泥濘む湿地帯から
声は聴こえる
まだ月蝕は始まらない
夢の底から現へと腕を伸ばし
蝶が指先に触れて解けてゆく
まだ日蝕も始まらない
凭れた椅子から
鼓動は響き
遠景の輪郭が走る
車輪が廻り轍が残り
影が落ちてゆく
窓枠が崩壊する
晴れ間から布が翻る
昼下がりの透明な硝子
切り分けた檸檬の欠片
また日蝕が終わった
揺れ動き続ける箱型の移動手段
傘の先が染みを作る
曇り空から囀る鳥の声
耳を置いてきた男の消毒液
棚の上の小人の歯
絵本に挟んだ鍵
また月蝕で終わった
繰り返している螺旋階段から
飛び降りる女
瞬きの間に浮かび上がる
絵の具が飛び散って
着色される
不穏な虹が歪んで転写され
葉の裏に隠された
束の間のまぼろし