2025年のはじめましては太田紫織さん、斜線堂有紀さん、王谷晶さん、君野新汰さんなど。加えて、『すべてがFになる』や『占星術殺人事件』といった往年の名作をやっと読めたことも、なかなか感慨がありました。
2026年も素敵な本と出会えますよう。
↑2025年のランキング
2025年の読書メーター
読んだ本の数:170冊
読んだページ数:59452ページ
以下、抜粋です。
■息子のボーイフレンド
1月27日 著者:秋吉理香子
笑いあり涙あり、若いゲイカップルとその家族の素敵な物語でした。ややもすれば重々しい雰囲気になってしまうテーマであるとは思いますが、案に反して特に前半はユーモラスであり、読み進めるだについ声出して笑ってしまいます。なかなか斬新な書きぶりと言えるでしょう。もっとも、当然能天気に笑いっぱなしではなく、話は本人たち、両親、第三者の視点で進んでいき、それぞれが直面する葛藤辛苦が描かれています。理想論と現実と自分の気持ちと相手への思いやりがせめぎ合うなか、最後に待っていたものは、労りと慈しみが胸に迫る祝福の虹でした。
■方舟
2月18日 著者:夕木春央
話題になるのも肯う強烈な一篇であり、最後の衝撃と残る余韻は端倪すべからざるものがありました。特異なクローズドサークルにおける連続殺人、地下からせり上がってくるタイムリミット。そしてそれらと同じくらい恐ろしかったのは、大多数の命を救うために一人を犠牲にしようとする、想像するのも悍ましいシチュエーションでした。そのストーリー展開が斬新でありテキストも読みやすくて、始終読み耽っていました。何より衝撃的だったのは、謎解きパートの直後とエピローグ。白と黒が反転する衝撃は実に白眉であり、最期の叫びに背筋の凍るは必定。
■倒立する塔の殺人
3月20日 著者:皆川博子
読み終わった後に歎息を禁じ得ない、とても素敵な一篇でした。戦時下のミッションスクールにおいて、女学生の間で書き継がれる小説。タイトルは『倒立する塔の殺人』。虚と実、愛と憎、地と図、それぞれが行き交いながら語りは進んでいき、そしてその「小説」に秘められた私慝が語られるラストは、毒と死が香り特にゾクッと来たものでした。自分の好きな世界だこれは、と快哉を上げたくなります。総じて好きな人は好きというか、好みはやや分かれそうな気がしますが、それでも美しく邪知深く、他の追随を許さない味わい深さを湛えていると思います。
■バッグをザックに持ち替えて
4月3日 著者:唯川恵
恋愛小説の大家による登山エッセイという、なかなかユニークな趣向の一冊と言えるでしょう。浅間山、八ヶ岳、谷川岳、富士山。名だたる山々にチャレンジしてきた、その体験談が綴られています。同じ登山経験者や愛好家であれば、語られている登山の素晴らしさも苛酷さも、きっと共感を禁じ得ないのでしょう。そして、著者は五十代から登山を本格的に始められたということで、それでエベレスト街道にまで至ったわけですから、月並みですが、何かを始めるのに遅すぎるという事はないという常套句を、地で行ってらっしゃるなと感心すること頻りでした。
■覘き小平次
5月5日 著者:京極夏彦
襖がすうと開き、そして閉まってゆくその幕終たるや、思わず嘆息が漏れてしまうのです。古典怪談の傑作を換骨奪胎した、京極版「小幡小平次」。自分にとっては『姑獲鳥』に比肩するくらいのフェイバリットです。隙間から覘く稀代の幽霊役者。ある者は怨嗟を向け、ある者は畏怖を抱き、ある者は虫酸を覚える。旅打ち興行において、それぞれの宿痾が斉放するさまはこの上なくおぞましく、そして業が深いのです。それでいてそれを綴る筆致を追っていく愉悦がまた、他の追随を許さないものがあり、まさに京極小説における究竟のひとつだと思っています。
■ボビー・フィッシャーの究極のチェス
6月14日 著者:B・パンドルフィーニ
伝説的プレイヤーのタクティクスに触れられる101問。自分も一問一問考えながら進めていましたが、たまに正着を見つけられはするものの、それでも多くの問題で見当がつかず、しびれを切らして解説読んでそして瞠目するという流れがワンセットでした。まるでもって思い付かなさ過ぎるムーブばかりなので、自分のレベルだとあまり参考にならないのですが、トレーニングマテリアルというより読みものとして面白く読んでいました。劣勢に見えてもそれを覆す妙手があり、窮地であっても活路を開く好手がある。まさに端倪すべからざる101の絶技です。
