堕落した正義とひとの心に潜む悪心、それらが起こす痛みが際限ない一篇でした。

通称「悪魔」による連続殺人事件。内臓を抜かれ骨を砕かれ天井から吊るされるという、極めて凄惨でグロテスクな殺害状況ではあるも、それはさながら芸術作品のような様相も呈しているという。猟奇的であり陰鬱な雰囲気を湛えつつも、『怪盗探偵山猫』に通底するドライブ感は心地よく、始終いいテンポで読み進められました。

真相はある程度予想の埒内ではありましたが、さらにその果て最後は痛みと哀しみのダークヒーロー的な趣向も感じられ、続編を読みたいと思うような終わり方になっていると思います。

 

 

 

 

[内容]

プロローグ

第一章 予言者

第二章 黒蛇

第三章 使徒

第四章 悪魔

エピローグ

 

 

[梗概]

三年にわたり連続殺人を犯してきた通称「悪魔」。舌が抜かれていたり首が切断されていたり、「悪魔」の起こす事件はどれも目を伏せたくなる程の猟奇性を帯びており、さらにそれぞれの死体には悪魔を象徴する逆さ五芒星が刻まれていた。

そんな中、多様化する犯罪に対応するため警視庁には「特殊犯罪捜査室」が新設され、刑事・天海志津香も当該部署に配属されることになった。その天海のパートナーは、捜査一課において検挙率トップだった阿久津誠。しかし、彼の見透かすような言動や他者を拒絶するような振舞い、そして謎めいた佇まいにより、天海は良好なパートナー関係を築くことに難儀する。

多難な前途を予感しながら天海は、阿久津とともに「悪魔」の事件の捜査を進めていく。

 

 

猟奇的でグロテスクな殺害状況がインパクト強の導入。事件の犯人は明らかではあるのでミステリーとしてそこまで意表外ではないのですが、単純にそれだけで終わらずさらに真相に捻りを入れてくれているのは嬉しいところ。主人公(阿久津)のミステリアスな行動・言動に関してもその秘密が後半で明かされる訳ですが、事件そのものもさることながら、その秘密とその後のエピローグにおける展開も出色であったと思います。

 

 

そしてもう一つインパクトが大きかったのは、ストーリーの前半から表出している警察機構の腐敗。もっとも、それは警察という組織に限った話ではないわけで、組織が大きくなってくれば、所期の在りようを見失ったり私利私欲に走る者が現れたりする。その結果組織の内部には悪が生まれ、それは澱のように溜まっていき、やがては周囲も腐敗させてゆく。このストーリーにはそんな示唆を含んでいるような印象がありました。さらに、個人が組織に対して正攻法では抗えないという無力感、あるいはそんな己に対する憤激や悔恨も描かれていました。

 

 

全編をとおして、著者の別シリーズである『山猫』のような痛快感は見られず、むしろ陰鬱でうす暗い雰囲気に終始しており、そうゆう意味でこちらのほうが好みだという人も多いのではないでしょうか。実際自分もこの重々しさが好きだなって思って読んでいました。

また、本作はシリーズの一作目にあたり、現時点で本作を含めて四作書かれているようで、今作のメンツでこの先どのようにストーリーが展開していくのかが気になるところであります。阿久津はともかく、天海とかその上司の大黒とか、本作ではちょっと顔がイメージできない感があったので、その辺は続編以降で深掘りされるといいかなと期待しているところ。ストーリーの展開の仕方やキャラクターの動き方にしてもいろいろ考えられそうな気がするし、これから広がりを予想させるものがあります。

 

人間の胸中に生まれる邪心野心、それが引き起こす事件、そして翻弄されてしまう者たちのドラマが胸を打つ一篇でした。全体的にスリルもサスペンス感もあり、ドラマチックなストーリーになっています。

 

 

読了:2026年5月15日