種田山頭火検定公式テキスト | アパートメント3号室

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「種田山頭火検定公式テキスト」


ひょいと四国へ晴れきってゐる


私の父は太宰治のようなろくでなしであり、さっさと死んでしまえ、と、子どもの頃から何度思ったか、何度言ってきたかわからないほどであるが、このろくでなしが老境に際し、深く傾倒し出したのが種田山頭火である。

先月、この因業親父が心臓患い、放っておけば余命いくばくもないので大手術を行うこととなったため、唯一人の身内であるあなたに来てもらわないいけなくなった、と、迷惑この上ない連絡がきてしまい、予定していた仕事もできずに四国まで出向くことになった。


死を覚悟したのか、父の書架にはもうたいした書籍は残っていなかったが、山頭火関連の書籍はいくつかあり、彼が山頭火に魅せられ、研究しているのだと聞いてはいたが、何故そうも惹かれたのかは分からなかった。

かと言って、それらの資料を手に取る気にもならず、イラストレーターの鈴木さんの絵が目当てで、Kindleの読み放題で「種田山頭火検定」の公式テキストをダウンロードしてみたが、四国から戻る飛行機内から体調を崩し、どうにも読む気にならず、ようやく、先頃目を通すことができた。


山頭火という人、因業親父と同じく、どうしようもないろくでなしである。関わった人は不幸というか、この人の詠む句を天才だ、非凡だと信じでもしない限り、浮かばれないだろう。


山頭火の死んだ数週間後に父は生まれた。酒こそ飲めなかったものの、家族や友人知人に迷惑をかけ通し、自己嫌悪と自己顕示にまみれ、自己憐憫に浸りながらも、翌朝にはまるで生まれ変わったような気持ちになって、また同じことを繰り返す愚かさ、弱さ、浅ましさに、同じく仏門に入って得度もしながら、未だ煩悩のままに見苦しく生きている自分と相通じるものを感じたのだろうか。


ふまれてたんぽぽひらいてたんぽぽ


思えば私も同じ愚を繰り返しながら生きており、常に周囲に迷惑のかけ通しである。

嫌になるほど似ている。


気づけば、悔し涙に頬を濡らしていた。