転職した。

料理人に戻るかなあ、とぼんやり考えていた。
ひょんなところから声がかかる。
半ばヤケになっていたのかもしれない。
その世界に飛び込んだ。

少し慣れてきた。
スーツも少し馴染んでくる。
喫茶店に入り、サラリーマンに混じってタバコをふかす。

思えば、バンドマン崩れからなんとなく就職し、何回かの転職を経て、10年以上経っていた。
ここに来て初めて、自分が社会に出たような気がした。
年も年だ。同年代では既にそれなりの位置にいて、それなりのものを持っている人も多い。
スポーツ選手だと、ピークを越えて引退する人も。
…おれは何もしていない。何も持ってない。
ただ漫然と、日々を過ごし、年をとる。
無駄な時間だったとは思わない。色んな人に会った。色んな場所にも行った。
それがあったから、今の自分がある。

これからだ。