「やぁ皆、今日は来てくれてありがとう・・・・・・。
見て判るとおり、僕等は君達を人質としてここに置いている。
------何故って、捕まりたくないからに決まってるじゃないか。
だから僕等が逃げ切れればもう君たちに用は無いし、傷付けるつもりもない。
だから、それまではどうか大人しくしていてくれ。判るよな?」
いきなり教室に駆け込むなり彼等はそんな事を言う。
やっぱり今日は運が無いな、と麻美は思う。
思えば朝から可笑しかったのだ。
交差点でトラックに引かれそうになるし、靴と上履きを履き替える時に画鋲を踏むし。
健康家で知られる友人の小早川奈津美はインフルエンザで欠席するし。
何事にも兆候は存在するものだと言うが、まさかこんな事になるなんて思わなかったナ。
そんな事を呆けた顔で考えながら、この状況を他人事の様に観察する。
如何やらこの集団はテロリストらしい。
殆どが黒い覆面を被っていたが、唯一一人だけ顔を晒している男が居る。
多分この男がリーダーなのだろう、彼は周囲の仲間に小声で指示を与えていた。
小顔で、赤毛で、瞳はブルーだった。
外人だろうか・・・・・・耳を澄ますと、彼等は日本語では無いそれで会話をしていた。
しかし最初の文句を言えた辺り、日本語もかなり流暢に使えるようだ。
状況の把握が終わったのか、彼等は10名ほどを割いて教壇の上で機材を弄り出した。
恐らくは通信か放送のための機材だろう、アンテナやカメラを教卓に設置している。
「おいお前、何見てるんだ。
・・・・・・丁度良い、こっちへ来い」
何故か彼等は私を指差し教壇の上へ行くよう促す。
私は何故そうなるのか判らずに、はぁという顔をして固まる。
動かない私の腕を掴み、つかつかと小走りに前へと引っ張ってゆく。
何故何故何故ナゼナゼ?
何で私はこんな役目を負わなきゃいけないの?
今私は何か悪い事をしたの何か原因があるのナゼ何故なぜ?
「さぁ、来るんだ。大人しくしていろよ?」
彼はそう言うと私の頭に銃身を押し付け、もう一方の手で肩を押さえる。
すると相対していた彼の仲間がオーケイと言い、それを合図に私達にカメラが向けられる。
「あーあーあー、聞こえているか馬鹿共?
俺達はブラッドレイと言う組織の下っ端だ。
先日俺達の国へ手前らの自衛軍だか何だかの軍が押し寄せてきた。
別段その事はいい、こちらの国に手前らの排除すべき何かがあったなら仕方が無い。
だがな、それは国民じゃなかったはずだ、そうだろう?
それなのに手前らは国民の住居を焼き払って彼等を殺した挙句、
収容所に捕虜として監禁してるそうじゃないか?
何故そんな事をする?それに一体何の意味がある?
俺達ブラッドレイは我が国の民の解放と、それに伴う貴国からの謝罪を要求する。
それに同意しない場合は1時間づつここに居るガキ共を10人づつ始末していく。
いいな?お前たちに選択の余地は無い。
それが判ったら今すぐお偉い様の所へ行きそれを報告しろ。
そして忘れるなよ?
お前たちの返答如何でここに居る生徒600人の命が失われるんだ」
何を言ってるんだろう、この人は。
それが気に入らないなら実力で軍を排除すればいいだけじゃない。
こんな下らないテロをすれば余計に自分の国の立場を危うくする事が判らないのかな?
大体要求を呑むよりも前に強行突破されるのが目に見えてるわ。
それにこんな穴だらけの配置じゃそこいらの警察連中だって突破出来そうじゃない。
そうぶつぶつと言いながら私は席に着く。
それを周囲の男が何か言ってきたが、無視した。
こんな馬鹿みたいな事に付き合う理由が知れない、だから付き合う必要はない。
「ねぇ、何でこんな可笑しな事やってんの?
