働いていて、昼メシを食うというのはわりにナイーヴな問題である。
特に弊社のよーな零細企業だと食堂なんてあるはずないし、みんなで外に食べに行こうというような事もできないし(電話番とか留守番が必要だから)
まず食う時間からしてみんなバラバラだ。
コンビニに買いに行く人もいれば、外に食べに出る人もいる。

俺は割に「一日じゅう会社にいるのも滅入るから外に出る」のが多いのだが、
メシ食ってる時に何かしたいのですよね。お行儀悪いけど。
ケータイ見るのもなんか病んでるし、マンガは知らん。
そこで、某ブックオフで古本をよく買ってメシ食いながら読んでいる。
最初は適当に買っていたのだが、某ックオフには「105円コーナー」があるのを見つけた。
割と「字が並んでいればそれでいい」みたいな所もあるので、105円で適当な文庫本を見繕って読むようになった。
もちろん105円だからってクソみたいな本ばかりというわけではなく、面白いのもたくさんある。
そこで見つけた、桐野夏生の「ファイアボール・ブルース2」。
この人の本は「リアルワールド」が最初だったのかなあ。女子高生のお話。
テラウチという達観した女子高生が魅力的だった。
女性なので、というわけでもないだろうけど女性を描くのが上手だなあ、と。
なんというか、普通の小説で描かれるような何かがあって、
桐野夏生はその何かを既にあるものとして、前提として、さらにもう一歩先をさも当たり前のことのように描いている、と思う。

で、ファイアボール・ブルース2。
なぜ2かというと、それしかなかったから。1がなかったから。
ヒマつぶしに読むようなものなので、何でもいいや精神ですね。
結構ハマったので、1も既にゲットしてあります。
女子プロの話。火渡抄子というハードボイルドなレスラーを、付き人の近田の目線で描く。
プロレスの試合自体が綿密に描かれているというのではなく、女子プロの裏をセンシティブに綴っている。
食ってけないからバイトするとか、美人だからファンがつくとか、ガチとブックの折り合いとか、
またそれが男子プロレスならサラッと描けるようなネタでも、女子になるとどことなくいじらしく、
普段「コノヤロォォー」とか言ってる女子プロの選手がどこか物悲しく見えるのである。
ブルース。タイトルどおりのブルースである。

で、近田はいろいろと思い悩む。たぶんこういう人にはプロレスってのは向いてないんだよね。
頭がいいから、自分が絶対だとは思えない、という。
頭がいいから、いろいろ考えてしまって、セルフィッシュになれない。プロレスラーは自己中でなけりゃ成り立たないと思う。
火渡はパフォーマンスや試合運びがウマイというわけではないけど、圧倒的に強い。
そして、そんな自分に自信を持っているから、スジが通っているから、カッコイイ。
そんな火渡にももちろん弱い部分がある。前述の「もう一歩先」はここです。
普段パワフルで絶対的な実力を持つスター選手の火渡にも、派手な試合の次の日には部屋の隅で膝を抱える一面がある、というのを当たり前のものとして描いている。そこが面白い。
ことさらに「彼女にもこんな一面がある」というのを仰々しく飾り立てたりしない、
こういうのは男には描けないだろうなあ。

近田はストーリーテラーとしての面もあるのであまり特徴的な描写はない。
火渡と並んでもう一人、与謝野という選手がいて、この選手も良い。
与謝野はルックスがよく、オーソドックスで上手なプロレスをするのでアイドル的人気がある。
近田と与謝野は同期で、なかなか芽が出ない近田はどんどん先を行く与謝野に軽く嫉妬心があるのだが、
与謝野の方は近田に対して仲間意識が強く、頭がよくて常識的な近田に甘えているところがある。
甘えているので、近田を傷つける。直接的ではないにしろ、近田にプロレスをやめさせる遠因を作ったのも与謝野。卑怯なマネをして、近田を傷つける。
それでも近田は与謝野に対し決定的な拒絶を見せない。
優しいのだ。頭がイイのだ。

プロレスを辞めると言った近田に、与謝野は泣きながらこう言う。
「近田ちゃんがいなくなったら寂しくてやっていけないよ」
近田はこう言う。
「あんたは火渡さんとやれるくらい伸びる、いずれは火渡さんとの2枚看板になるよ」
「そんなのいいよ。そばにいてよ」
ウーン。いじらしい。女子プロを見る目が変わりそうだ。

残念ながら近田がプロレスをやめたので、ファイアボール・ブルースの続編は出ない。
代わりに、女子プロを観に行こうかな。