先日、東京五輪のエンブレム候補として、A~Dの4つの案が公開されました。
(下記A~Dのロゴは、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会Webサイトより引用)
A. 組市松紋(くみいちまつもん)
B. つなぐ輪、広がる和(つなぐわ、ひろがるわ)
C. 超える人(こえるひと)
D. 晴れやかな顔、花咲く(はれやかなかお、はなさく)
デザイナーの佐野研二郎氏が創作した東京五輪の公式エンブレムが使用中止となり、組織委員会が応募条件を緩和した上で、公募された新エンブレム。
今回のエンブレム騒動は、海外デザイナーからの指摘に始まり、説明会見を開いたものの、その後、次々とネット上で過去の作品について問題が発覚し、最終的に取り下げる事態となりました。
五輪エンブレムが、このような経緯で取り下げられた結果、私は、次に採用される新エンブレムには、次の二つの高いハードルが課されるのではないかと考えます。
一つ目は、商標法や著作権法などの法的な問題です。
商標法の問題
商標権の効力は、商標が同一または類似であり、かつ、その商標を使う商品またはサービス(役務)が同一または類似であるときにのみ及びます。
(特許庁ホームページより引用)
したがって、一般的に、出願前に商標調査をする場合、使用する商品やサービスの範囲に限定して調査をし、そこで類似の商標がなければ、登録可能性が高いという判断ができます。
しかしながら、オリンピックのエンブレムは、Tシャツやキーホルダーなどにグッズ展開されるのはもちろん、パートナー企業も使用するものですから、この商品やサービスの範囲を限定することにはリスクがあります。
したがって、審査委員会も、特に商品やサービスの範囲を限定せずに、調査をしたものと思われます(佐野氏のエンブレム(商願2015-70541号)も、第1類~第45類の全区分において出願されていました)。
商願2015-70541号の佐野氏創作のエンブレム。
第1類から第45類の全区分に出願されていた。
すなわち、オリンピックのエンブレムは、商品やサービスを限定せず、登録されている全ての先登録商標と類否判断をしなければならない、ということです。
その上で、全区分について出願し、登録をしなければなりません。
費用も区分数に応じて高くなります。
45区分の場合は、広範囲にわたる商標調査の費用と、日本国内の場合だけでも、出願費用に390,400円、登録費用に1,269,000円がかかります。
著作権法の問題
著作権は、無方式主義を採用しており、商標権のように登録されて初めて権利が発生するものではなく、著作物の創作とともに発生することとなります。
したがって、その全てが公表されているわけではなく、権利の発生時期や権利者などがはっきりしない場合もあります。
それだけに、ロゴマークのような場合は、商標権より調査が難しいといえるでしょう。
また、似たようなものが見つかった場合、それに依拠して創作されたものかどうかが、著作権侵害の成否のポイントとなりますが、これも証明するのが難しいものです。
しかし、これらの法的な問題については、佐野氏のエンブレムも商標調査及び出願をしていましたし、あくまで佐野氏の発言が真実ならばですが、著作権法上の問題もクリアしていたのではないかと思います。
問題は、二つ目のハードルです。
二つ目のハードルは、一般的な人たちの価値観をもって、「似ていない」と判断できるエンブレムを採択しなければならない、ということです。
これはもちろん、佐野氏のエンブレムにも課されていた問題ですが、新エンブレムの採用の際は、その注目度が違います。
佐野氏のエンブレムが、前記のような経緯で取り下げられたことで、日本はもちろん、世界中の人たちが、ネットを駆使して類似の商標がないか調査することでしょう。
超えなければならないのは、デザイナー感覚での非類似というハードルではなく、一般の方(デザイン業界にいない方)の感覚でのそれです。
佐野氏のエンブレムが取り下げられた際、Webサイトやアプリなどで様々な立場の人のコメントを読みましたが、デザイナーと一般の方の類否判断の感覚には、大きな隔たりがあると感じました。
デザイナー業界の人たちは、エンブレムやロゴを様々な理念や思想をもって、創作します。また、一見、何とも思えないような細かなところに工夫が凝らしてあったりするのを、今までの経験から知っています。
したがって、僅かな違いでも、そこから意味を汲み取りますし、コンセプトや創作過程が違えば、非類似と判断することが多いように思います。
一方、一般の方は、 普段、そのようなエンブレムやロゴの創作に携わることはありません。
また、多くの場合、一般の方は、エンブレムの完成形のみに接するのであって、 そのコンセプトや創作の過程を知ることは少ないといえるでしょう。
したがって、当然といえば当然ですが、パッと見で、似ているか似ていないかを判断することになります。
すなわち、ハードルの高さとしては、
デザイナーの非類似のハードル<一般人の非類似のハードル
です。
そして、今回の騒動で改めて明らかになりましたが、世界のスポーツの祭典であるオリンピックエンブレムとしては、超えなければならないハードルは、一般人のそれなのです。
それでは、次回のエンブレムは、どのようにして採用すればよいのでしょうか。
まずは、当然ながら、先願・先登録商標の調査は必要でしょう。
他人の権利と抵触していないか、抵触する可能性はないかを確認します(ただし、これもデータベースに掲載されるまでの約一ヶ月はブラックボックスですので、注意が必要です)。
なお、今回のA~Dの4案は、いずれも商標調査 及び 商標登録出願 の手続きは済んでいるようです。
そして、次に、大切なのが、Web上での検索です。
画像検索サイトは、数多くありますが、その中の一つが、Google画像検索です。
例えば、弊所のロゴ(下記)で検索してみます。
検索方法はとても簡単。
Google画像検索で、画像をアップロードし、検索ボタンを押せばいいだけです。
弊所のロゴの場合、全体的にオレンジ色の標章が抽出されました。
また、「RevIMG」という画像検索サイトもあります。
これは、類似の画像とのマッチ率も表示してくれます。
弊所のロゴの場合、最も似ているものでも、33.39%という結果でした。
これらのサイトは、WBS(ワールドビジネスサテライト)でも紹介されましたが、大手のロゴ制作会社も、このようなサイトを利用して、完成後のロゴの最終チェックをしているそうです。
佐野氏のエンブレムも、このWeb検索をしていれば、類否判断は別として、リエージュ劇場のロゴは発見できた可能性があるでしょう。
最後に付言いたしますと、採用したエンブレムの創作者の過去の作品については、リスクを軽減する意味でも、ある程度、調査をしておく必要があるでしょう。
このように、次のオリンピックエンブレムには、越えなければいけない二つの大きなハードルがあります。
特に、二つ目のハードルは、今回のエンブレム騒動により、より顕著に、より大きくなってしまいました。
2020年まで、あと4年。
私は、日本国民はもちろん、世界中の人たちに愛されるエンブレムが採用されることを祈っております。
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