まさか本気で日本がそんな要求を呑むなんて思っているの?
仮にあんた達にそう言ったとしても、逮捕した後撤回するに決まってるじゃない、馬鹿じゃない?」
私の発言に絶句したのだろう、彼等は口を開閉するだけで声を発する事が出来ない。
「これ以上こんな事に付き合わされるくらいなら、ここに居る連中皆殺そうと思うんだけど如何?」
「おいおいおい、君一体何言ってんの?
子供の君が俺達みたいなテロリストに勝てる訳無いじゃないか。
あまりに緊張しちゃってお頭が逝っちゃったかな?」
・・・・・・またこれだ。
如何して大人達は皆こうやって私を過小評価するのだろう?
自分たちがそんなに偉大な存在だとでも思っているのだろうか。
まぁいいや、どうせこいつ等は死ぬ運命なんだ。
だったら何時死んでもいいじゃないか、私が殺したとしても。
だから私はそうするし、今までだってそうしてきた。
私は可笑しくない、ただ先を読んでそれと同等の事をしているだけだよ。
だってそうでしょう?彼等には生きるに値する価値さえ無い。
「そう・・・・・・楽しみだわ」
二ヘラと笑って私はスカートの裾から出したナイフで隣に居た覆面の一人の首を裂く。
景気良く血が噴射して嬉しくなったので、すぐさまその後ろの男にもそうする。
何人かの人間を始末した後、やっと彼等が動き出した。
一人は銃を出し、一人は大きめのナイフを手にし向かってくる。
でも当たる気は無い、何故彼等はあんなに動きが遅いんだろう?
十数人かを切りつけた後、切れ味の堕ちたナイフを捨てて彼等の持っていた銃を引っ手繰る。
「銃はこうやって使うのよ、判る?」
引き金を一度引くごとに一人の人間が崩れ落ちる。
人の命なんて引き金を引く程度のエネルギーで消えてしまうのだ。
何てちっぽけな存在なんだろう。
そんな小さな存在なら誰が何時何処で殺したって罪は無い、そうでしょう、そのはずよ。
だから私は可笑しくないし、当然の事をしているまで。 ,br>気が付けば私の前に居るのはあの赤毛の男だけになっていた。
可哀想に彼は銃を取り落として尻餅を付き、涎を垂らしながら命乞いをしている。
でも何でだろう、彼の国民はもっと酷い目にあってるだろうに、この程度の事で弱音を吐くなんて。
・・・・・・結局は取るに足らない存在だったってことよね。
何となしに引き金を引こうとしたとき、涎が伝っていた彼の口が音を発する。
「な、何なんだ君は!
高校生なんじゃないのか、何でそんな簡単に人を殺せるんだ悪魔め!」
男は唾を飛ばしながら罵声を吐き捨てる。
「あらら・・・・・・なら貴方たちもその悪魔の同類ね。
何で貴方たちはこんな事をしていたの、必要だったからでしょう?
それと同じ、私にもコレが必要だったのよ、そうでしょう?
こんな馬鹿で存在する意味の無い連中に殺されるなんて考えられない。
私は当たり前の事をしていて、悪魔じゃないわ。
正しいのは私、悪いのは貴方。
だから私は人を殺せるし貴方たちは殺される、そうだよね?」
彼女のがそういい終えた時、彼は全てを理解した。
俺たち以上に彼女が異常だったというそれだけの話だ、と。
彼の眉間に穴を一つこさえた後、彼女は自分を凝視しているクラスメイト達を見て呟く。
「あぁ・・・・・・また別の戸籍と引越しの準備しなきゃ・・・・・・」
私は面倒臭そうに教室を後にする。
別段此処に未練はない。だってそうでしょう?
私は何時だって正しい事をして生きているんだから。
そのために私は人を殺せるし、他人は殺される。
そう、私は普通よ?
何処にも異常は無いし、私以上に正しい人間なんて居やしないんだから。
------今日この時を持って、彼女の存在はテロリスト達以上に日本を震撼させる事になる。