「いい子でいなきゃ」
その言葉が
息をするみたいに
あたりまえだった
誰かに迷惑をかけないように
怒られないように
気づけば
それが “わたし” の全部になっていた
一卵性双生児の妹と
いつもふたりで生きてきた
顔も声もそっくりで
身長も2センチ妹が高いくらい
ほとんど同じ感覚で
分身みたいな存在だった
輪の中に入れない私たちは
ふたりだけで遊ぶのが日常だった
だから
寂しいなんて思ったことはない
そう
ずっと思ってきた
でも ここ数年
自分と向き合う時間が増える中で
ふと気づいたんだ
「ほんとは 寂しかったんじゃないかな」って
幼少期の記憶はあまりないけど
妹とふたりでがんばっていたあの頃を思うと
胸の奥が少しきゅっとするんだよね
明後日
母が県大会のグラウンドゴルフに出るために
実家から船で来る予定なんだ
会うことになっている
2年前
私は相当やさぐれていた
50歳を目前にして
遅れてやってきた反抗期
「いい子」でいることに疲れて
初めて母に思いをぶつけた
だけど
母はその気持ちをまるごと拒んだ
まるで私が気が狂ったみたいな扱いを受けて
「どうしてそんなこと言うの」と責められた
あの時
私はもう怒り狂った
そして
3歳児がギャーギャー泣きわめくように
いっぱい泣いたな
寄り添ってほしかったんだ
ただ
「そうだったんだね」と言ってほしかったんだ
突き放される痛み
寄り添ってもらえない悲しさ
いっぱい泣いたけど
胸の奥に
石みたいなしこりが残った
それでも今
あの時の母を思うと
あの人もまた
自分の中の寂しさを抱えたまま
精一杯生きていたんじゃないかと思えるんだ
しこりはまだ残っている
会うとなると
すこしやっぱり緊張する
でも
親と過ごせる時間には
限りがあることもわかっている
だから
今のうちに話せることは話したい
わかり合えなくても
少しでも心が近づく瞬間があるなら
それを大切にしたい
きっと今回は
あの時言えなかった
「ごめんね」と ほんの少し
やわらかく伝えられる気がしている