今まではダブ、ドラムン・ベース、ジャングルなど、どちらかというと複雑なグルーヴを全面に出す事が多かったADFだが、ニューアルバム「A History Of Now」は新リーダーとしてすっかり定着した感のあるギター・チャンドラソニックの指揮のもと、ツー・ステップ、グライムの持つシンプルなビートとパンクロックの攻撃性を素直に出したタイトなアルバムに仕上がったと思う。
そのADFが一癖あるインディーレーベル・Ninja Tuneのホープ、THE QEMISTSをサポートアクトに迎え来日公演を行った。前回の来日時はTHA BLUE HERBをサポートに起用し、普段日本語ヒップホップに触れないリスナーも、また逆にTHA BLUE HERB目当てで初めてのADFのライヴを見に行った人もいたと思う。
今回のTHE QEMISTSはADFと同じUK、また音楽性も(ブルーハーブよりは)近いものがあるのだが、いかんせんデビュー~ブレイクからそれほど時間が経っていないという事もあって果たしてどういう音を出すバンドなのか、開演前のフロアからは「ケミスツってどういう音?」などという声もチラホラ。
期待と興奮の入り交じったO-EASTの照明が落ち、ライヴが開始。ドラムが左手、正面奥にマニピュレータ、右手にギター。
(非常に個人的な考えなのだが、ドラムが変な位置にいるバンドはカッコイイと思う 笑)
THE QEMISTSにはボーカルがいない。今回は3人のゲストボーカルがそれぞれ色の違うパフォーマンスで会場を盛り上げた。パワフルな歌唱の男性シンガーMatt Rose、キレのいい男性ラッパーMC Bruno、そして女戦士アマゾネスといった感のある女性シンガーKeisher Downie。カテゴリ的にはテクノ・ドラムンベースという括りに入るのだろうが、ライヴを聴いていて思ったのはメタル!特にギターのリアム・ブラックは貫禄のあるガタイとスキンヘッドのイカツい顔で、そのままヘヴィメタルバンドに加入してもおかしくないほど。メタル直系のディストーションギターと、打ち込みでバキバキに強化されたドラムのグルーヴ、そしてプロディジーを彷彿とさせるサイケデリックでカオスなウワモノによってステージ前はモッシュピットと化し、おいおい、みんなこんな飛ばしてて最後まで持つのか?と思ったほど。Matt Rose自らも観客にダイヴしボディ・サーフィンを披露するというまるでハードコアパンクの様相を呈してきた。Mattが振り回したマイクスタンドが後ろのラップトップに当たりそうになり、思わずマニピュレータ(普段はベース)のダン・アーノルドが「おいおいアブネエよ・・・」と苦笑いする場面も。ボーカルが入れ替わり立ち代わり、インストの1曲を挟んでラストの曲でもモッシュの渦。
観客が持っていた、ケミスツともコラボレーションしたEnter ShikariのタオルをMC Brunoが掲げ、ザ・ケミスツのライヴは終了。みんな汗まみれだ。ゴミも散らかる(笑)
少々の転換の後、プログラミングのサン・JとパーカッションのCyberがセッティング。Cyberによる、ラップとも詠唱ともつかないつぶやきのような中東感あふれる「Bride of Punkara」で幕を開ける。チャンドラソニックとマーティンの弦楽器兄弟も登場し、マッシヴ・アタックのようなぶっといベースとダークなドラムが印象的な立ち上がりでライヴが開始した。MCは前作と変わらずアクタヴェイタとアル・ラムジェンのコンビ。一説によると初代MCのディーダー・ザマンの復帰なんてのも囁かれていたみたい。ADFはメンバーチェンジが激しい。一つのバンドではなく、イギリスにおける一つのバングラデシュ系コミュニティーとして固定メンバーにはこだわらないという姿勢なのだろう。
(しかしこの前作から加入したアル・ラムジェン、顔立ちがかなり我々東アジア人の系統に近く、ポロシャツを着たその姿はまるで「親戚のおじさん」といった風情 笑)
その後も新譜の方向性に近く、パンクロックとツー・ステップ寄りのサウンドで会場はヒートアップ。特に目立っていたのはパーカッションのCyber。あれはなんという楽器なのだろう。時には素手で、時にはスティックを使って、16分を基調に変幻自在のビートを叩き出す。本人はどことなく愛嬌のある顔で、ライヴ中も何かを見てはニコニコとしているピースフルな人なのだが、いざパーカッションソロなんていう場面となるとその姿はさながら鬼神、髪を振り乱し、2本の腕から生み出されているとは思えないほどのリズムを出していた。圧巻。(あの楽器はドールというインド/バングラデシュ伝統の打楽器らしいです)
新譜からの曲を中心に進行したライヴの10曲目、チャンドラソニックのMCから前作Punkaraのリードトラック、Burning Fence!強烈な裏打ちのリズムに引っ張られ、フロアも一気に加熱。
続けて放たれる問答無用のFly overでライヴのテンションはピークに達した。ドラムンベース直系のヘヴィなサウンドはよくよく考えてみると初期の陽光感あふれるダブ~ジャングルとはまるで違うバンドの音になったという感じもするのだが、やはり独特のバングラデシュ・アクセントとエスニックなウワモノによってADFは「らしさ」を失わず、サウンドは変化こそすれ10年以上も確固たる活動を続けてきたのだと思う。
本編が終了し、アンコール一発目はもはや代表曲となったFortress Europe。
イントロ、超攻撃的なヴァイオリンのシーケンスが流れると観客が一気にヒートアップしステージに押し寄せる。Free Satpal RamやReal Great Britainなど、社会的・政治的なメッセージを発信し続けるADFからのメッセージはラストの曲Rebel Warrior。
1980年にThe Clashが提唱した一つの「パンク」という姿勢、またBob Marleyの提示した反抗のためのレゲエ、ラスタファリズムは30年経ってもAsian Dub Foundationという、純粋なイギリス人、ヨーロッパ人だけではなくバングラデシュ系移民にまでたしかに引き継がれている。