命令して届けさせればいいと話したところでそれを聞いた周囲が急に俺を変な目で見始めた。



「有名って…。」



何が有名なのかと聞き返した俺に、真山は本当に変わってないんだなと呆れた様子を見せた。



「確かに君たちは立場としては幼馴染みという位置付けになるんだろうけどさ、二人とも幼馴染みの意味を完全に履き違えてたから有名だったんだよ。」



幼馴染みの意味?


知るかそんなの。


第一アイツは…キョーコは最近全然俺の言うことなんか聞きゃしない!!


キョーコの癖に!!



クライアントである企業側の社員である真山に同郷の気安さが見えたせいで、俺は本音を晒していた。



「はぁ?
幼馴染みの意味って何だよ。
幼馴染みってのは俺が自由に使っていいモンだろが。
  使おうが棄てようが俺の自由だろ?」



尤も最近キョーコのヤツ、俺の呼び出しを無視しやがって頭きてんだけどな、と続けると周囲はますます解らないという様子になった。



「…あのさ不破くん?
その定義でいけば、幼馴染みってのはお互いに相手を使っていいモノってことにならない?
君って昔、最上さん…キョーコちゃんを使うことはあっても、君がキョーコちゃんに使われてたなんて一度たりとも無かったと思うんだけど…。」



知ってる限りだけども、確か宿題押し付けたりいろいろ横取りしたりイタズラの犯人の濡れ衣着せたりしてたよね、と続ける真山の言葉に俺は更に首を傾げた。


キョーコがこの俺を使う?

あり得ない。


俺が理解できない真山の言いようを補足するように今度は久我が口を開いた。



「不破さん、俺が知ってる幼馴染みってのは、近所で子供時代を一緒に過ごした、気心の知れた信頼関係のある、仲の良い友達同士っていうものなんだけど?
君の言ってる幼馴染みとあまりにも違う気がするけど…。
もしかして君って、その辺勘違いしてないかな?」



何を言われたのかと首を傾げながら浴びせられる視線に目を向けると、打ち合わせしていた監督も真山も久我も、みんな揃って宇宙人でも見るような目で俺を見て…。



「「「…不破くん、君、絶対に変。」」」



全員が全員、まるで練習したかのように一字一句違わず、タイミングもピッタリバッチリ動きまでビシリと揃えて俺に言い放った。



「~~~っ、なっ、何が変なんだよっ!!
アイツは俺のモンだから、アイツをどう使おうが俺の勝手なんだよ!!」



「うわ~、言い切った。
人のことモノ扱いって勘違いにも程があるでしょ。」



さっきのセリフまで口を開かずただ話を聞くに留めていた監督が如何にも呆れましたという風情で首を振った。



「そうだ不破さん、最近その彼女、君の言うこと聞かなくなったって言ったよね?
それって彼女が自分の立場が普通の幼馴染みじゃあり得ないって気付いたからじゃない?」



久我の言葉に俺は最近のキョーコの言動を思い返してみた。



【何で私がアンタの言うこと聞かなくっちゃならないのよ!!
  アンタはただの消し去りたい因縁と腐れ縁の幼馴染みでしかないんだからねっ!!
  いい加減にしなさいよ!!】



…キョーコの心情なんて知るもんか。


アイツは俺のモンで、言うこと聞くのが当たり前なんだから。











前後編で何とか納めたいです!!


………頑張るぞい。(;^_^A


……終わればいいなぁ…。