赤染 晶子著「乙女の密告」を読みました。


京都外国語大学における授業風景を背景に、アンネ・フランクの逃亡生活に

想いを馳せる・・・   女学生好みの舞台設定で、失礼な言い方ですが、

お嬢さん芸という印象でした。芥川賞には、革新的な作品が選ばれてほしい

ものです。


中島 京子氏の作品にも、同様の印象を持ったところでしたが。


これに比べると、「戦場のピアニスト」には、圧倒的な臨場感や、意外性、

抑制の効いたユダヤ人問題告発という明確なテーマがありましたが、

本作品は、言わば趣味の対象といった域を出ていないと感じました。





中島 京子著「小さいおうち」を読みましたが、余りの浅薄さにガッカリでした。


すでに「女中譚」という著書もあって、女中を描くのは得意な分野のようです。

何となく幸せで、何となく不安といった感じで、ぞくぞくさせられるような緊張感や

戦慄はありません。


直木賞選考委員の書評を拝見すると、語り口の上手さを賞賛する意見と、新味や

プロットに欠けているという指摘に2分されているようです。


失礼な言い方をしますと、お嬢さん芸とでも形容できるでしょうか。




姜 尚中 著「在日」(集英社文庫)を読みました。


飾らない言葉で、在日2世としての自らの生い立ち、思想的な遍歴が綴られていて、

好感を持つとともに、在日問題の根の深さを改めて認識させられました。


貧しかったご両親(特に母上は文盲だった)の苦闘がさりげなく紹介される場面で、

苦労されて運転免許を得た父上を賞賛する母上のお姿が健気であり、しみじみとして

家族愛の深さが感じられました。


先に、韓国の現大統領であり、また在日という幼児体験を持つ李 明博氏の自伝を読み、

その反骨心に感嘆させらえましたが、姜 尚中氏においても、在日という鬱屈した生い立ちが

むしろバネとなって、大いなる飛躍を生んだとも思われました。


NHK総合テレビ2の日曜日9:00、日曜美術館の司会として、穏やかで深みのある口調で

淡々と進行する姿に、読了後にはむしろインパクトが増しました。