あれは冬休みのある朝だった。


食堂に出勤したはずの鳶さんがひとりぽつんと座っていた。

よく見ると手にはコップ酒。すっかりできあがっている。

さらによく見ると床に何か滴っている。


おもらし。


見てはいけないものを見てしまったと感じた。


母がワタシの気持ちに気づいたのか、きちんと説明してくれた。


この鳶さんには今日、現場の班長という役割を与えたという。


現場の班長といったらそれだけ腕を認められているということで

普通なら嬉しいことなはずなのに。


ワタシはまだプレッシャーという言葉を知らなかった。


鳶さんはその役割が嬉しい反面とても重荷だったようで、

朝から酒に逃げてしまったのだ。


中学にあがる頃、遅ればせながら

自分がプレッシャーに弱いことに気がつく。

アガリ症で人前でなにかすることが大嫌いだ。


いままで逃げ出したくなることもたくさんあったし、

逃げたこともある。仕事で神経症になったこともある。

そして、これからもあるだろう。


逃げ出したくなる時に、よくこの鳶さんのおもらしを思い出す。


なんだかんだいってもワタシは、

人前でおもらしするほどは追い詰められてないんだ。

まだまだ格好つけてる余裕があるじゃないか。