先日、都心で半日ほど時間をつぶす必要が生じたのですが、今の時期、飲食店に長居するのも不安💦
むしろ映画館の方が安全かな?と以前見たかった映画を調べたら、まだ上映されている映画館(TOHOシネマズ日比谷)があり、見ることができました。
こちら↓の「ミッドナイトスワン」です。
 
 
昨年、公開された草彅剛くん主演映画。
 
TOHOシネマズサイトのストーリーはこちら↓
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新宿のショーパブ<スイートピー>では、メイクしステージ衣装に身を包み働くトランスジェンダーの凪沙(草彅剛)。洋子ママ(田口トモロヲ)が白鳥に扮した凪沙、瑞貴、キャンディ、アキナをステージに呼びこみ、今夜もホールは煌びやかだ。
「何みとんじゃ!ぶちまわすど!」
広島のアパートでは、泥酔した母・早織(水川あさみ)が住人に因縁をつけていた。
「何生意気言うとるんなあ!あんたのために働いとるんで!」
なだめようとする一果(服部樹咲)を激しく殴る早織。心身の葛藤を抱え生きてきたある日、凪沙の元に、故郷の広島から親戚の娘・一果が預けられる。

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草彅くんが母性愛溢れたトランスジェンダーを演じて話題になり、さまざまな方がさまざまな視点から感想を語られています。
 
私はやはりバレエ好きの視点から観ました。
公開から半年近く経って今さらですが、自分なりの感想(解釈?)を簡単に残しておこうと思います。
 
この舞台の中心にいる(主役という意味ではなく、人間関係の軸として)のは、バレエの才能に恵まれた一果(服部樹咲ちゃん)。
恐ろしいほどの才能を持つ天才が周りを狂わせる様子はさまざまな舞台でも見てきたけれど、この映画ではそれぞれの想いで彼女を愛する4人の女性が登場。
 
彼女を巡って
虐待をしつつも愛情はあり、実母としての執着を手放さない早織(水川あさみさん)
一果の母親になるために全てを投げ打つトランスジェンダーの凪沙(草彅剛くん)
一果を世界に通じるバレエダンサーに育てようとするバレエ教師(真飛聖さん)
バレエのライバルであり親友でもあるりんちゃん(上野鈴華ちゃん)
のそれぞれの"愛"が描かれます。
 
凪沙の愛は、「白鳥の湖」のオデットに重なるのではないか・・・と私は解釈しました(以下、少しネタバレ)。
 
「白鳥の湖」のオデットは悪魔の呪いによって白鳥の姿に変えられてしまいます。
凪沙にとっては”男の身体”でいることが呪い。本来の自分=女性に戻ることを渇望する人生、そこに現れた一果に芽生えた母性愛。
一果にバレエを踊らせ、彼女の夢を叶えること=母になること(女になること)=呪いを解くこと・・・と髪を切り、男としての肉体労働にも従事し、お金を稼ぐ凪沙。
その夢が叶うはずのバレエコンクール日、一果は実の母、早織に連れ去られてしまう。
ここで、私は早織=オディール(黒鳥)と考えました(実母が偽者というのも変だけど)。
 
残された凪沙は自分の力で呪いを解こうとタイで性別適合手術を受け、一果を迎えに行く。
この「女になったから、お母さんになれるのよ」と言った場面、とても切なかった。
 
バレエ「白鳥の湖」には幾つかのバージョンがあって、ラストも2人で悪魔を倒すハッピーエンドから、敗れて死んでしまう悲劇(天国で結ばれるけれど)まで様々。この「ミッドナイトスワン」は悲劇のラストで、一果を連れ帰ることができなかった凪沙は悪魔に敗れたオデットと同じように死に向かいます。安易に登場人物を死なせるお涙頂戴の物語は好きではないけれど、この映画では「白鳥の湖」(悲劇版)をなぞるために必要な死だったのかもしれません。
 
再会した一果に連れて行ってほしいと願い、凪沙が命を失う場所が海。
(白鳥の)湖と同じ水辺であり、子どもの時の凪沙が女子の水着を着たいのに男子の海パンをはかされ深く傷ついた場所で、一果の踊り(と同時に女の子の自分の幻)を見ながら亡くなる凪沙。
 
凪沙の死を感じた一果は、海に向かって歩いて行く・・・これはオデットと王子の心中を象徴的に表していると思いますが、実際の一果は死なず、海を越え(もちろん現実的には飛行機に乗り)ニューヨークに行ったのだと私は考えます。
凪沙と同じようにコートをまとった一果がニューヨークの劇場に現れ、「白鳥の湖」のバリエーションを踊る場面・・・別世界で自分と凪沙の夢を叶えた一果の白鳥は”夢”そのものの美しさでした。