■梅雨物語
7月12日 著者:貴志祐介
梅雨空のような微昏さを帯びた三篇。虚と実と夢と現が綾を為し、読む者に不安感を齎します。句集に隠された秘密、夢に現れる黒い蝶、庭に群生する幻覚のキノコ。どの譚も奇怪と不穏で満ちており、そして話が進んでいくにつれ、それぞれの抱える業が浮かび上がってくる。「ぼくとう奇譚」はおよそ予想だにしない展開であり、「皐月闇」の業深さ、「くさびら」の最後に去来する哀切も実にいい。『秋雨物語』を読んだ時も感じましたが、ホラーやミステリーというより眩想小説とでも呼びたくなる佇まいであり、独特の読み味が堪能できる好篇ばかりです。
■妖怪天国
8月27日 著者:水木しげる
水木しげるの幸福論が遺憾なく綴られたエッセイ集です。さまざまな媒体に寄稿されたエッセイが集められており、語られている内容は妖怪のことや戦時中の体験、日常的なエピソードなど。思わず笑ってしまう滑稽談もあれば、慧眼恐れ入る主張や独自の視点もあり、どこを掬っても水木大先生の世界観が楽しめます。そして文章も独特のリズムや言葉選びで、それがまた実にいい。70年代80年代に書かれたものが多いようですが、内容としては令和のこの時代でも唸るものがあるというか、寧ろいまの時代だからこそ一層含蓄が感じられるような気もします。
■ババヤガの夜
9月24日 著者:王谷晶
バイオレンスと哀しさが糾う一篇だったと思います。ヤクザの一人娘とその護衛として雇われることになった暴女。まったく違う境遇ではあるものの、ともにどこか諦めを抱えた二人が綾成すバイオレンスアクション。最初のほうこそ両者に対して得体の知れなさを感じていたのですが、読み進めるにつれて徐々にシンパシーを覚えていったものでした。特に最後の静謐が実にいい。そして単なるバイオレンス小説ではなく、意表外の仕掛けが仕込まれているのも出色。読んでいて多少違和感もあったので、その仕掛けを悟った刹那はなるほどと得心したものでした。
■魔女裁判の弁護人
10月28日 著者:君野新汰
魔女として勾留された女性を魔女裁判の専門家が弁護するという、そのガジェットがまず魅力的です。話の通じない魔女説肯定派の主張を覆すため、論理と証拠をもって無罪を勝ち取ろうとする。現代が舞台の小説では味わえないであろう独特の世界観が面白いし、ストーリー自体も出色なので先へ先へと読み進められます。何より犯人が指弾されて終いではなく、更にその先があるのも嬉しいところ。虚と実が反転するような仕掛けは、想像の及ぶ部分も多少ありましたが、それでも見事だと思いますし、この読み味と読後感は白眉であり快哉を送りたくなります。
■兇人邸の殺人
11月13日 著者:今村昌弘
ホラー映画のようなシチュエーションや特異なクローズドサークル・安楽椅子探偵が相和した、唯一無比のミステリーだと思います。夜に目覚めては鏖殺を繰り返す殺人鬼。その殺人鬼が徘徊する邸内からは抜け出すこと能わず。猟奇と狂気が香るなかで不可解な殺人が起こっていく訳であり、そのストーリー展開の面白さは群を抜いており始終心地よいドライブ感で読み進められました。特に巨人の正体が判って以降の顛末は、哀切去来するものがあり、それまた意外の感。全体通してホラー的な趣もありますが、下地としては王道的なミステリーが楽しめました。
■猿
12月29日 著者:京極夏彦
この読後感たるや他の追随を許さない、京極小説でしか成し得ない、稀代の「怖い」小説であると思います。岡山の奥のそのまた更に奥、曾祖母の遺産を相続するため、縁続きの女性が限界集落へ赴く。辺境の地を支配する怖さ。理屈や意志の力では御す事のできない怖さ。『幽談』収録「こわいもの」に通底する恐怖論もあれば、オチや全体的な佇まいには「」談シリーズの長編版とも言うような趣を感じました。また、最後3ページにおける転調には凄いところに放り出された感もあるし、冒頭一文の「猿がいる」がこう効いてくるとは予想だにしませんでした。












