地下アイドルもSNSも闇がいっぱい。

安っぽいドッキリ企画によって炎上したアイドルが主人公のサスペンス長編であり、はじめましての作家さんでしたが、ストーリーも展開も闇深くて始終面白く読めました。ラストがまた救いが無くて悲惨極まっていて実にいい。地下アイドルの実態とかSNSの模様なんかも妙にリアルな感じがして、読んでいて息が詰まりそうなものがありました。

そして隠れた相手を探そうとする鬼たち。「鬼」とは不可視の存在という意味もあるそうですが、SNSにおける視えない相手からの中傷たるや、それはまさに鬼の所業にも思えたものでした。

[内容]

プロローグ

第1章

第2章

第3章

エピローグ

CDリスト

[梗概]

三人組アイドルグループ「となりの☆SiSTERs」。そのセンターである青山柚莉愛は、マネージャーの入れ知恵により、CDを売るためのテコ入れとして生配信ドッキリを行う。

その配信はファンのあいだで話題となるが、ドッキリだと分かるやいなや、柚莉愛に対して批難の声が向けられるようになる。それは柚莉愛推しのみならず、彼女たちのファン以外をも巻き込んだ炎上騒動へと発展してゆくのであった。

炎上の当事者たるアイドル・柚莉愛の視点と、その炎上に油を注ぐオタクの視点で話が進んでいきます。その中ではSNSとか配信チャンネルとか特典会とかアイドルの現場がいろいろ出てくるわけですが、その書きぶりがリアルであり、こうゆうファンいるよなって感心しながら読んでいました。

単行本は2020年2月の上梓なのでコロナ禍の超初期のわけですが、その後のコロナ禍で顕著であったSNSにおける軽挙や悪意に対して、どこか示唆的な部分もあったように思います。

そして渦中の主人公の脳裏には、アイドルであること人前に出ることに対して葛藤と恐悸が去来するのです。

そんなアイドルは悪趣味なドッキリを強いられ、ファンからは叱責され、のみならず興味本位の野次馬による罵倒も止むことはない。それだけ身を粉にしても、心が疲弊し切っても、大した売り上げには繋がらないわけで、作中で「割に合わない」的な述懐がありましたが、傍から見て妙に首肯してしまうものがあります。実際のところ「地下アイドル」という職業はどれくらい稼ぐものなのだろうなとは思いましたね。

そして炎上騒動の果て、ここまで読んで来ると主人公のアイドルには惻隠の情が湧くというか可哀想にも思えてくるわけですが、最後は可哀想では済まない悲惨な事態が起こってしまうわけです。間一髪助かりそうな展開もあり得そうでしたが、決してそっちには行かず、徹底的なダークエンドに殉じるその心意気やよし。

また、ジャンルとしてはミステリーだと思うので、何となく仕掛けはあるんだろうなと想像しながら読み進めていましたが、実際仕掛けは仕込まれており、それを悟った転瞬はゾクッと来るものがありました。よくあると言うならよくあるパターンではあるのですが、迂闊にも気付かなかったもので、最後まで読んだらもう一回最初から読み直したくなります。

残酷熾烈のアイドル世界。地下アイドル、そしてSNSの闇が著しい一篇です。

読了：2023年12月12日

◆読書感想【＃柚莉愛とかくれんぼ / 真下みこと】