「もう遅いですよ。」

 

 朝、目が覚めると僕はそう言われた。

 

 何に言われたのか誰に言われたのかは分からないが、そう言われたのは間違いない。

 

 「もう遅いですよ。」

 

 僕はバスにも電車にも間に合った。

 

 「もう遅いですよ。」

 

 僕は出勤時刻の30分前にタイムカードを打刻し、オフィスの掃除を始めた。

 

 「もう遅いですよ。」

 

 仕事の納期にも間に合っている。

 

 「…」

 

 昼飯を食べそこなったことには何も言われなかった。

 

 「もう遅いですよ。」

 

 退社時刻までにその日の仕事を終えた。

 

 「もう遅いですよ。」

 

 「黙れ」と僕は叫んだ。

 

 「もう遅いですよ。」

 

 「分かってんだよ。バカヤロー。」と僕は叫んだ。

 

 「もう遅いですよ。」

 

 「…」

 

 「もう遅いですよ。」

 

 僕は死ぬことにした。