壁に引き伸ばされた接吻の痕跡
猩々蝿の目が捉えた残像
幽霊が小刻みに震えては明滅する
途切れそうな継続の悲鳴
浴室から廊下を通り寝室へ
何往復もして秒毎に忘却を繰り返す
「鮮度を保てない食材は冷凍した方がいい
包丁を研ぐことで魂と向き合う彼の狂気
極限まで瞬きを殺して光を求めている
業務用冷蔵庫と冷凍庫が交互に唸り
締まりの悪い蛇口から水音が一定に呟く
海の幸を堪能する為に
人工的な海の環境を作る
「奴らの目出度い頭の中ではそれを平和的解決と呼ぶ
ー選ばれるものに選択肢は無いー
必然的な俗物に塗れながら
如何に精神を美しく保てるか?
「お前の欠落はその為にある」
鋭利な刃物と美味しい食材
日常語に潜んだ詩的な情緒
感情線を冒涜している彼女
怪物から産まれる異端の神
壁に磔られた標本がまだ僅かに動いている
切り開いた身体の右と左では幸福度が違う
鱗粉の痕跡が接吻のようだね」
祟っているのは執着心の末路
そうして生臭い臓物から掻き分けて
飾られた皿の上で表立つ正義心
それは孕んでいるカーテンの揺れる白に
彼女の裾が触れているみたいな
誤術を赦した読解力
「目が滑っていったか?
その罪が瓦解する正しさである
言葉を解体して冗長に靡かせる
汲み取る匙から煮詰めた一口分
さりとて着地は心地良い糖度を秘める
声は音と化したか?
物質に及ぼす形而上の肉が舌の上で
音もなく蕩けてゆく
(詩精を血肉とせよ)
(詩霊を骨とせよ)
お前もいずれ、それになる」